15.列強種デーモン、マンティスとの対決!
デーモン。それは列強種族の中でも竜族と並ぶ支配階級である。
古の昔から、数々の英雄や聖獣、場合によっては天使と渡り合い、神話の中では倒される存在として語られている。
しかし、それは裏を返せば、英雄や聖獣の力をもってしても倒すのが難しく、普段は返り討ちに遭うことが珍しくないからこそ、人間側が勝利した物語が貴重なのである。
「俺様も使わせてもらうぜ、ウインドナイフ!」
カマキリの悪魔が鎌を振りかざすと、マベリックが身を隠した木が真っ二つに切断された。
「……!!」
「バカな。これが風系最下級魔法の威力!?」
エマが愕然とした表情で言うと、カマキリの悪魔は笑った。
「こんなんで驚いてもらったら困るぜ!」
カマキリは息を吐くように口を動かすと、まるで槍のような突風がエマを襲った。
「アースウォール!」
エマは岩壁を出すと、その裏側に身を隠したが、突風は軽く岩壁を吹き飛ばした。
「……っ!!」
マベリックはあんぐりと口を開いたが、エマは次の壁を用意していた。
辛くも2枚目の壁が突風を受け止め、ヒビこそ走ったが、エマの防壁は何とか踏みとどまるように突風を防ぎ切った。
しかし、マベリックの顔が強張っている。
「させるかっ!」
背後から忍び寄り、エマの首を落とそうとしていたカマキリの悪魔だったが、マベリックがタックルしたことで体勢が崩れた。
「ぐお!? この……」
その鎌でマベリックを切り裂こうとしたら、エマが岩石を至近距離からぶつけ、カマキリは苛立った様子で、風を全方位に放った。
「うぜえ、うぜえよお前ら!」
木に叩きつけられたエマとマベリックは気を失っている。
「くたばれ!」
そこにカマキリの悪魔は鎌を振り下ろそうとしたが、頭上に影が映った。
炎を纏ったオスカーは、急降下蹴りをカマキリに見舞った。カマキリは吹き飛ばされて岩壁に激突し、今までにはない形相でオスカーを睨んだ。
「来やがったな……ボス馬、ボス馬ぁぁぁぁッ!」
カマキリの悪魔は、口元から体液を流しながら嗤うと、全身からどす黒いオーラを垂れ流した。ギャアギャアと鳥たちが鳴き声を上げながら逃げ出していく。
オスカーも不敵に笑った。
「ここまで血が騒いだのは、初めてキメラと戦ったとき以来だ」
そう呟くと、目を真っ赤に光らせた。額だけでなく体中の血管が浮き出ているため、馬離れした化け物のようにも見える。
「角を寄越しやがれ!」
カマキリの血走った目がオスカーを映すと、オスカーも角の周囲に炎を燃え上がらせながら突進した。
森の中に、ビシンという鎌を振り下ろす音が響く。悪魔のカマキリの鎌は見る見る燃えて変形していくが、構う様子もなく反対側の鎌でオスカーの首を落とそうとした。
しかし、その直前にオスカーの膝蹴りが入った。
カマキリは体液を吐き散らしながら、再び岩壁に激突し、牙を光らせながら立ち上がった。
「てめえ……やるじゃねえか」
「お前もな……」
オスカーの口元から血が流れ出ていた。
実はカマキリは、斬撃を見舞った後に膝蹴りを見舞っていた。それらの攻撃はオスカーの胴に命中しており、あばら骨が折れている。
「てめえの角があれば……はぁ……いいメスを……出して……もらえそうだ……ぜ」
「ほう……そういう取引をしているのか。ならば、これも知った方がいいな」
「あ?」
オスカーは、まるで悪魔のように微笑んだ。
「カマキリは、交尾を終えると、メスがオスを食うそうだ」
「……何が言いたい?」
「お前は、その、主というものに、使われてるんだ。いいようにな」
「だから寝返れってか!? 下らねえ!」
「違う。お前はどっちみち、私に倒される運命だということだ」
カマキリは激高した。
「ほざけぇ!」
カマキリが勢いよく飛び掛かると、オスカーもまた角を光らせて突進した。
しかし、カマキリの目は側面から姿を見せたエマを映していた。
――なるほど、自分に注意を向けて、相棒の牝に止めを刺させるという訳か!
