1日目 後編 異世界日記、始めました
今まで「〇日目」だけの表記だったサブタイトルに、多少の文言を追加していくことにしました。
内容が分かりやすくなっていればいいのですが・・・
ごめんなさい。甘く見ていました。
そうだね、こういうRPG風の町にはたいてい、門番っているよね。
「△×%身分証◇■&・・・」
はーい、わかりませーん。そもそも俺、英語すら苦手だったんだよ?異世界言語なんてムリムリ。翻訳スキルがあるって聞いたから安心してたのに・・・俺の翻訳スキルってどうなってんだ・・・?
『ますたーノ翻訳すきるハ理髪外科医用語ニノミ対応シテイマス。理髪外科医語ハう゛ぁーちゅ語ト古代う゛ぁーちゅ語ヲ混ゼタ造語デス。』
ヴァーチュ語ってのがこの世界の共通言語なのか。つまり俺の言葉はタイムスリップして来た「おじゃる」か「ござる」のようで、実質半分以下しか通じないと・・・厄介だな。っていうか、どうしてそんなヤヤコシイ言葉を喋るんだ、理髪外科医・・・・
『医者同士ハ古代語デ話シマス。流暢ナ古代語ハ知識階級ノ証デス。理髪外科医ハ庶民階級ナノデ古代語ソノモノヲ習得デキル環境ニナイ為、見様見真似デ医者ッポイ言語体系ヲ職業用語トシテ作リ上ゲマシタ。』
見栄なのか?商業的戦略なのか?どちらにせよ、なんか、苦労してるんだな、先輩たち・・・
って、感慨にふけっている場合か!明らかに怪しまれてるじゃん、今!翻訳対象の言語って追加で買えるのかな?道案内さん、カタログ出せる?
『追加ニハ1000こいんガ必要デスガ、ますたーハ既ニ理髪外科医語ヲ習得サレテイマスノデ現代語ナラ300こいん、古代語ナラ500こいんデ習得可能デス。』
しゃーない、ここは使うか、300コイン。アプラサス!通販で翻訳対象にヴァーチュ語を追加!
念じると、ちゃりんちゃりんちゃりんと、耳の奥で音がして―――頭を吹っ飛ばされたのかと思うくらいの大声がした。
「ちょっとお!早速通販機能使ってんじゃないわよ!このアタシに会いたくないってどういうことよ!あんなにサービスしてあげたのにぃ!」
あー、うるさい。あいつからの回線ってオフれないのかなー。まあいいか、一言で力尽きたみたいだし。
さて。気を取り直して。
「こちらの言っていることが分からないのか?身分証を出せと言っている。」
おお!聞き取れた!
できれば向こうの世界で欲しかったなあ、このスキル。万年2の英語が夢の5になったはずなのに。チックショー。
とりあえず、身分証ね、身分証。
「ええっと、これでいいですか?」
赤い棒を差し出してみる。
「変な喋り方をすると思ったら理髪外科医か。どうみても子供なのに仕事持ち―――お前、保護者はどうした?」
中三ってそんなに子供に見えるんだろうか。日本人は幼く見えるってよく聞くけど、その法則って異世界でも有効なのかな?
「ええっと・・・とりあえず、一人です。見た目ほどは、子供じゃないです。」
「変わった身なりだが、流れ者か?」
流れ者というか流されてきちゃったというか―――この場合、どう説明したらいんだろう?
俺が悩んでいると門番が赤い棒きれに手をかざした。ぶわん、手の甲の上に眼球をかたどったような模様が浮かぶ。鑑定スキルの一種だろうか。なるほど、この世界ではこうやって身元を調べるのか。
「ふん・・・家出人ではなさそうだ。犯罪歴も無いな。理髪外科医としては駆け出しか。名前は・・・オトヤ・カワバタ?やはりこのあたりの名前ではないな。どちらかと言えば、先刻御着きになったカーリー様の婿候補の方々に似た響きだが・・・ん?お前―――その布は何だ?信者の証のスカーフにしては素材と刺繍が少し・・・こちらも調べさせてもらうぞ――――!!!カーリー様の婿候補だと?こんな小僧が?しかも理髪外科医ごときが?」
理髪外科医なのは俺のせいじゃないって!あと、職業差別はイケマセン!
