20.オスカー乱入
ユニコーンの亡者は、首だけになりながらも重戦士を睨んでいた。
重戦士の側には、傷ついた隊長と消耗しきった魔導士が寄り添うように立っている。その表情はまるで、自分たちはもう戦う力は残されていないが、死ぬときは一緒と訴えているようだ。
ユニコーンの亡者は、まるで大きな火の玉のように負のオーラを燃え上らせていく。
「さあ、来い……!」
亡者が向かってくる。重戦士も全身から闘気を燃え上がらせて対峙した。
「はあっっっッ!」
斧の一撃は、頭部の頭蓋骨に深くめり込んだ。亡者もまた口を開いて禍々しく角を光らせている。
――邪悪な一撃が……来る!
重戦士は目を瞑った。
すると、目の前に強烈な打撃音が響いていた。重戦士の目の前にあったのは亡者の首や角ではなく、真っ黒な毛に覆われている馬体だった。
「……???……!!」
オスカーアライズは、重戦士の前を通過すると青い炎を纏った。同時に角も白に近い光を放ち、翼を広げたままユニコーンの亡者を追っていく。
「た、助かった……ではない。我々の獲物が!?」
ユニコーンの亡者が禍々しい気を放ちながら向かってくると、オスカーもまた角を光らせたまま突進した。両者の角が空中で衝突すると、まるで馬車がぶつかり合ったような轟音と突風が吹き荒れた。
「なぬ……!?」
直後に、オスカーは膝蹴りを立て続けに亡者に見舞い、続いて背後に控えていた炎弾を7発撃ち出し、ユニコーンの亡者を地面に叩きつけると、自らの角を亡者へと突き刺した。
――私はまだ、納得していない。こんなところで消え去ることなど……
――貴殿の未練は何だ?
――私は、誰よりも速い馬であろうとした。若いの……貴様で構わん。どちらが優れた駿馬か確かめさせろ!
オスカーは頷くと、亡者の角を咥えあげた。
――いいだろう。私などで良ければ勝負しよう
オスカーが飛び去ろうとしたら、兵団の重戦士は叫んだ。
「ま、待て、そこの馬……私と勝負しろ!」
角を咥えたままオスカーは白の兵団を一瞥すると、かつての故郷であるオリヴァー牧場を目指して飛び去った。
「こら、逃げるな……貴様!」
オスカーの後姿が見えなくなると、重戦士は地面に膝をついて大声をあげた。
久しぶりにオリヴァー牧場へと戻ると、オリヴァー夫婦は埋葬され、賊や家畜たちの遺体も片付けられていた。オスカーは静まり返った牧場の中へと降り立つと、空を見上げた。
同じく風の加護を受けたフィンと、ハトのジョニーが遅れてついてきている。
「よ、見事なネコババ……いや、ウマババだったな」
「さすがに僅かな仲間と共に、今日まで生き延びただけのことはある。見事な手腕だった」
フィンはそう言いながら周囲を見渡した。
「ところで、ここで何を始めるつもりなのだ?」
「この古のユニコーンと、レースを行います」
「え……っ!?」
まず驚いたのはジョニーだった。
「まじ!? 勝負はもうついてるじゃん」
「今のままでは、彼の魂を浄化できない」
オスカーが言うと、フィンはクツクツと笑った。
「今は森の主でも、そういう発言をできる者は少なくなった」
彼はそう言うと前に出た。
「その勝負、私も混ぜてもらおう」
オスカーは驚いたが、フィンは更に言った。
「もし、私が負けたら……勝者に群れの長の座を譲ろう」
「いや、しかし……」
「ユニコーン会の一翼として、宣言させていただく!」
言葉を詰まらせている間に、地面に置いていた角が光りを放ち、半透明の栗毛馬が姿を見せた。
『我が名はフォレストキャップ。フォレストゲイルの仔にして、炎の一角獣である』
その瞳がオスカーを映した。
『そちらの若い者は、炎の加護を既に得ているな。ふむ……これではお主に得るものがないな』
フォレストキャップは少し考えた。
『では、こうしよう。もし貴殿が勝った場合、私の角は貴殿の子息の誰かに与えるというのはどうだろう?』
「そんなことができるのか!?」
オスカーが聞き返すと、フォレストキャップは言った。
『これはあくまで、私が始祖に近い立場だから可能なことだ。誰でもできる訳ではない』
「話はまとまったな」
フィンはそう言うとスタートラインに立った。
彼の賭けるものは、群れの長としての地位。
オスカーの賭けるものは、炎と風の角。
そして、フォレストキャップの賭けるものは、炎の角。
ジョニーは唾を呑むと尋ねた。
「どれくらいの距離を走るんだ?」
フォレストキャップが答えた。
『10ハロン戦を希望する』
「ここを2周走れば、だいたい2000メートルだ」
『あいわかった』
3頭は位置に付いた。




