5.秘められた力
武装盗賊の足音が近づいてくるなか、アンジェリカは理解した様子で言った。
――貴方は優しい仔。生き物を踏み殺したりすることなんてできないよね
「姉さん待って、今……」
彼女の体は、オスカーの言葉を遮るように炎に包まれた。
「……!? まさか……」
なんとアンジェリカは自らの体を焼きはじめた。その炎は衣服から納屋のワラへと燃え広がって、瞬く間にオスカーの馬房を包んでいく。
――最初から、こうすればよかったんだね
のんびりとした雰囲気で納屋へと入ってきた覆面の男も、オスカーの馬房を見ると慌てて駆け寄ってきた。
「マジか!?」
アンジェリカは炎に包まれながら笑っていた。炎の熱は彼女を縛っていた鎖さえも変形させ、彼女の手足はいつの間にか自由になっている。
炎が柱に燃え移ったとき、彼女は炎に包まれながら立ち上がった。
「残念だけど、貴方たちの思い通りにはならないよ」
彼女が手のひらを覆面の男に向けると、男の体にも炎が現れ、賊は炎に巻かれながら倒れた。
「あああああああ!?」
アンジェリカは、どこか寂し気な笑みを浮かべながらオスカーを見た。
「オスカー、黄泉の国の道中……お供してちょうだい」
オスカーもまた炎の中に立ち尽くしながら笑っていた。
「なんだか、この炎の中にいると、お母さんが寄り添ってくれているみたいだ」
「え……?」
その赤い瞳がアンジェリカを映した。
「いいよ、アンジェリカお姉さん」
アンジェリカが目を丸々と開いた直後に、オスカーは目を光らせた。
「案内は、しばらく先になるけどね」
もはや極限状態となっているオスカーは、通常では考えられない思考へとたどり着いていた。
――炎は親友。必ず、ぼくの働きかけに応じてくれる
オスカーは耳を絞ると、体中の血管を浮き上がらせ、体中の力を絞り出しながら叫んだ。
――ぼくは……いや、私はオスカーアライズ。炎の精霊よ、呼びかけに応えよ!
納屋中に広がっていた炎は一斉にオスカーに向くと、その熱は彼の額へと集まりだした。
その無数の炎は凝縮されると青色になり、更に炎の密度が凝縮されると白く輝き、オスカーの角となった。アンジェリカは火傷だらけの肌を晒したまま、口元を手で覆っている。
オスカーはそんなアンジェリカに近づくと、目を細めた。
「エルフの娘アンジェリカ。我がマスターとなれ」
「クラスチェンジ権を使ってください……でしょ!」
小突かれるとオスカーは笑った。
「さすがに僕を育てただけのことはあるね」
アンジェリカは、ぶつぶつと何かを呟くと真顔になった。
「本当に大丈夫? ユニコーンになったらクラスチェンジすることができなくなるみたいだよ」
「私はオスカーアライズ。だから、職業もオスカーアライズ以外はあり得ないよ」
アンジェリカは微笑みながら言った。
「遂に頭がどうかしてしまったのね。これは馬主として責任を取らないとね」
彼女はしっかりとオスカーをみつめると、指先で何かを記しはじめた。
「…………」
間もなく、アンジェリカの手元に透明な冊子のようなものが現れた。
「じゃあ、私もおバカさんになるとしましょう」
アンジェリカの冊子は、独りで開くと次々とページを捲りながら消えていく。どうやらユニコーンの巫女へクラスチェンジを果たすには、相当な代償を要求されるようだ。
「……!」
彼女の冊子は最後の1ページすらも消し、冊子そのものすらも消え去ってしまった。
次の瞬間、アンジェリカの体には炎が集まり、それらは赤や青の繊維となり、赤と青と白の精霊使いの衣服を纏っていた。
「……」
そして、今までとは違う冊子が現れ、アンジェリカの手元へと舞い降りてくる。
「……」
オスカーは感謝しながら言った。
