心を閉ざした少女 前編
アシュリーを迎え入れてから二ヶ月程経った頃のことだった。祭司がアリシアに「見てあげて欲しい人がいるから予定を空けておくように」と頼んだのは。
詳しい話を聞きに行くと、市参事会の人から娘について相談があったと祭司は答えた。立場上大礼拝所の方には頼みづらい様子だったそう。
「大礼拝所の方に借りを作ってしまうと、街の政治にも影響が出るらしくてね。難しいことは分からないが」
「それで、娘さんに何があったんだい?」
「どこで漏れたか分からんが、ここの祓魔師達は魔物が見えているという噂を耳になさったらしくてな。自分の娘も同じ類いかもしれんとおっしゃったのだ」
そう言って祭司はため息をつき、クルミを一つ食べた。
「私に見えているのかどうか確かめて欲しい、ということなんだね」
「その通り」
「けど、見えていることが分かった所でどうするんだろう」
「最近素行が荒れ気味だとおっしゃっていてね。大事な一人娘だから、嫁ぎ先のことも含めて色々心配しているのだろう。見えていなくとも、心を病んでいたり、取り憑かれている可能性も否定できんからの」
「確かに。心が弱っている可能性の方が高そう。ついこの間アシュリー君がここに来たばっかりだしね。見える子がそんなにいる訳ないんだからさ。これで本当に見えてたら凄いよな。私の周り、見える人だらけだ」
「全くだ。ただ、行き場を失ってここに集まってくることもあるからね。もしかしたら、君がここに駆け込んで来た時からその流れははじまっていたのかもしれん」
アリシアはカップに入った温かい葡萄酒を一口飲んだ。
(私の知らない所で、行き場を失っている子がまだ沢山いるのかなあ。娘さんもその一人なのかなあ。)
物思いにふけっていたアリシアに祭司が声をかける。
「ともかく、三日後の朝いらっしゃるから。辛いだろうがその日は早めに身支度をして欲しい」
「分かったよ」
二人が話している部屋の外で、子ども達がひそひそ話をしている。アリシアが席を立ち、扉の取っ手に手をかけると、二人は一目散に廊下を走っていった。聞き耳を立てていただけのようだ。
「逃げることないだろうに。大層な話でも無いのだからね」
と祭司。彼女は連れだって走っている二人の後ろ姿を見送りながら肩をすくめる。
「最初はどうなることかと思ったけど、なんだかんだ仲良しなんだな」
その表情は穏やかだった。




