8.旅のはじまり
近所に住む牧場主たちが、オリヴァー牧場の異変に気が付いたのは昼時になったころだった。
「な、なんだこれは……!?」
牧場主2人は、唖然とした様子で変わり果てた牧場を眺めていたが、冷静な牧場主はオリヴァーを見つけると駆け寄っていく。
「オリヴァーさん、オリヴァーさん!」
他の牧場主たちも、オリヴァーたちの側に集まると険しい顔をした。
「なんてことだ……」
「いったいどうして?」
牧場主の1人が辺りを見渡すと、黒焦げになった賊に近づいた。
「なあ、こいつ……もしかして賊か?」
「そうだろうな」
「とりあえず、自警団を呼んで来よう!」
村にいる兵士や自警団員は、それから1時間ほどで駆けつけると詳しく取り調べを行ったが、賊と思しきメンバーが黒焦げになっているため、捜査も難航した。
「これを、どう考えるべきか……」
責任者である隊長が腕をこまねくと、部下である兵士の1人が言った。
「もしかしてこれ、分け前で賊が揉めて仲間割れが起こったんじゃないですか?」
他の兵士や自警団員も頷いた。
「賊どもが仲間割れを起こすのはよくあることだしな」
「で、身元がわからないように黒焦げにしたって訳か」
「なるほど。確かにそんな感じだな」
隊長が頷くと、それ以上の調査は行われなかった。
一方その頃、オスカー一行は森の小道を歩いていた。
『ところでオスカー、ここから先はどうするの?』
巫女であるアンジェリカが内部から話しかけると、オスカーは森を見渡しながら言った。
「まずは、馬の群れを探そうと思う。できればユニコーンがボスをしている所がいいな」
『それは、あまりお勧めできないかな』
「どうして?」
オスカーが質問をすると、アンジェリカは苦笑しながら言った。
『野生のユニコーンは人間嫌いだからね。私と契約しているアンタを受け入れるとは思えないよ』
「な、なるほど……」
マベリックもオスカーを見た。
「人間に友好的な者がいたとしても、俺……いや、私を見ればいい顔はしないでしょう」
「狼は馬の天敵だから?」
「その通りです、オスカー様」
マベリックの敬語を聞いたオスカーは落ち着かないと思った。
「マベリック。なんか変だよ……いつも通りに話して」
「そうは参りません。何せオスカー様はディープアライズの後継者。もはやただの仔馬ではないのです」
「落ち着かないなぁ」
少し歩くと、マベリックは耳をピンと立てた。
「隠れてください、人間がいます」
「え……? 本当だ」
オスカー一行が身を隠しながら様子を窺うと、その人間は荷物を背負いながら崖下の道を進んでいた。その先に目を向けると、数人の商人風の男たちが立ち止まっている。
「どうしたんですか?」
「アンタ、ここから先にはいかない方がいいぜ」
「この先の街道には、傭兵崩れがたむろしてるんだ」
「マジか……」
「ああ、連中と出くわすと身ぐるみを剥がれるからな」
「しばらくここで足止めだな」
オスカーとマベリックも、藪の中でお互いを見あった。
「別に急ぐ旅でもないし、僕たちもゆっくりと待とうか」
「賛成です。わざわざ面倒ごとに首を突っ込むこともないでしょう」
間もなくオスカーは森の中で草を食み、マベリックも食料を調達することで時間を潰した。
「ついでに偵察もしてみましたが、商人たちの言った通り武装した若者たちがたむろしていました」
「なるほど。彼らはこんな森の小道で何をしているんだろうね?」
「気になるところではありますが、まあ、関わる必要もないでしょう」
オスカーとマベリックがくつろごうとしたとき、アンジェリカの声が聞こえてきた。
『ねえ、あれを見て』
「ん……?」
アンジェリカの示した方向を見ると、何と神父と僧兵たちが歩いていた。
「あれは……教会の人たち?」
『何をするつもりかな』
教会の一同が歩いて行くと、立ち止まっていた商人たちは慌てて道を開けた。
一行が向かった場所は、あの傭兵風の男たちの集まる場所だった。傭兵の中でも特に年配の戦士は髭をさすりながら言う。
「神父さん、予定通り20人は集めたぜ」
「助太刀、感謝いたしますぞ……戦士の皆さん」
僧兵風の男性は言った。
「して、問題のキメラというのは?」
「こっちだ。谷底の水飲み場で我が物顔さ」
その言葉を聞いた神父は険しい顔をした。
「自然の摂理に反した存在を野放しにはできません。皆さん……何としても人としての強さを示しましょう!」
力強く神父が鼓舞すると、戦士たちは一斉に剣や槍を空に掲げた。
オスカーとマベリックも、物陰からその様子を眺めていた。
「なるほど。彼らはキメラを討伐するために集まったんだね」
「僧兵15に傭兵22。お手並み拝見といきましょう」
「うん」
神父率いるキメラ討伐隊は、間もなく谷底に向けて進軍を開始した。
こんにちは。僕らは旅の商人たちです。
いやー、まさか通りすがりの僕たちが出番を貰えるとは……
地道に一般人をしていると、いいこともあるんだな。
さて、我々モブ商人たちからのお知らせです。
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……それにしてもこのズタ靴、本当に臭うな
新しい靴も高いからなぁ
一般人が苦労するのは、どの世界も一緒なのかもしれん