「ありがとう……傷が癒えるまで、私の中で休んでいるんだ」
「なんだか、急に逞しくなったね」
「だいぶ無理をさせたからね」
「ふふ……これで私もクラスチェンジできなくなったから、一蓮托生だよ」
アンジェリカが目を瞑ってオスカーの頬に口づけをすると、体が光り輝いて姿を消した。
「さて、マスターが休んでいる間に、後片付けをしなければな」
オスカーは馬房のドアを蹴破ると、炎に包まれた納屋を少しずつ進みはじめた。火事に気が付いた武装盗賊たちの一部が駆け寄ってきたが、次々と炎に焼き尽くされていく。
オスカーが耳を絞ったまま納屋から出ると、炎に包まれていた納屋の天井が崩れ落ちた。
納屋の先には、覆面で顔を隠した男たちが武器を構えたまま立ち尽くしている。
「コイツ……」
「いつの間に角なんて生えたんだ?」
「森の勇者ユニコーン……差し詰めこいつは家畜の勇者かぁ?」
リーダーは不敵に笑った。
「好都合だ、はぎ取れ!」
敵は一斉に武器を構えた。剣、槍、弓矢、クロスボウなど、様々な種類の代物を持っている。
まず、後方の弓使いとクロスボウ使いがオスカーを狙いを定めた。
「くたばれ!」
「エイミングアロー!」
エイミングアローとは、ハンターの使う標準的な技である。矢がはじき出されると同時に、オスカーの角も光を放った。
「いけっ!」
撃ち出された炎弾は4発。それは正確に矢を叩き落とし、残りの2発も弓使いとクロスボウ使いに命中し、何メートルも弾き飛ばして戦闘不能にした。
「ファイアショットってレベルじゃねーぞ」
「黒いアーモンドみたいな顔しやがって!」
複数の賊が一斉に襲い掛かってくる。
オスカーは賊に背を向けると、牧場を走りはじめた。
「へっ、馬のくせにずいぶん遅いな」
「ヘッドクラッシュ!」
槍使いがオスカーを攻撃しようとしたとき、再び角から炎弾が飛び出し、上半身を焼き尽くした。
「ごばら!?」
「気を付けろ、コイツ、見かけによらず器用なことしてるぞ」
「それがどーした、クイックエッジ!」
軽戦士がナイフをオスカーの腰に突き刺そうとしたら、オスカーはファイアバックキックを見舞った。
「バカなぁ!?」
その蹄にぶつかると軽戦士も炎に包まれた。炎弾に当たっても、打撃に当たっても炎攻撃が来るという訳である。
その直後に角から6発の炎弾が飛び出し、賊全員を焼き尽くした。
賊のリーダー格の男は、炎に包まれながらも叫ぶ。
「ぐおおおおお……こ、このまま、死んでたまるか! 出ろ、俺たちの切り札!」
リーダー格の男はうつ伏せに倒れると、その亡骸が踏みつぶされた。
「……!」
オスカーは立ち止ると、現れた怪物を睨んだ。
まず目についたのは、人間の頭蓋骨だった。その目だけは不気味に光っており、胴体は牛、胸の辺りには狼の首があり、尻尾には蛇の頭がある。
「これが、ダークキメラか」
「グルルルルルルル……」
オスカーとダークキメラは睨み合った。
みなさん、おはようございます。こんにちは。そしてこんばんは!
我々は、覆面カマセ強盗団です。
覚醒したオスカー君に真っ先にやられた賊として、これからきっと有名になっていく……はず。
今日はそんな、血も涙もないカマセ強盗団からお知らせです。
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ひとりずつやられるべきだと思われたら☆5つを、
まとめてやられるのが好みだと思われたら☆5つをどうか……
バシッ!
☆5つしか言ってないじゃねーか!
そして数分後……
スィグ「はーい、悪党グループの皆さん、次は傭兵コスプレをしてください」
カマセ強盗団「はーい、逝ってきまーす」




