7.天馬行空
「決闘!?」
マベリックが青ざめた顔をしたまま聞き返すと、半透明の牝馬リトルアライズは頷いた。
『私も風の角を賭けます』
「うん」
『勝負はこの牧場の練習用コースで行う……というのはいかがでしょう?』
オスカーは頷いた。
「わかった。2周で決着としよう」
リトルアライズは微笑を浮かべた。
『さすがはオスカー。自分の適性がよくわかっていますね』
話がまとまると、リトルアライズとオスカーはスタート地点へと向かった。
オリヴァー牧場の練習用コースは1周1005.85メートル。
コースの大半は砂や泥道だが、手入れが行き届いていないため、ところどころに石が落ちていたり草が生い茂っている状況である。
特に先ほどの武装盗賊との戦いで、一部が破損し、飛び越えなければならない箇所が3か所できていた。
マベリックは、オスカーとリトルアライズを眺めながら唸った。
「リトルアライズは104戦、勝ち星なし……だけど経験豊富なライバルであることに変わりない」
その体からは、脂汗が流れ出てくる。
「それに、死後に風の精霊に認められたってことだろ。これはヤバい相手じゃないのか?」
マベリックの心配をよそに2頭はスタートラインについた。
『マベリック、お願いします』
「わかった」
マベリックは2頭を見ると、険しい顔をした。
「では……はじめ!」
開始と同時にオスカーは駆けだした。オリヴァー練習用コースはほとんどが円形で、ゴールのある最終直線以外は、全てコーナーという変わった形状をしている。
開始からわずか5メートル強で第1コーナーがあり、オスカーは50メートルほどを走って壊れた柵を飛び越えた。
『……』
リトルアライズは、10メートルほど後方を走っていた。彼女も壊れた柵を飛び越えてオスカーを追う。
オスカーは特に後ろを意識することはなく200メートルを走り、2つ目の障害物を飛び越えて第2コーナーへと入った。
リトルアライズはまだ動かない。オスカーは200メートルを走って、第3コーナーへと入ると、そこでも200メートルを同じペースで走って行く。
そこで彼は、3つ目の柵を飛び越え、第4コーナーへと入った。
マベリックは唸る。
「今のオスカーとリトルアライズの距離は12メートルほどか……この勝負、どうなんだろう?」
リトルアライズは、柵を飛び越えたもののオスカーとの距離が更に2メートルほど広がった。どうやら彼女は障害物を飛び越えるのは苦手らしい。
オスカーは直線を通り抜け、2周目に入った。
第1コーナーへと踏み込むと1つ目の壊れた柵を飛び越えた。リトルアライズとの距離は15メートル。オスカーは汗をかいていたが表情にはまだ余裕がある。
『芝は駄目。ダートもいまいちですが……』
2つ目の障害物を飛び越えると第2コーナーへと入った。リトルアライズとの距離は17メートル。
その青く大きな馬体が第3コーナーへと入った。リトルアライズとの距離は15メートル半。
「…とう!」
オスカーは最後の柵を飛び越えた。第4コーナーへと入るとリトルアライズも飛び越える。2頭の距離は17メートル。
『障害物が混じると、坊やの走りは豹変する。息遣いに筋肉の動き、そして体力』
リトルアライズはそう呟くと鋭くオスカーを睨みつけた。
――やはり貴方は、ボン様の元で障害走馬になるべきです!
オスカーが最後の直線200メートルに入ると、リトルアライズも少しずつ追い込みをかけはじめた。
両者の距離は15メートル。
オスカーは思った。リトルアライズも思った。このレースだけは絶対に譲れないと。
ゴールからオスカーまで150メートル。オスカーからリトルアライズまで12メートル半。
ゴールからオスカーまで100メートル。オスカーからリトルアライズまで9メートル。
オスカーの全身からは汗がしたたり落ちていた。ゴールまであと一歩だ。だけど、リトルアライズの気配がどんどん近づいてくる。
ゴールからオスカーまで75メートル。オスカーからリトルアライズまで6メートル半。
怒涛の足音が迫ってくる。母さんに、いや相手が母さんだからこそ負けたくない。どうすればいい。
危機を感じたとき、背後から強烈な風を受けた。
――そうか、母さんは風の力を用いているのか。残りのオーラは少ないけど、この距離なら……!
