表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/26

6.ぶつかり合う心

「ガア!」

 最初に動いたのはキメラの方だった。

 オスカーとの距離が半分まで迫ったとき、角は5発の炎弾を放った。炎はそれぞれの動物の首を正確に狙い撃ち、オスカーは巧みな脚運びでキメラの突進を避けていく。

 キメラとオスカーの追いかけっこが始まった。


――オスカー、援護するよ


 オスカーはアンジェリカの火傷を気にしていたが、彼女は更に言った。


――角の意識だけ貸して

――了解


 キメラの脚の方が速いが、オスカーは曲線的に逃れていく。そのうえ両者の距離が迫ると、角からは何発かの炎弾が発射され、それらはキメラの顔を攻撃した。

「ガアア!」

「……」

 なんという威力だろうとオスカーは思った。自分の炎弾の威力を100とすると、アンジェリカは150ほどの鋭さ、つまり密度や温度を持っている。

 それだけでなく、同時発射数もアンジェリカの方が一枚上手という雰囲気である。


――走ることに集中して!

――ああ


 再び角の周囲に炎弾が具現化すると、聞き覚えのある声が響いた。

「待て、そいつの首は盾のようなものだ!」

 姿を見せたのはマベリックだ。彼の口元には血の跡がある。

「たとえ引きちぎったとしても、すぐに復活する」

「何だって!?」

 オスカーが背後を睨むと、キメラは焼け焦げた首を自分から切り落とし、新たな狼や犬の首を蘇生した。

「多分、奴の本体は牛の部分だ」

「わかった」

 心の中で強く念じると、角が再び光った。

 飛び出した炎弾は6発。それらは曲線的に飛びながらキメラの腹部を繰り返し狙い撃った。

「グオオオオオオオオ!」

 全ての首は呻き、よだれを垂らしながらオスカーを睨んでいる。

「よし、奴さんには聞いてるみたいだぞ!」

 マベリックが労うように言うが、オスカーは険しい顔をしていた。

「だんだん、眠くなってきた……」

「は……?」


――ごめんなさい。私自身の気持ちで撃ってた。体から出れば……

――やめた方がいい。君は全身に火傷を負っている


 今まで数々の魔法を使い続けたオスカーには、もはや限界が迫っていた。

 彼は懸命に考えてた。どれくらい炎の弾を撃てる? 10……いや、もっと少ないし、これからは威力も目に見えて下がるだろう。

 オスカーは距離を取ると振り返り、キメラを睨みつけた。

「……」

「グオオオオオ……」

 キメラの首は、どれも怒りに満ちていた。どうやら向こうもいい加減に決着を付けたいようだ。

 こちらも、これ以上の消耗戦は遠慮したい。


 オスカーはしっかりと角を構えた。

 オスカーとキメラは一気に駆け出した。首はどれも牙を剥き、ぶつかり合ったときにオスカーに噛みつこうとしている。

 一方オスカーの周囲には燃え上がる炎が現れだした。

 両者がぶつかり合うと、オスカーの額の角がキメラの胸に深く突き刺さった。心音がオスカーの体に伝わってくる。

「……」

 オスカーは不思議な気持ちになった。キメラも生きている。いや、彼らにも合成される前の記憶が、生き物だった時の生きざまがあるようだ。

 脳裏に、キメラの元となった牛の姿が現れた。

――僕は、人間になりたかった

――人間に……?

 聞き返すと牛は頷き、ゆっくりと語りだした。


――僕は牧場に来た時から、家畜として特に変わらない生活をしてきた。朝起きてご飯を食べて、畑を耕すことを手伝って、夕食を食べて、ゆっくり眠る。だけど……


 そのつぶらな瞳がオスカーを映した。


――僕はどうしても、その先を知りたかった。僕を動かしている人間は何を考え、何を思っているのか知りたかった。

――ぼくと……似てる!


 瞳には涙が浮かんだ。


――だから、その、先に行こうとした

――わかる。僕だって、いや、家畜なら誰でもそう思う……!


