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私の理由  作者: あまみわつき
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キヨミ(前編)

一般社会のカテゴリーから見ればそれはアンモラルなのかもしれない…

それでも彼女たちは前を向いて生きていく。

ハッキリした理由なんてわからないけど、そうすることが生きていくことだから…

                          

#1 ホテル 夕方


高級ホテルの一室。カーテンの開け放たれた窓からは新宿の街が見えている。

部屋には男の荒い息遣いと女の喘ぎ声が響き、ダブルベッドの片隅に女子高生の

制服と下着が乱雑に脱ぎ散らかしてある。

ベッドで上になっている男。顔は見えないが少しやせ気味の背中には吉祥天女の

刺青が施されている。

男の下には、感じている表情の少女・キヨミがいる。


キヨミNA「わたしはキヨミ 17歳。援デリでバイトしている。

      いわゆるウリってやつだ。理由はお金。それに…多分セックスも

      好きなんだと思う…

      もちろん悪いことなのは知っている。でも、しょうがない」


    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


時間が少し経過している。キヨミは裸のままベッドでゴロゴロしている。

刺青の男はシャワーを浴びた感じで上半身裸でスラックスのみ。

キヨミの枕元にポンッと10万円を置く。


キヨミ「すっごーい。オジサンって…やっぱりヤクザ屋さんなの?」

    

答えない男。男の顔が初めてわかる。男はやせた中年で、優し気な表情を

している。刺青がなければとてもヤクザには見えない。


キヨミ「あ、そうだ。私のもう一個のLINE教えとくから

    今度からそこに…」


男、困った表情で半身を起こしたキヨミの髪をクシャクシャっと撫でながら


男(途中で)「イヤ。いいや」

キヨミ「…良くなかった?」


男、クスッと笑い


男「イヤ。女子高生っていったって中身は立派な女なんだな」


言葉の意味をつかみかねて、キョトンとした表情のキヨミ。



#2  学校 昼


キヨミの通う高校。お嬢様女子校のような雰囲気。


授業中の教室。退屈そうに授業を受けているキヨミ。


キヨミNA「援デリ(援助交際デリバリー)ってのは、風俗や出会い系なんかに

      登録できない、私たちみたいな未成年の女の子が登録して、ベース

     (って私たちは呼んでいる)が私たちになりすまして出会い系サイトや

      SNSなんかで客を募集してくれて、連絡のあった客とのやりとりを

      スクショして送ってくれる。後は直接会って、お金もらってセックス

      するだけ。ベースにはもらったお金の3割を渡せば、メンドクサイ

      募集もやってくれてなにかトラブった時のケツモチってやつもして

      くれるらしい。でも、お金持ちの客とかには直接連絡先を教えて

      会ったりもしてる…」


その時、ポケットの中のスマホが震える。通知だ。

こっそりとスマホを取り出し見るキヨミ。見覚えのない相手からのLINE

が届いている。

何気なくメッセージを見て、表情が驚きに変わる。

    

メッセージ画面に「お前ももうエイズだ。ざまあみろ」の文字。



#3  マンション ドア前 夕方


マンションのドア前。インターホンを押すキヨミ。

しばらくの間。ガチャッとドアが開く。

男前だがチャラそうな男・ミウラが立っている。


ミウラ「珍しいな、キヨミがココに来るなんて」



#4  マンション


キヨミがベースと呼んでいる。マンション。

といっても、安っぽい応接セットと机にノートパソコンがあるだけの

ワンルームマンション。

応接テーブルの上にはスマホが数台置かれている。


ミウラ「まあ座れよ。いまなんか飲み物出してやるよ」


ミウラ、ひょうひょうとした感じでうながす。


キヨミNA「この男はミウラ。でっかい半グレ組織にこのベースを任されて

      経営してるって本人は言っている。けど、いつ来ても1人しか

      いないし、ホントはコイツ1人でやってるんじゃないかと私は

      思っている。私と唯一タダでセックスしてる男だ」

    

キヨミの表情は厳しい。ミウラ、気づいて


ミウラ「どうした? コワい顔して」

キヨミ「コレ、アンタのイタズラなんかじゃないよね?」


スマホを手渡す。ミウラ、受け取りながら


ミウラ「なんだよイタズラって…」


画面を見たミウラの表情が変わりキヨミを見る。


ミウラ「オイ…コレって…」

キヨミ「…………」



#5  病院 昼


町医者にしては立派な建物の病院「三浦産婦人科」という看板。

    

