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2、王立拘置所へ

 この時より、フィアット家には災難が続く。


 数日後。

 国中にお触れが出された。


 モントワール・フィアット公爵に極刑が下された、と。

 罪名は、皇帝暗殺未遂。

 単独で計画しており、実行犯役である刺客もすでに数名捕らえているとのこと。フィアット家はお取り潰し。公爵の位をはく奪され、家族や親類、使用人にいたるまで、暗殺計画に関与した疑いのある者は残らず処刑される予定、ということだった。


 それを知った公爵夫人は卒倒した。

 そして、翌日――。


 自ら首をくくって命を絶ってしまった。

 一人娘と多くの使用人を残して。


「お母様……お父様……どうして……」


 こんな時、箱入り娘同然で育てられてきたグレースには何もできない。


 身の危険を感じて使用人たちが屋敷を出て行こうとしたときも、引き止めることはできなかったし、憲兵たちが屋敷を再訪して自分を連れていこうとしたときも、何の抵抗もできなかった。

 気がつけば、王立拘置所の檻の中だった。


 すぐかたわらには、最後まで屋敷に残っていた下男のアルフレッドがいる。

 グレースは不思議に思って聞いた。


「アルフレッド。どうして? どうしてあなたは逃げなかったの? わたくしを置いて、みんなと一緒に逃げればよかったのに」

「……」


 寡黙だ。

 もともと口数が少ない男ではあったが、それがよりしゃべらなくなっている。


「もしかして……お父様に言われたことをかたくなに守っているの?」

「……」


 アルフレッドは使用人が全員いなくなった後も、家の事をひとりでこなしていた。しかし日に日にやつれ、身なりもだんだんと崩れてきてしまっていた。いまでは無精ひげがそのあごのほとんどを覆っている。


 ここに収監されてからも彼は、強い義務感からかグレースのことを気遣うそぶりだけは見せていた。

 しかし、グレースが無事だと判断すると、それ以外の時間は無駄とばかりに壁をずっと見つめつづけている。

 その姿は廃人の一歩手前だった。


 やはり、長年仕えていた主人が殺されてしまったことが大きいのだろう。

 グレースは変わり果ててしまった使用人に心を痛めた。



 翌日――。

 グレースとアルフレッドの刑が確定したと、看守から伝えられた。

 罪状は父親と同じ。執行される刑も父親と同じということだった。

 

 そしてそれは、三日後に執行されるとのこと。

 

「ごめんなさい、アルフレッド。わたくし、何もできなくて……。本当にいったい、どうしてこうなってしまったのかしら……」

「……」


 返事のない男に向かって、グレースは謝罪と、愚痴ともいえる言葉を口にする。

 本当に、わからないことだらけだった。

 まさか父親が皇帝を暗殺しようとしていたのは、事実だったのか? こんなにあっさり刑が確定するなんて、もしかしたらそうだったのかもしれない。


 しかし一方で、あの父に限ってそんなことをするはずがないという確信もあった。

 なにしろグレースの父親は国でも数えるほどの忠臣で、皇帝や国のためならば、己の身をいつでも投げ捨てられるというほどの献身家だったからだ。


 だから、きっと。

 これは誰かの陰謀に違いない、そう思った。

 父親の政敵であるうちの誰か。その人物に落とし入れられたのだと、グレースはそう固く信じた。

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