3.少しずつ迫る足音
脱走騒動の翌日、オスカーは牧場で寝転がっていた。
「走らないのか?」
マベリックがやって来ると、オスカーは答えた。
「少し気になることがあってね」
「気になること?」
マベリックが聞き返すとオスカーは起き上がった。
「アンジェリカお姉さんって、オリヴァーさんや奥さんとはだいぶ匂いが違うよね」
「そりゃそうだろう。彼女だってお年頃なんだし……」
「なんていうのかな、ここに住む村の女の人よりも……何というか……言葉で表現するのは難しいけど……」
「……」
「……」
マベリックは珍しく長考していた。これを言うべきなのかどうか、悩んでいるという様子である。
「マベリックなら何か知っているんじゃない?」
「これはあくまで噂なのだが……」
マベリックはオスカーの耳元で囁いた。
「彼女が捨て子という話なら、この前死んだ番犬隊長から聞いたことがある」
「……そうなの?」
オスカーが険しい顔をすると、マベリックも難しい顔をした。
「確かに匂いもオリヴァーご夫妻とは違う気もするが……まあ、においのかけ離れた親子もいるからな」
「なあ、オスカー」
ワルガキトリオが近づいてくると、マベリックは表情を戻して場所を空けた。
「なんだい?」
視線だけを向けると、ワルガキトリオのリーダーが言った。
「おまえ、やっぱりすげーよ。あの門をケリいっぱつでこわしちゃうんだもん」
「うん、オレ……なんだかはずかしくなっちまった。おまえがこんなにすごいなんて思わなかったもん」
「おれも。だからこんどからいっしょにあそぼうよ」
オスカーは驚いて起き上がろうとしたときに、遠くからマベリックがオスカーを値踏みするかのように眺めていることに気が付いた。ここはひとつ、年長者としての懐の深さを見せたいと思った。
「……」
「構わないけど、僕は努力だけなら誰にも負けない自信があるよ。ついて来れるかい?」
ワルガキトリオは、嬉しそうに笑った。
「受けて立つぜ!」
「ああ、ドリョクでもオレたち……オスカーにまけない!」
「言ったな!」
仔馬たちは笑い合った。
彼ら4頭は仲良く走り出したが、たまたま集まっていた近所の牧場主たちは、相変わらず厳しい目をオスカーに向けていた。
「おお、ノロオスも仲間に入れて貰えたのか」
「だけど、あのトリオに混じると脚の遅さも目立つね」
「あんな馬じゃ、鍛えても鍛えなくても同じなんだから、仔馬の時くらいは楽させてやればいいのにな」
「失礼」
近所の牧場主たちは、迷惑そうに声をかけてきた男性を見たが、すぐに表情を変えた。
「あ、貴方様は」
「ボン・クラデス様!」
ボン・クラデスは優しそうな目をしていたが、オスカーを見ると一瞬で目つきが変わっている。
近所の牧場主たちは、しばらくボン・クラデスを眺めていたが、恐る恐るという様子で声をかけた。
「どうですか、オスカーは?」
「そうですね。歯に衣着せぬ言い方をすれば……今のままでは、どんなに努力しても競走馬にはなれないでしょう」
近所の牧場主たちは、何とも言えない顔をした。恐らく、そりゃそうだよなと思っているのだろう。
「大変ですよね侯爵様も。こんな馬が産まれてしまったら処分せざるを得ない」
「処分?」
疑問符と共にボン・クラデスは牧場主たちを眺めた。どう解釈すれば、そういう答えが出るんだと聞きたそうな顔である。
「私はあくまで、オスカーに優勝レイを着せるために馬主になるのですよ」
「……」
「いや、でも侯爵様はさっき……どんなに努力しても競走馬にはなれないと……」
牧場主の1人が言うと、ボン・クラデスは笑った。
「今のままでは、ですよ。オスカーにはぴったりの育成プランがあります」
牧場主たちはお互いを眺めたが、ボン・クラデスは牧場を眺めたまま呟いている。
「この国の人々は、生まれが全てだと思っています。自分なんかが努力をしても決して実を結ばない。その考えを……この馬は打ち砕いてくれる。そう信じています」
「は、はあ……」
アンジェリカが通りかかると、ボン・クラデスはゆっくりとした足取りで近づいた。
「アンジェリカさん、オスカーに挨拶をしたいのですが……」
「わかりました」
マベリックもオスカーに言った。
「馬主さんがお呼びだぞ。行ってこい」
「ぜぇ……ぜぇ……わかった」
オスカーは疲れながらも好奇心をもってボン・クラデスを見た。脚の遅い自分のあるじになるなんて、どんな変わり者なのだろう。
彼はじっとオスカーを眺めると、頬を優しく撫でた。
「あなたが、ボン・クラデス?」
「そうですよオスカー。父だと思って欲しい」
「父……」
「ええ」
ボン・クラデスは優しく微笑んだ。
「紅い瞳に青い毛並み……貴方にはバラの優勝レイが良く似合いそうです」
「バラの優勝レイ……?」
「ええ、貴方はこの国で最も速い競走馬になるべきです。後日、迎えに来ましょう」
「え、あ、うん……」
ボン・クラデスと別れると、ワルガキトリオが近づいてきた。
「おまえスゲーよ!」
「あの人、人間の……すんごおーーーく、えらいひとだよ」
「いいなぁ……オレにも声かけてくれないかな?」
「……ぼくが頼んでみようか?」
オスカーが言うと、ワルガキトリオは目を輝かせた。
「え? いいのいいの??」
「さすがはオスカーだよ!」
「いや、期待に応えられるかはわからないよ」
「いいんだよ。ついででもいいからショーカイしてくれよ」
「もし、ボンさんのウマになれるのなら、オスカーがボスな」
「ぼ、ボスは照れるよ」
マベリックも肩の荷が下りたと言いたそうに眺めていたが、視線を森に移すと、表情から笑みが消えていく。
「何だ……今の人影は?」
じっと何かを考えていたマベリックだが、見る見る表情が険しくなった。
「そういえば、今日は新月だったな」
何だか胸騒ぎがする。そう言いたそうな顔である。
こんにちはー。
ぼくたち。
ワルガキトリオです。
そう、ぼくたちはオスカーを育てるためのかませ役。
だから名前も設定されていないのだー!
はっはっはっはっはっは……
ぼくたちからのお願いです。下の欄にある【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価を是非、お願いします。
ぼくたちに名前なんて要らないと思われるのなら、星なしを、
誰か1人分でも名前をつけてやれよと思われるのなら、星1つを、
全員の名前をつけてやれと思われる、心の優しい方は、星全部をお願いします。
数分後……
……で、結局、名前が付くのかなオレたち?
オレらって、お母さんの名前プラス王国歴で呼ばれてるからね。
確かに……




