3日目 異世界のハロワに出かけよう
投稿予約していたはずなのに、うまくいっていませんでした。
初心者ならではの失敗・・・なんでしょうか?
記念すべき―――かどうかはさておき、一生モノのトラウマにはなりそうな異世界転移初日の成果だった薬草を、昨日神殿が買ってくれた(渋々感が凄まじかったけど、ゴネにゴネて倍の値段で買い取らせた、どうせあと少しで放り出されるんだ、こいつらにどう思われるかなんて気にしたら負けだ)ので、俺の手には今、この世界の通貨がある。
というわけで、初志貫徹しよう。薬草採取用の袋を買うんだ、そうしよう。
道案内さんがバザールへ誘導してくれたので、道具屋へ。っていうか、道案内さん、何気に優秀だな?外れスキル呼ばわりしてごめんよ。あとは、鑑定と一緒にすると文字情報酔いしてしまうことだけどうにかすれば―――って、それはレベルをコインで買わなきゃなんだっけ。
「初々しいカップルだねえ、この辺じゃ見ない服装だけど、巡礼かい?それとも隊商にでも加わっているのかい?」
カップル・・・?道案内さんが可視化されているんだろうか、っていうか道案内さん女性だったんだね、字面だけだと分からな・・・いやいやいや!
「うーちゃん!?」
左手でずり落ちそうな学ランのズボンを押え、大きなTシャツの襟ぐりを右手で押え、恥ずかしいのか怒っているのか、とにかく少しだけ顔を赤くして不機嫌そうにしている、女体化うさぎがいつの間にか背後に!足音しなかったんだけど!怖すぎるんだけど!
そうか!気配を消せるのか―――さすがは剣聖の孫・・・
いや、感心している場合じゃなくて。
「何しに付いて来たんだよ、うーちゃん?」
「はあ!?護衛だろ、護衛!お前、昔っからオレより弱っちいだろうが!」
否定しないけど、さすがに今は俺のほうが強いはず・・・うさぎは女の子になってしまったわけだし、どう見ても両手が塞がっているし。
よし、鑑定!
名前 ウサギ・ウチハマ(内浜うさぎ)
種族 ヒト族(異世界人)
称号 転移者
クラス 狂戦士
ジョブ 無職
HP 1924/1925 MP 1937/1937 攻撃力911(+30) 防御力481 賢さ806 素早さ1983 運322
スキル 時間停止Lv.1 自動翻訳(ヴァーチュ語) 曲刀Lv.9 片手剣Lv.7 両手剣Lv.8 長刀Lv.7 短刀Lv.9 特殊剣Lv.3 印地Lv.MAX 乱定剣Lv.8 棒術Lv.3 投げ技Lv.6 打撃Lv.3 蹴撃Lv.4 体術Lv.7 斬撃Lv.8 受け流しLv.8 刺突Lv.4 抜刀Lv.5 猿叫Lv.3 気配遮断Lv.2 索敵Lv.3
必殺技 力の暴走 素肌攻め
装備 カーリー女神婿候補専用スカーフ
所持コイン 0
ええっと―――どこからツッコんだら?とりあえず、強いな、うさぎさんよ・・・そしてバーサーカーなんだね、うさぎさんよ・・・喧嘩最強伝説は本当だったんだな―――むしろコレに喧嘩売るヤンキーが可哀そうだよ。うさぎなのに一匹狼でいられる理由がわかったよ。怖いよ、絶対怒らせないようにしよう。地味に印地打ちとかレベル振り切れてるじゃないか、イマドキどこに石なんて転がってるんだよ、どこで喧嘩してるんだ、こいつ・・・でも、こっちの世界じゃ有用かも。それにしても、剣聖よりスキルが多いのはなんでだ?上位スキルに統合されたりするのか?あと「素肌攻め」ってナニ!?めっちゃ字面エロいんだけど、多分意味が俺が想像したのとは違うんだろうな、ってことだけは分かるよ?あと、なんで攻撃力のプラスが俺より多いの?同じスカーフしか装備してないよね?だいたい、こいつ、男に戻れるの?なあ、ブラフマー!
ブラフマー・・・?