診察室ではなく、その奥の院長室的な立派な部屋。

豪華な応接ソファーにキヨミとミウラがちょこんと並んで腰掛けている。

向かい合うように、医師が座っている。医師は30過ぎ位ので若く、いかにも

キレ者っぽい冷たさを漂わせている。


医師「───二人とも陽性ですね」


呆然と医師を見る2人。


ミウラ「ハハ…まさか……」


医師、無感情な感じで


医師「HIVは抗体ができるまでに…つまり検査してハッキリと陽性だと

   わかるまでには感染してからだいたい6週から8週かかると言われて

   います。つまりそれ以前に関係を持った男性に感染されたと考えるのが

   自然でしょうね。ま、一体何人と関係を持ったのかはわかりませんがね」


青ざめて俯いているキヨミ。


医師「それにそれ以降にキミが関係を持った人間には、キミが感染うつしてる可能性も

   あるわけですけどね…」

ミウラ「オイッ」


医師を咎めるような表情のミウラ。構わず言葉を続ける医師。


医師「知ってるかい? エイズに限らずSTDは咥えたり、舐めさせたり

   するだけでも、虫歯1つあれば感染る可能性だってあるんだよ」


耐えかねて部屋を飛び出すキヨミ。


ミウラ「オイッ、待てよ! キヨミッ!」


ミウラ、厳しい表情で医師を見て


ミウラ「─ったく、言い方ってもんがあるんじゃねえの? …先生」

医師「……自業自得とはいえ、弟にエイズを感染されてるんだ…

   キツイ言い方にもなるさ」

ミウラ「へッ、そんなに弟想いの兄貴だとは知らなかったよ」

医師「………。どうする? 医者としては投薬治療を進めるし、なんなら

   専門医に紹介状も出すぞ……」


無言で医師を見るミウラ。皮肉っぽく微笑んで


ミウラ「本音は医者の身内からエイズ患者が出たなんて知られたくないん

    じゃねえの?」

医師「………」


部屋を出ていこうとするミウラ。思い出したように振り返り


ミウラ「あ、親父には…」


医師、振り返らずに了解の意味で片手をヒラヒラさせる。

寂しげに微笑を浮かべ出ていくミウラ。



#6  ファーストフード店 昼。


ハンバーガーショップの一角にミウラとキヨミが向かい合って座っている。

ミウラはハンバーガーを頬張っている。キヨミの方は相変わらず元気がない。

ミウラ、そんなキヨミを見ながら、モゴモゴと


ミウラ「──な~んかさ~」


ミウラを見るキヨミ。


ミウラ「いきなりエイズとか言われてもピンとこねえよなぁ…こんなふうに

    腹だって普通に減るし…」

キヨミ「…………」

ミウラ「ところでお前、ホントに心当たりねえの? そうだ、アイツは?

    ホラッ、何度か続けて来てたオタクっぽい客。本アカ教えろって

    つきまとわれてるって。そういや最近まったく来てないし…」


キヨミ、思い出したようにハッとして、あわてて


キヨミ「アイツって事は無いよ。絶対!」

ミウラ「なんで?」

キヨミ「だ、だって…」



#7  カラオケボックス(回想)


カラオケBOXの一室。室内にはリクエスト曲の伴奏が流れ、モニター画面

にはアニメの映像と歌詞がむなしく流れている。

その映像に合わせるかのようにあえぎ声が聞こえる。

モニターの足元のソファに制服姿のキヨミがひざをM字に立てた状態で座り、

その足首にはパンティがからまっている。

股のところには、オタクっぽい男がキヨミのアソコをのぞき込むような

体勢で床に正座して自慰行為をしている。

感じているキヨミの表情


キヨミ「アッ…ぜ、絶対その指以外入れたらダメなんだからね…アンッ」

キヨミのアソコに男の左手の人差し指が入れられている。が男の手には

手術用のピタッとしたゴム手袋がはめられている。

いまにもイキそうな男の表情。


男「わ、わ、わかってるよ…だ、だからまた会ってくれるよね…ウッ…イック…」



#8  ファーストフード店(#6直結)


あきれた表情でキヨミを見るミウラ。


ミウラ「………それでいくらもらってたんだよ?」

キヨミ「……さ、3万」

ミウラ「俺に内緒で?」

キヨミ「う…」


ミウラ、キヨミから視線を外し、店内では禁止されている電子タバコを吸い


ミウラ「いいけどね…いまさら」


ミウラ、まわりに座る、けっして美男美女とは言えない、数組の仲睦まじい

恋人たちを見ながら


ミウラ「そうやってブ男は長生きするんだろうなぁ」


落ち込んだ様子でうつむいていたキヨミ。


キヨミ「なんか……」


突然顔を上げ、ミウラを見て大声で


キヨミ「なんか超ムカついてきた! 決めた! 絶対見つけてやる! 絶対!!」


ポカンとした表情でキヨミたちを見る、まわりの客たち。


                                 つづく

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