12.フィン丘陵のエマ
オスカーが炎弾を4発放つと、次々と巨大カマキリの顔や体の関節へと命中した。
「……青いユニコーン!?」
「助太刀する」
「感謝します!」
オスカーは更に3発の炎弾を実体化すると、カマキリの首筋を集中的に狙った。カマキリは苦しそうに口を開いている。
「ここだ」
畳みかけるようにオスカーは風刃を放ち、カマキリの右鎌を切り飛ばし、間髪を入れずに左鎌を吹き飛ばし、最後に胴体を切断した。
一方、葦毛の牝馬はカマキリの斬撃を木の壁で防いでいた。
繰り返し鎌を受けると、木の壁は少しずつ削れはじめ、傾いていく。
「……!」
その壁が崩壊すると同時に、カマキリは牝馬に噛みつこうとしたが、オスカーは再び炎弾を5発ほど放ち、口に3発を浴びせ、両目に1発ずつを見舞った。
「風よ!」
更に風刃がカマキリの両鎌を切り飛ばし、オスカーは角をカマキリの腹部に突き立てた。
すると、カマキリの体が炎に包まれて燃え上がっていく。オスカーが角を離した時には、カマキリは黒焦げになりながら崩れ落ちた。
「何も思念を感じ取れないとは……まあ、元は小動物だし、考えられないこともないか」
「あの、貴方様は……?」
オスカーが振り返ると、葦毛の牝馬は太陽の光を受けて、灰色の毛並みを光らせていた。
「私はオスカー。アテもない旅を続けている」
そう答えると、葦毛の牝馬は微笑んだ。
「私はエマと申します。危ない所を助けて頂き、ありがとうございます」
葦毛のエマはそう言うとゆっくりと近づいてきた。彼女はその角を高く掲げ、オスカーもまた角を合わせた。エマの角はそれほど大きくはなく40センチほどである。
「立派な角ですね」
「母から譲り受けた」
「私も祖母から譲り受けました。角を受け継ぎ、守っていくというのは大変なことですね」
オスカーはじっとエマを見つめた。
「そうだね」
先ほど切り飛ばしたカマキリの足がわずかに動いた。
「オスカー様!」
その目が鋭くオスカーの後姿を映すと、一気に襲い掛かったが、オスカーはエマを眺めたまま風魔法を背後へと放ってカマキリの首を斬り飛ばし、落ちてきた首を脚で踏みつけて潰した。
「全く、油断も隙もないものだね」
実は、今の行動はオスカーではなくアンジェリカが行っていた。
「今、オスカー殿の背後に……誰かがいたような」
オスカーはさすがだと思いながら頷いた。
「彼女は我が馬主のアンジェリカ。今は巫女……いや、精霊使いをしている」
アンジェリカがオスカーの隣に姿を見せると、マベリックも藪の中から姿を見せた。
「そして、隣の猟犬がマベリック」
エマは目を丸々と開いている。
「精霊使いと契約している方はたまに見かけますが、猟犬を連れたユニコーンは初めて見ました」
「珍しいだろうか?」
羽音が聞こえてくると、オスカーは心の中で苦笑しながらエマとの会話を続けた。
「ええ、貴方のように強いユニコーンになると、種族の壁を破れるのですね」
オスカーが幸せに思っていると、アンジェリカがオスカーの肩を肘で軽く突いた。いい加減にキメラのことを聞けと言いたいのだろう。
「……ありがとう。ところで、このキメラのことについて聞きたいのだけど……」
エマも表情を戻した。
「このカマキリのような生き物のことですね。これらの生き物を見かけるようになったのは、この数日のことで……」
「エマ!」
その声はオスカーたちの上空から聞こえてきた。
舞い降りてきたのは、翼を持つ栗毛の牡馬だった。その額には短い角があり風の加護を受けたユニコーンであることがわかる。
エマも即座に返事をした。
「お父様!?」
エマに父と言われた牡馬の顔には、目立つ白斑が額から鼻先にかけて伸びており、精悍な顔立ちをしている。
「いつまでもここにいると人間に見つかる。そこの若者も来なさい」
「わかりました」
オスカーが思わず敬語を使ってしまうほど、エマの父には威厳があった。
森の中に入り、フィン丘陵の入り口と思われる獣道へと進むと、エマの父は娘を見た。
「エマ。お前は先に戻っていなさい」
「いいえ。私はオスカー殿に助けて頂きました。十分なお礼をするまではここを離れません」
「……」
エマの父は難しい顔をしながら言った。
「ならばそこで聞いていなさい」
その栗色の瞳がオスカーを映した。
「娘を助けてくれたことには礼を言わせてもらう。たが、貴殿は……森の勇者ではないな」
オスカーはしっかりと頷いた。エマの父親はどうやら、オスカーが牧場で育った家畜であることを見抜いているようである。
「人間の手で育てられた者が我が領内に留まることは許可できない。早々に立ち去るがいい」
「お父様!」
エマが声を荒げると、エマの父はより強い口調で答えた。
「貴様も貴様だエマ! 家畜などに命を救われたこと自体が恥だと思え!!」
エマの額には青筋が走っていた。
「失礼するよ」
オスカーが立ち去ると、マベリックも困った顔をしながら立ち去っていく。
一方、エマは呼吸を荒げながら父に言った。
「お父様……いえ、一角獣のフィンがどういう馬なのかよくわかりました」
エマは父に背を見せると、そのままオスカーを追った。
「……」
「それがお前の答えか。ならば二度とこの丘には戻るな」
「言われなくてもそう致します」
あくまで毅然とした表情でエマの父親は言っていたが、その後姿はとても寂し気だった。
そしてエマは、オスカーの側まで歩み寄ると、彼を立てるように少し後ろを歩いた。
「……なぜついてきた」
「貴方のお役に立ちたいからです」
エマがそう言いながらオスカーの横顔を見ると表情が変わった。オスカーはとても困った顔をしている。
「私が、ついてきては御迷惑でしたか?」
「いや、貴殿が来てくれたことは嬉しい。嬉しいのだけど……」
オスカーは心配しながらフィン丘陵へと視線を向けた。
「今のは、父君の本心ではないでしょう。表情と言葉が一致していないし、私のことを本気で嫌っているのなら丘の入り口まで案内したりはしないさ」
「え……?」
エマが困惑した表情をすると、オスカーはやはり気づいてはいなかったかと思いながら話をつづけた。
「野生馬には人間や猟犬を嫌う者が多いと聞く。群れのボスとして、あのように振舞わざるを得ないのだろうね」
「…………」
エマの表情は、一瞬にして真っ赤になった。
「わ、わたくしは……娘だというのに、そんなことにも気づかなかったなんて……」
オスカーは、そんなエマを気遣いながらも、頭の片隅にはキメラたちのことが残っていた。今のままではいずれ、闇の一派という連中に見つかり、刺客を送り込まれてジリ貧という状況に陥るだろう。
せめて今のうちに、事情を良く知る人物と、味方とは言えないまでも協力する関係くらいは築いておきたい。
おお神よ、そして狼よ……
申し遅れましたが、私は名もなき神父。かつてクマのようなサルのような怪物を討伐しようとした、ある意味で武闘派の神父です。
この前は良いところを、主人公のオスカー君に献上してしまいました。これこそザ、脇役! という感じでライトノベルしてるなと思いました。
ああ、そうでした。皆さまにお知らせがあります。
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全ての関係者の方々に、神のご加護がありますように……