 だって人間は凄いんだから。オスカーは初めて気の合う友人に巡り会えたと思ったとき、その背後からおぞましい声が聞こえてきた。


――貴方のその願い。とてもおもしろいですね


 オスカーが感じたのは寒気だった。記憶の中の雄牛は当然のように答えた。

――わかってくれるの

――もちろん。その願いを叶え、人間と同じにして差し上げましょう


 その声に導かれ、いや騙されて雄牛はキメラとなった。彼がまずしたことは、牧場主の命を奪う事だった。


――僕は、こんなことをしたいんじゃない。人間を踏みつぶしたくない


「一緒にいたかった。寄り添いたかっただけなんだ――!」



 オスカーの意識が戻った。キメラを見ると全ての首からは涙がこぼれ落ちている。

 その時に直感した。苦しんでいる彼を、今の自分なら救い出すことができるのではないだろうか。

「…………!」

 気を高めると、オスカーの角が光りを放ちダークキメラの体にヒビが走り出した。

 やがて砕ける岩のようにキメラの体が崩れ落ちると、オスカーは角を光らせながら脚元を見た。そこには、まるで眠るように息絶えた牛が横たわっている。


――ありがとう。僕を地獄のような日々から救ってくれて……

「安らかに……」

 オスカーは角で十字を切ると、牛の体は溶けだすように浄化され、土へと還った。


「これが……森の勇者の……ユニコーンの力!」

 番犬マベリックが言うと、オスカーは難しい顔をしたまま彼を見た。

「どうやら、ぼくにしかできないこともあるみたいだね」

 マベリックはしっかりとオスカーを見た。

「これからどうする?」

 問いかけられたオスカーは牧場を見渡した。犠牲になったオリヴァー夫妻と、果敢に戦った末に力尽きた番犬たち、それに黒焦げになった武装盗賊団が横たわっている。

「これを見て、今の僕の姿を見たら……人間たちはどう思うかな?」

 マベリックは難しい顔をした。

「なあ、ボン侯爵を頼らないか。きっと力になってくれると思う」

「それは駄目だよ。この武装盗賊団は彼らだけじゃないでしょう。いくらボン侯爵でも、キメラなんて差し向けられたらタダじゃすまないと思う」

「……確かにそうだな」

 オスカーは目を瞑ると、アンジェリカに問いかけた。


――アンジェリカには悪いけど、牧場は放棄するよ

 アンジェリカにも葛藤があったようだ。少し経ってから返事が来た。

――仕方ないね。貴方たちが安心して暮らせる牧場を、どこかで作りましょう


「行こう」

「承知した」

 オスカーたちが歩き出すと、頬を風が撫でた。

 その風には懐かしい匂いが混ざっており、オスカーの真っ赤な目が見る見る開いていく。

「これは……」

 振り返ると、半透明のどこかオスカーに似た牝馬が立っていた。

『久しぶりですね。皆さん……それにオスカー』


――リトルアライズ……?

 アンジェリカは裏返った声を響かせた。マベリックは目を丸々と見開いており、オスカーに至っては涙目になっている。

 半透明の牝馬リトルアライズはまず、マベリックを見た。

『マベリック。命懸けで我が仔を守ってくれましたね』

 その瞳に涙が浮かんだ。

『ありがとう……本当にありがとう……』

 マベリックもまた、涙腺を緩めたまま目を逸らした。

「大したことはしていないよ。それより、息子さんと話を……」

『わかりました』

 リトルアライズは厳しい表情をした。

『オスカー』

 彼女の口は動いていたが、声は頭の中に直接響いてくる。

『人間の力を借りずに自分たちだけの力で生きて行くのは……辛いことですよ』

 オスカーは表情を戻した。

「わかっているよ。だけど、あの武装組織は僕を狙っていた。人間に保護してもらえたとしても、今度はその人に迷惑をかけると思う」

『……』

「リトルアライズ。俺も……マベリックも同じ気持ちだ。何せ俺たちは連中を目撃しているんだからな」

――ええ。私もそう思う


 牝馬リトルアライズは、オスカーたちを見つめた。

『貴方たちが本気だということはわかります。ですが、言うこと以上に行うこと……特に継続することがどれほど大変なことか、私は競走馬として身をもって知っています』

 オスカー一行が頷くと、リトルアライズは険しい表情でオスカーを睨んだ。

『だからオスカー、その角を懸けて私と勝負をしなさい!』

「……ッ!」

 はあ、やっと出番を貰えた。あ、申し遅れましたが、私はアンジェリカです。

 もう逢えないと思っていたリトルアライズに会えて、何だかとても気分が高揚していますので、このまま皆さんに、お約束のお願いをしたいと思います。


 下の欄にある【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をよろしくお願いします。関係者一同、これからもオスカー空をゆくを盛り上げていきたいと思います。

 あ、いよいよ始める。次は注目の母仔対決!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