・・・返事がない、ただの独り言のようだ。
こほん。
そうだな、もう呼びかけには応じない、なんて言ってたしな。コロッケ返せ、って言いそびれたな。
「護衛なんて・・・」
いらないと、言えないな、この圧倒的な力の差を見せられたら。とはいえ、流石に―――中身が喧嘩最強一匹狼なDKだとしても、現行で外見は明らかに女子だし、男子としてはこう・・・なんというか、情けないような・・・俺、こいつに勝ってるところ、家庭科スキルしかないじゃん・・・
「あんた、こんなカワイイ娘に護衛させてんのかい?子供とはいえ情けないねえ。」
俺もそう思います。
「俺はその―――流れの理髪外科医見習いで。」
息をするように嘘を吐く俺をうさぎさんがジト目で見ている。生きるためなんだからほっといてくれ。っていうか、うーちゃん、ちゃんと考えてるのかな?どうやって生き残るか?考えてなさそうだな~。学校の勉強はできる子なんだけどな―――実戦には強いけど実践には弱いんだよな、昔から。壊滅的に不器用だし。
「この辺りは初めてで。でも、そろそろ腰を据えて修行しようかと思っていて。ひとまず薬草採取くらいしか仕事を思いつかないんですけど―――採ってきたら買い取って貰えます?」
「理髪外科医なんてやめときな、あんまりまっとうな仕事じゃないだろ。あんたまだ若いんだからもっと違う仕事を探しな。薬草ならうちで買い取ってもいいけど、町の外に出るんなら魔石も売るんだろ?魔石はうちじゃ買えないよ。」
理髪外科医の地位の低さよ・・・門番にもこんな扱いされたな・・・やっぱりあれか、外科医でもなければ床屋でもない怪しさがいけないのか・・・?
「魔石ですか。」
「ああ、とてもそうは見えないけど、旅して来たなら魔物と少しは戦えるんだろう?魔物を倒した時に手に入る魔石は口入屋で買い取ってもらってたんじゃないのかい?口入屋なら薬草も魔石もまとめてマガダに変えられるから、町の外に出る奴は口入屋でまとめて売っちまうことが多いね。」
魔石に口入屋―――知らないワードだ。
『ますたー、魔石ハもんすたー討伐ノ証デス。討伐ニ成功スルト魔石トこいんヲ入手デキマス。口入屋ハ、ますたーノ世界デ言ウ冒険者ぎるどトはろーじょぶヲ合ワセタモノトオッシャッテイマシタ。』
ハロージョブ?
あ・・・ハロワね、理解。
「この町の口入屋ってどこ?」
『行先ヲ口入屋ニ設定シマス。』
「この先の日時計の広場から、武器屋の角を曲がって二本目の道を・・・」
なんてこった!道案内だらけで大混乱だ!
さて。やってきました、口入屋。
受付らしき嬢が居るところに並んでみる。目立たず騒がずぼちぼち生き残りたいのに、めちゃくちゃ注目を集めているのはなんでだ・・・?あ、うさぎのせいか。そうだよな、美少女がずり落ちそうな服を押さえながら周囲にガン飛ばしまくっているなんて、異世界じゃなくても異常な事態だよな。
よし、一旦無視だ、無視。俺はこの痴女とは関係ありませんよ、っと。
「仕事を紹介していただけると聞いたのですが・・・」
「ご利用は初めてですか?」
「はい。」
「身分証はお持ちですか?」
「ええっと・・・コレで。」
赤い棒を差し出す。
「理髪外科医の方ですね・・・営業履歴は無いようですね。お名前はオトヤ・カワバタ様で間違いないでしょうか?」
「はい。」
「失礼ですが、こちらの身分証には身元情報が入っていないようです。」
「ええと―――じゃあ、こっちで。」
黄色いスカーフ、これでどうだ。
「今回の召喚者の方ですか・・・」
え?受付嬢、事情通?
「婿候補の方々のうち、神殿から扱いを保留された方はたいてい皆さん、ここで仕事を探されます―――流石にこれほど若すぎる、実力の低い理髪外科医の方は初めてですが。」
「若すぎる・・・実力の低い・・・」
「失礼いたしました。これまでの傾向では基本的に戦闘職の方ばかりでしたので・・・」
いいんだよ、泣いたりしないよ、しないんだからな!
「しかし・・・この腕では理髪外科医を開業するのはまだ早いのではないですか?」
俺もそう思います。
「とりあえず、日銭が稼げる仕事を探しているんです。」
「それなら・・・三助はいかがでしょう?」
三助―――三助だとう!?それは怒涛のエロ展開なのか・・・!滾るわ。でもなー、俺、中三だよ?これから受験だよ?一発目から勧められる仕事が三助て―――元の世界に戻ったら進路に壮絶に悩みそうだな・・・でもエロ展開は期待値大かな。ぐふふ。いや、待て。今背後から殺気が。女体化した幼馴染が同席しているこの状況でワクワクするのはちょっと配慮に欠けるか・・・?ここはひとつ、一回もっと普通な仕事をしてから、うさぎ抜きの時に三助を引き受けてみたり・・・
「なかなか空きがでない仕事ですが、ちょうど今、求人が出ています。競争率は激しいかもしれませんが、既に理髪外科医でいらっしゃるなら問題ないでしょう。まず、この書類の空欄を出来るだけ埋めてください。埋められないところは空欄でも構いませんが、今後、仕事の斡旋に使用しますので、出来る限り埋めていただいた方が職探しでは有利になります。書いていただいている間に、三助の受付処理を済ませておきますので・・・」
ヤバイ、ぐいぐい来るな、この受付嬢。俺はどうしても三助を勧められるのかな・・・?そんなに俺、他に向いている仕事なさそう?