ゴールからオスカーまで50メートル。オスカーからリトルアライズまで3メートル半。
オスカーは自分の中にある炎の力を全て用いた。心臓が今までになく軽快に動き、体中の血管がスムーズに血を流し、体中の筋肉に溜まった疲労を取り除いていく。
オスカーの体全体が、赤々と輝いていた。
――これであと少しなら走れる!
ゴールからオスカーまで25メートル。オスカーからリトルアライズまで1.5メートル。
2頭はゴールポストを走り抜けた。
マベリックはオスカーとリトルアライズを眺めた。どちらの額にも角がない。
「これは……どういうことなんだ?」
『審議……と言ったところでしょうか』
リトルアライズが言うと、オスカーも頷いた。
2頭は少しずつ脚運びを緩め、マベリックの前に立つと、2頭の目の前に風と炎の力が融合した角が姿を現した。それはとても長くなっており、先ほどまでは40センチという感じだったが、今は70センチ近くある。
どうやら、結論が出たようだ。
「……」
『……』
「……」
一同は角をじっと眺めていると、角はゆっくりと回転しながらリトルアライズに向かっていく。その角の側面が額に迫ったとき、彼女は言った。
『おめでとうございます、私の坊や……』
「え……!?」
角は付け根の部分をオスカーに向けると、そのまま額へと吸い付いた。
すると、オスカーの背には青い立派な翼が出現し、周囲には暖かい風が流れだした。
「これが……2属性の……ウイングユニコーン」
リトルアライズは頷いた。
『炎と風の天馬。古の勇者の仲間であり、自身も馬の勇者と言われたディープアライズと同じ角です』
「オスカーやリトルの遠いご先祖様だよな」
『ええ……私たちユニコーンの3大始祖のひとりです』
オスカーはじっと母馬を見ると、確かめたいと思った。
「お母さん、もしかして僕に譲ってくれたの?」
そう尋ねると、リトルアライズの表情は曇った。
『違いますよ。私は本当に貴方の角を奪うつもりで戦いました。そうでなければ、キメラを浄化したタイミングで勝負を挑んだりはしません』
マベリックは叫んだ。
「どうしてだ!? だって……息子さんがユニコーンになるって、母馬としてこれほど……」
『確かに、とても嬉しかった。私のような馬から……凄い仔が生まれたと思いました』
そこまで言うと、リトルアライズは悲壮な顔をした。
『だけど、角を持つということは、様々な生き物から命を狙われるということです。競馬場の納屋の中で、ユニコーンになってしまったがために、命を落としたという馬の話は、嫌と言うほど聞きました』
「……」
マベリックは言葉を失っていたが、リトルアライズはしっかりとオスカーを見た。
『ですが、貴方はそんな私を倒した。だから誇りなさい。貴方はもう……仔馬ではないのですから!』
オスカーやマベリックの目には涙が浮かんだ。
「わかったよ母さん……行ってきます!」
そう言いながらマベリックと共に故郷を立ち去ろうとすると、聞き覚えのある嘶きが聞こえてきた。
『オスカー!』
「……!」
振り返ると、死んでしまったワルガキトリオや母馬たちが透明な姿となって、オスカーを見送りに来ていた。
「みんな!?」
『悪い奴らをやっつけろー!』
『俺たちの分も、しっかりと生きてくれよー!』
『オレたちの勇者ー元気でなーーー!!』
オスカーも目じりから涙を流しながら叫んだ。
「幸運を!」
朝日が姿を見せると、半透明だった母リトルアライズや、友人たちは幻のように消えていった。
オスカーの母、リトルアライズです。
はぁ……負けてしまいましたね。だけど、これはそれだけ強い仔を産むことができたと思い、私の夢をオスカーアライズに託したいと思います。
ああ、そうでした。
下の欄にある【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】から、作品の応援をよろしくお願いします。
オスカーに今後、獲得して欲しい角の数が1つなら☆ひとつを……
最高位のユニコーンとして、天馬無双をご覧になりたいのなら……是非、星全……いえ、何でもありません。
今後とも、我が仔とオスカー空をゆくをよろしくお願いいたします。
オスカーアライズ、ユニコーン化への条件
炎)炎の精霊の加護を受けたエルフの忌子を見つけ出し、契約を成立させる(難しさ:★★★★)
風)母リトルアライズに勝利し、角を譲り受ける(難しさ:★★★)
リトルアライズ、ユニコーン化への条件
風)競馬史に残る競走馬となり、かつ産駒(自分の仔)が一角獣となる(難しさ:★★★★★)(死亡後に条件を達成すると、引継ぎ戦を行うことができる)