「今回の婿候補はどうなってるんだ!」
怒鳴らないで欲しい。俺が一番不満に思ってるんだからさ。
「ババアに娘に赤ん坊に―――今度はガキだと?」
ん?
俺以外の婿候補の中に女性と赤ん坊が居たってことか・・・?
もしや多重事故発生中・・・?
「まあ、勇者様か剣豪様で決まりだろうし、ババアと娘と赤ん坊は完全に〝ナシ〟だろうが―――このガキはどうしたらいいんだ・・・?カーリー様にガキなど相応しくないが・・・選考期間の間に多少成長する可能性も―――いやいや、理髪外科医だし、ヒョロいガキだぞ・・・?」
門番さん、心の声全部漏れてますけど!?
そもそも―――俺のお嫁さん候補ってどんな女神様?女神様だから美人だろうな~。どうせ俺は選ばれないんだろうけど、ちょっと覗き見してみたいような・・・
『かーりー女神ハ恐ロシイ女神デス。』
恐ろしい女神?怒りっぽいとか?少しくらいの嫉妬は可愛いけど、ヒステリックなのは勘弁だなあ・・・
『戦争ノ女神デス。』
予想の遥か斜め上だった。
『殺戮ヲ好ミ、戦闘シナガラ正気ヲ失ッテ暴走シ、血ヲ啜リ、勝利ノ舞デアラユルモノヲ踏ミ潰ス、恐ロシイ女神デス。』
なにそれ物騒!
『女神ガ血ヲ喜ブノデ、かーりがーとノ周辺デハ時折、信者ニヨル生贄狩リガ行ワレテイマス。』
物騒どころの騒ぎじゃなかった!
『ますたーモ、婿候補デナケレバ供物トシテ捧ゲラレル可能性ガ・・・』
もうやめて!怖すぎる!
『安心シテクダサイ。ますたーハ、婿候補デスノデ、スグニ殺サレルコトハナイデショウ。』
安心できる要素どこにあったよ!?
えー、結局。
門番さんが神殿に連絡して、カーリーに仕える神官たちが俺を迎えに来た。仲間内でもめまくってたけど、とりあえず、今日は神殿に泊めてくれるらしい。神官たちは陽が落ちたら労働しないという規則らしく、詳しい話は明日、だそうだ。これが所謂お役所仕事ってやつなんだろうか。知らんけど。
必要なものがあるかと訊かれたので、カレンダーとペンを頼んだら、カレンダーは神官たちの頭の中にあるという返事だったので、要望を紙とペンに修正した。巻物と筆が来たのでげんなりしたのは内緒だ。
長くとも3年、生き残って耐えろって話だったよな、ブラフマーの爺さんが言うには。
道案内さんが言うには、こちらの世界も暦法はほとんど元の世界と同じらしい。
つまり、一日を終えるごとにカウントダウンしていけば、残り日数が分かりやすいはずだ。本当はカレンダー消込していくのが楽なんだけど、まあ、仕方ない。いっそ日記でもつけてみるかな~。
異世界転移初日、うん、今日は振り返って書くことがたくさんある。
#日記 1日目(帰還まであと1095日)
異世界転移した。
巻き込まれただけらしい俺は、目立たず騒がず、帰還の期日まで生き延びようと思う。#
あれ?いっぱい書くことあると思ったのに・・・
いざ書こうとすると思いつかないな、書くことって。
しっかし、せっかく摘んだのにな、薬草・・・これ、どうしようか・・・?
ことは後先になりましたが、これはフィクションですので、実在する人物や団体とは勿論何の関係もありません。