そうなる前にお前を潰す。そう言いたそうにカマキリが2本の鎌を振り上げたとき、オスカーの背後に影が映った。
オスカーの巫女アンジェリカの登場である。彼女は自分の背後に手を伸ばすと、全力で風魔法を放った。
――ま、まさか!?
――そこだあああああああああ!
オスカーの体は一気に前に進むと、カマキリの腹部に角が突き刺さった。
――うがああああああああっ!?
カマキリは目を大きく開いたまま仰向けに倒れていく。
その瞳には、満天の夜空が映っていた。
――夜空……?
カマキリの思念は、角を通じてオスカーに伝わってきた。
そうだ。俺は元々は人間だった。しがない戦士だった。毎日のように鬼隊長に怒鳴られて、殴られて、それでも俺は諦めなかった。
だって、俺には夢があった。密かに素敵だと思う女がいた。
そいつは、薬草を積むことを仕事にしている、山奥の村娘だった。一人前の自警団員になったら、野原で花を摘んで告白する。それが俺の夢だった。
だから、俺はどんな修行にも耐えた。どんなに鬼隊長に怒鳴られて、殴られて、パワハラされようともただただ強くなることができた。
きっと迎えに行ってやる。だから、だから……だから――――!
俺の努力は実り、念願の自警団員になることができた。本当に嬉しかったよ。年甲斐もなく涙まで出て来ちまったからな。
よし、あの娘を迎えに行こう。俺は親友と共に野山に行って花を摘んだ。
そして、その山奥の小屋を尋ねたとき、俺の表情は凍り付いた。
まず感じたのは鉄さびの臭いだった。暗さに目が慣れると、村娘たちの家族は全員が血塗れになって横たわっていて、村娘は机の上で仰向けになって事切れていた。
それだけでなく、そこにはローブを着た怪しげな奴と鬼隊長の姿があった。
「よう新入り。ああ、これか……貴重な薬草を譲ってくれないから実力行使した」
その言葉を聞いたとき、俺は全力で隊長を倒そうとした。しかし、無駄だった。後ろにいた親友が俺を刺すと、隊長は笑いながらこう言ったんだ。
「全てうまく行ったな。告白に失敗した若者たちが激昂して、一家を惨殺……それを成敗した」
「私が証人になります。ですから……例の件」
「ああ、お前は今日から幹部候補生だ。しっかりと働きたまえ!」
俺は祈ったよ。もう人間なんて信じない。だから、誰でもいい。この悪魔どもを殺してくれ。こんなやつらが村を守る戦士であってはならない。
そんな時に、声が聞こえてきた。
――祈ったところで、神は貴方に興味は示さないでしょう。仇討ちは自らの手で行うものです
――貴方は……?
――グリーンハート。あなた……とてもおもしろい人です
オスカーの意識が戻ったとき、カマキリの悪魔の目には涙が溜まっていた。
その瞳は自らを笑っているかのようだった。俺、きっと地獄に行くんだよな。もう、彼女には二度と会えないんだよな。
そんなカマキリの悪魔を見て、オスカーは角を光らせた。
「貴様は、その隊長と同じことをしようとした。娘の前で父を、そして父の前で娘を殺そうとした」
――わかってるよ。俺はこの手で、いろいろな命を踏みにじってきた
「せめて、安らかに眠れ。ちょうど……迎えも来たようだしな」
カマキリの瞳に映った満天の星々の1つが流れて落ちると、彼の隣には、見覚えのある村娘が舞い降りていた。
オスカーは静かに十字を切った。
俺のやられっぷり……どうだった?
いやー、なんつーか、小さい頃からカマキリが好きでさ。グリーンハート様の力を借りたら、カマキリになったって訳さ。
ちなみに俺は傭兵時代も曲刀を使うのが好きだった。幼少期の思いってバカにならねーな。
ああ、いつまでも俺の話をしてるわけにはいかねーな。
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今後ともオスカー空をゆくを楽しんでいってくれ!




