11.古戦場を抜けて
「オリヴァーさん夫妻やアンジェリカは例外なんだね。人間はやはり信用できない」
『そう考えても、仕方ないよね』
アンジェリカもオスカーの言葉を否定できないようだ。マベリックも憤慨した雰囲気のまま淡々と歩いている。
「おーい、森の勇者と御一行さま!」
「ジョニー!」
オスカーが目を丸々と開くと、ジョニーは軽やかに枝へと舞い降りた。
「あの神父、ふもとの村の自警団や傭兵たちをかき集めてたぜ」
「今すぐに来そう?」
「うーん……明日の朝に隣村の連中と合流するとか聞こえた」
マベリックは頷いた。
「なるほど。今の戦力ではオスカー様に対抗できないと考えたのでしょうな」
「多分」
ジョニーは辺りを見回すと言った。
「今夜……行くんだろ?」
オスカーは頷いた。
「せっかくだし、オイラが見張ってるから、お前らは今のうちに仮眠を取っといたらどうだ?」
マベリックは信用できないと言いたそうにジョニーを見たが、オスカーは笑みを浮かべて頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「オスカー様……」
オスカーはマベリックを見ると角を少しだけ光らせた。そう、オスカーには頼れるもう一人の相棒であるアンジェリカがいる。
「わかりました。仰せの通りにいたしましょう」
オスカーとマベリックが就寝中も、ジョニーは木に止まったまま辺りを見回していた。どうやら彼は、本当に手を抜くことなく見張りをしているようだ。
『このジョニーという鳥、本当に手を抜くことなく見張ってくれているよ』
オスカーは、本当にキメラを倒したことを感謝されているんだなと思った。味方がとても少ない今、1人でも頼りになる仲間が増えるのは、とてもありがたいことである。
夕暮れ時になると、ジョニーは合図の鳴き声を上げた。
「ウーウル、ククー……ウーウル、ククー」
オスカーとマベリックが起き上がると、ジョニーは目配せをして枝から飛び去った。そして、別の枝に着地すると、再び鳴き声を上げている。
「ありがとう」
オスカーがジョニーを見ながらアンジェリカに聞こえるように呟くと、彼女はゆっくりと姿を消した。
「行こう」
「はい」
彼らは森の獣道を進んだ。夕日は見る見る沈んでいき、森を抜けたときには東の空には星が瞬きはじめている。
「ここが戦場跡……ですか」
「うん、旅人が誰も近づかないわけだね」
オスカーの目には、無数の亡霊たちの影が映っていた。人間はもちろん、牛や犬、馬の幽霊も混じっている。
マベリックは毛を逆立てた。
「何やら、不穏な気配を……」
「うん、だってギャラリーが出来てる」
「ギャラリー……?」
マベリックの表情が見る見る強張った。一番聞きたくない言葉を聞いてしまったのだろう。
「それはもしや、野次馬的に見ていると?」
「その通り」
「……」
「とりあえず、僕から離れないようにね」
「わかりました。あと、この場所は足場が悪いので私が先導します」
「頼りにしているよ」
オスカーたちの周囲には、様々な思念が飛び交っていたが、光り輝く赤い角を恐れているのか、半径10メートル以内に近づいては来なかった。
「思った以上に広いね」
「10キロメートルあると、ジョニーが言っていました」
「気の遠くなる長さだ」
10キロもの長さを、松明代わりのオスカーの角の光りだけを頼りに進む。これは、ただ歩くときに比べ、何倍もの注意力を必要とした。
しかも、足場が悪いうえに、周囲には様々な種族の幽霊たちがギャラリーを作っている。
「……不気味ですね」
「うん」
そのため、8キロメートルほど進んだ時には、空が白みはじめていた。
「あと一息です」
「うん、フィン丘陵と森が見えてきたね」
オスカーたちは順調に進んだが、何やら森の中から不穏な音が聞こえてきた。
「何だろう……今の音?」
『マナの歪みを感じるね』
マベリックも鼻を引くつかせた。
「この音や臭い……交戦しているのかもしれません」
「交戦!? 一体、誰と誰が?」
古戦場跡を抜けると、その音は更に大きくなった。
オスカーの感覚でもマナの変動を感じ取り、アンジェリカも警戒したらしく実体を現わしてオスカーの背に跨っている。
『片方は、大地属性の魔法を撃っているみたいね』
「もう片方は?」
森の中から大きな獣が姿を見せた。虎のような模様をした巨大なカマキリは、両手の鎌を構えたまま投げつけられた岩石を振り払っている。
「あれは……キメラ!?」
その直後に姿を見せたのは葦毛の牝馬だった。
彼女は真っ白な角を光らせると、足本から無数の岩柱が姿を見せ、投石機で打ち出すようにカマキリを攻撃している。
「あ、危ない……!」
マベリックが叫ぶと同時に、低木をなぎ倒して2頭目の巨大カマキリが姿を見せた。その鎌が葦毛の牝馬の首に迫る。
「させない……!」
オスカーはしっかりとカマキリを睨んだ。
見たか?
ああ、見た見た。
あれが、オスカーとマベリックか……
この物語の……主役と準主役。
うらやましい。
ところで、俺たちは誰かって?
決まってるじゃないか。ギャラリーを作っている亡者たちさ。
名前はもちろんない!
ん? このコーナーって……何かお願いしなければいけないことがなかったか?
はて? 何だったか?
思いださないということは、大したことではないだろう。
それもそうだな。
次回からも、オスカー空をゆくを……よろしく。