三助って、あれだよな?風呂場でお背中流す人だよな・・・?
『三助ハ、垢スリトまっさーじ、髭剃リ、爪切リ、薬湯ノ準備、風呂場ノ清掃、オ湯ノ管理ナドヲ担当スル仕事デス。理髪外科医ハ理容ノ面デ仕事ガ重ナル部分ガアリマスノデ、ますたーハ適任ト思ワレタノデショウ。』
意外と忙しいんだな、三助・・・っていうか、さ、異世界に来て最初に勧められる仕事が三助・・・冒険者とかじゃないのか、転移者の王道は。
「オレも・・・仕事が欲しいんだけど。」
「ではこちらの書類にご記入を。」
うさぎも働くつもりらしい。まあ、少なくとも正しいサイズの服を買う金は必要だろうが・・・あの美少女顔で三助はエロ展開しか想像できないからヤメてもらいたいんだけど。幼馴染の男相手にエロ想像してしまった俺の純情を返せ!
名前 オトヤ・カワバタ
出身地 ―――
年齢 15歳
特技 ―――
趣味 ―――
所持スキル 獲得コインUPLv.1 道案内Lv.1 鑑定Lv.1 自動翻訳(ヴァーチュ語、理髪外科医語) 髪結いLv.1 外科医術Lv.1 曲刀Lv.2 片手剣Lv.1 両手剣Lv.2 棒術Lv.1 体術Lv.1 日曜大工Lv.2 料理Lv.2 裁縫Lv.1 清掃Lv.2
こんなもんか。うさぎはどう書いたんだろう?
名前 ウサギ・ウチハマ
出身地 ―――
年齢 15歳
特技 喧嘩
趣味 読書
所持スキル 時間停止Lv.1 自動翻訳(ヴァーチュ語) 曲刀Lv.9 片手剣Lv.7 両手剣Lv.8 長刀Lv.7 短刀Lv.9 特殊剣Lv.3 印地Lv.MAX 乱定剣Lv.8 棒術Lv.3 投げ技Lv.6 打撃Lv.3 蹴撃Lv.4 体術Lv.7 斬撃Lv.8 受け流しLv.8 刺突Lv.4 抜刀Lv.5 猿叫Lv.3 気配遮断Lv.2 索敵Lv.3
特技:喧嘩って―――いや、特技なんだろうけど、それで何の仕事貰うつもりなんだよ。っていうか、趣味:読書って―――もうお前不良なんてやめちまえよ。確かお前の通ってる高校ってウチから通える公立の中で一番偏差値高かったよな?賢くて本読むのが好きなボッチ(一匹狼ってつまりはそういうことだろ?)なんて最早、不良気取る意味あるのか?
「素晴らしいスキルですね。このスキルでしたら―――単発の仕事依頼を受け続けるのも良いかもしれませんね。短期の仕事はモンスターの討伐や、隊商の護衛などが主な依頼です。定期のお仕事でしたら、神殿騎士か・・・お勧めはしませんが、代闘士の組合なども新人募集はしています。」
―――お前は王道の冒険者路線なんだな、うさぎさんよ。
「はい、こちらが三助の紹介状です。」
俺は三助決定なのかよ・・・複雑だ・・・
「風呂屋に連絡したところ、面談は明日になりました。紹介状を持って午前中に先方に行ってください。」
#日記 3日目(帰還まであと1093日)
剣聖赤ん坊爺さん(ネーミングセンスが欲しい)が、寝返りのたびに物損事故を起こす(攻撃力が高すぎるんだよ・・・)せいで、千代さんと剣聖バブ爺(どう略してもダサい)は神殿で身柄を拘束されることになった。
拘束される、とはいえ、神殿で囲われるんだから身の安全は保障されている。
つまり、一週間後(正確には六日後)、神殿の庇護から追い出されるのは俺とうさぎだけってことになる。どうしてだ。どう考えても俺のステータスは保護すべきレベルだろ、千代さんの次に!#
理髪外科医は中世ヨーロッパの実在職業です。この、理髪師なの!?外科医なの!?という究極のどっちつかずを主人公にしてみたくて見切り発車しました。正直詳しくはないので、まだまだ調べて書いていかないとな、と思っています。