アリシアさんと小さな祓魔師 最終話
その後、程なくしてアリシアは別の礼拝所へ移動することとなった。祭司の知り合いが祓魔師を探しているというのが表向きの理由だったが、この礼拝所で務めつづけるのは難しいという判断だったのだろう。
アリシアはあっさりそれを受け入れた。移動先の祭司も男性だということは気がかりだったが、それはここにいても同じことだった。
ライリーやアシュリーのことはさほど心配してなかった。教えるべきことは伝えたつもりだった上に、内心今は距離をとった方が良いだろうと思ったのだ。
そうして、惜しまれながらも彼女はプレラーリ・エスタ・ブラッドリーを旅立ったのである。
***
それから数年たったある日、ベンから一通の手紙が届いた。お祓いのことで子ども達が相談に来るという内容だった。そこには新しく入った侍祭の子も来る予定だと書かれていた。
新しい侍祭の子と上手くやっているだろうか。期待と不安を抱えながら彼らを出迎える支度を調えた。
当日、馬車の音が聞こえてきたので玄関先まで出てみると、三人の青年達がはしゃぎながら馬車を降りていた。以前会いに来た時より更に背が伸びているように感じられた。
「ししょー」
アリシアを見つけたライリーが大声で呼びかけながら、彼女の懐に向かって駆けだしていく。女性は勢いよく彼を受け止め、強く抱きしめた。
「ちょっ、また大きくなりやがって。腰痛めるだろ、こっちはもう年なんだよ」
見上げながら文句を言う。いつの間にか、アリシアの背を越すようになっていた。
「元気だった?」
「元気元気」
お互い顔をほころばせながら話している所に、アシュリーがゆっくり近づく。
「アリシアさん、お久しぶりです」
「久しぶりー」
彼女は、片方の腕でアシュリーを抱き寄せ、軽くハグをした。二人の様子を戸惑いながら眺めている少年がいた。二人より少し背が低く、髪を切りそろえていて身なりのきっちりした子だった。厚手の綺麗なマントを羽織っている。彼に向かって手を差し出す。
「君が新入りのマルク君だね。あたしはアリシア・エヴァンス。ここで祓魔師をしているんだ。よろしく」
「初めまして、マルク・ネイサン・ファルベルと申します」
彼は手を握り返す。見えている二人を受け入れてくれた彼の優しさが伝わってくるように感じられた。人に認めて貰える経験は、二人にとって何よりの財産となるだろう。そんなことを思いながら三人を食堂まで連れていったのだった。
***
「師匠」
夜、寝る前に庭をぶらぶらしていると、いつの間にか隣に立っていたライリーに話しかけられた。
「どうした? マルク君は大丈夫そうかい?」
食堂で話をしている途中顔が真っ青になっていたので、早く休むよう伝えていた。
「あいつは寝てる。まあ、たいしたことねえだろ」
「分かんないよ。積もり積もってということもあるからね。私みたいに」
「今は楽になったのか?」
「ありがたいことにね。のんびり過ごさせてもらっているよ。ブラッドリーは良くも悪くも忙しないからね」
「そっか、なら良かった。あのさ、昔、一回赤ちゃんの声が聞こえるかって聞いたことあったよな。それってここにいても聞こえてるのか?」
「いきなりどうしたんだ?」
「なんか、思い出して。気になってきちゃってさ。なんか、思い返すと時々師匠、苦しそうにしてたから」
彼は恥ずかしそうに目をそらす。ぽりぽりと頭をかく癖は相変わらずだ。
「もう今は聞こえないよ。あれはなんだったんだろうね」
そう言って肩をすくめる。実は稀に聞こえることはあったのだが、昔の様に辛いとは思わなかった。
――もうこの世にいないけれど、確かに私の一部だった。これからもこの声とともに生きていく。母親として、祓魔師として、師匠として――
長々と書いてきましたが、これで今回の章は終わりです。ここまでお付き合い下さりありがとうございました。次回どんな話にしようか考え中ですが、今のところ過去編の短編を掲載する予定です。




