16.(教団の切り札)白の兵団の動向
あばら骨を折ったオスカーは、エマから治療を受けていた。
「凄いな、君が角を向けただけで痛みが引いた」
「動かないでください。変な場所に骨が付いてしまいますよ」
オスカーは黙った。
「なあ、アンタはいつまでもここにいていいのか?」
ハトのジョニーが話しかけると、エマの父親は難しい顔をしたまま言った。
「元家畜とはいえ、フィン丘陵に住むというのなら面倒を見る必要がある」
その言葉にエマは目を丸々と開いて父を見た。
「お父様……!?」
「勘違いするな! 私は長としての役目を果たすだけだ。それにお前たちが丘陵に入ることは許していない」
オスカーは微笑を浮かべると、そっと目を閉じた。
今のエマの父親の言葉は、彼の立場から言える、ギリギリの感謝の言葉なのだろう。
「せめて、長のお名前を教えていただけませんか?」
「……フィン4世だ。それくらいエマが教えるべきだろう」
「いいえ、貴殿の口から聞きたかったのです」
オスカーの瞳がエマの父フィンを映すと、彼は照れ臭そうに目を背けた。
「とにかく、きみは森の王者として必要なことを、そこの不良娘から聞くがいい」
エマが治療を終えると、エマの父フィンはフィン丘陵を目指して飛び去った。
「すみませんオスカー様、無礼な父親で……」
申し訳なさそうにエマがオスカーを見ると、オスカーは笑った。
「だが、悪い方ではないし、見習うべきところもある」
エマはほっとした様子でオスカーを眺めていた。
数日後、オスカーとエマが草を食んでいると、マベリックが走ってきた。
「オスカー様、客人……いや、客馬です」
「来客?」
オスカーはエマの関係者かと思った。
「わかった。会おう」
彼は表情にこそ表していないが、胸中では様々なことを考えていた。
エマの親族なら、父親と同じようにある程度打ち解けることもできるかもしれない。問題は、牧場生まれの馬を敵視する類の野生馬たちである。
この場でもめ事が起これば、エマの父フィンと会いづらくなり、キメラの情報を聞くことも難しくなるだろう。そう思っていたらマベリックが戻ってきた。
姿を見せたのは、筋骨たくましい牡馬2頭だった。体重はオスカーの優に2倍以上はあるだろう。まるで牛のような外見だが、彼らの顔は意外にも若い。
「……」
「……」
彼らもまた、オスカーの角や翼が気になっていたのか、しばらく呆然と眺めていた。あまりにお見合いのような状況になっており、最初に言葉を発したのはエマという奇妙な状況になった。
「あの……どちらさまでしょうか?」
オスカーは納得した。如何にも訓練されていますという恰好をした彼らが野生馬とは思えない。
「あ、すみません。実は俺たち……教団から逃げ出してきたんです」
「教団から?」
不思議に思いながらオスカーは聞き返した。軍馬や農耕馬とは違い、教団は生き物の保護にも積極的だという話を聞いたことがあったためだ。
「実は俺たち、教団でも……白の兵団の軍馬なんです」
「生まれてから毎日のように訓練訓練で、一旦出陣となれば……今度は荷物やら武器やらを運ばされて、挙句の果てはキメラを討伐するから最前線で戦えですよ。もう嫌になって逃げてきました」
オスカーは難しい顔をした。
「私の所にいても、たいして事情は変わらんと思うが……」
逃げ出してきた2頭の馬たちは首を振った。
「とんでもない! オスカー様のお噂はかねがね聞いています」
「それに、戦場から逃げた人や馬は地獄に落ちると聞きます。オスカー様なら、その辺も……どうにか」
オスカーは目を細めた。
「どうにもならんぞ。私はただ角が生えているだけのウマだ」
「ええ~~~~!?」
「そんなぁ! じゃあ俺たち、どうすりゃいいんですかぁ?」
オスカーは少し考えてから答えた。
「ふむ。ならば死んだ後で、閻魔大王とやらに馬族の現状や、なぜ逃げなければならなかったのかという理由を具体的に説明してみてはどうか?」
「え、でも……白の兵団からの脱走は問答無用で……」
「そんなことは誰が決めた?」
オスカーが聞き返すと、牡馬2頭はお互いを見あった。
「そ、そりゃ、教団の偉い人が」
「その偉い人というのは、死んであの世とやらを見たことでもあるのか? 前世とやらの記憶でも持っているのか? そもそも偉い人というのは誰のことだ? その者が嘘をついたり、勘違いしている可能性は?」
「……」
牡馬たちは固まっていると、オスカーは更に言った。
「死んだ後のことなどで悩むより、現状を改善することを強く勧める」
「……」
この後、オスカーは自分たちが如何に不利な状況に置かれているかを丁寧に説明したが、教団から逃れてきた2頭の牡馬たちがオスカーの元を離れることはなかった。
ちなみに栗毛馬の名はフレディ。鹿毛なのがベンジャミンである。
2頭がマベリックと共に森の見回りに出かけている間に、オスカーはハトのジョニーと話をしていた。
「へぇ……じゃあ、教団の納屋から馬が何頭か逃げ出したってのは本当だったんだな」
「それはいつ頃の話だ?」
「神父さん率いる討伐隊が全滅した後だったな」
「ちなみに、昼間に古戦場跡を通過したら、鳥に目撃されると思うが?」
「オイラが確認してるよ。確かにあの2頭だった。他の馬どもは昼間でもあそこを通過したがらなかったんだろうな」
オスカーはわかる気がすると思いながら頷いた。
「私だって、あんな場所は二度と御免だ」
その直後に、別のハトが飛んできた。
「オスカー様、それにジョニー!」
「どうした?」
「白の兵団、あの森にいたクマみたいなサルを捻りつぶしてたぞ」
「どの程度の被害が出た?」
オスカーが尋ねると、ハトはすぐに答えた。
「新米っぽい戦士が1人、軽いけがをしたくらいだ。やっぱりその辺の傭兵団とはレベルが違うよ」
「やはり、一番厄介なのは人間であることに変わりないようだな」
ジョニーたちも頷いた。
「そうだな。連中とは事を構えずに済むことを祈りたいもんだ」
「だが、どうしてこのような辺境に白の兵団が来たのだろうな?」
オスカーが疑問を口にすると、ジョニーたちも困った顔をした。
「それは……まだ、わからねえな」
オイラジョニー、今、スィグが真っ青になってるぞ!
僕、オスカー、本当だ。17章の話が混じってるね♪
私はマベリック。これはスィグさん、やってしまいましたな。
私アンジェリカ~ あ、スィグさん、急いで修正作業に入ったみたい。
慌ててるみたいだから、今回のブックマークと宣伝はお預けね~♪




