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祓魔師の話  作者: かめさん
番外編 アリシアさんと小さな祓魔師
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はじめてのお祓い 中編

「足は前から悪くしていたんだけど、手は何とも無かったんだがね。それが、この前急に震えて動かなくなっちまって。医者に診せるにもお金がないし、近所にちょっと詳しい人がいるから診てもらったんだよ。けど何ともないって。血の巡りも良いんだとさ」


「それでここに来たんですね」


「そう。あと可愛いお嬢さんが診てくれるって言うもんだから。いやあ、期待通りだ」


「あ、それはどうも……」


 アリシアの顔は引きつっているが、老人はなお話し続ける。


「悪魔だって、もう天国に行くばっかのじいさんに取り憑いたって仕方ないと思わんかね。手が動かないとパン一つ食べられやしない。ますます天国が近づいちまうよ」


「それは大変ですね。その、手が動かなくなってしまった時、何か変わったことはありませんでしたか? 例えば、体調を崩されていたとか。誰かと揉めたとか」


「いつも通りだねえ。変わったことも無いね」


 その時、ライリーがカップを両手に持って入ってきた。こぼれないようそっと歩きながら机に置くと、大きく息を吐いた。


「良くできたな。ボウズ」


 老人がねぎらいの言葉をかける。ライリーは何故か嬉しそうな顔をすることなく、じっと動かぬ左手を見つめていた。


「あ、杖お持ちしましょうか」


 左手は現在動かせず、右手には杖を持っている。これではカップを持つことができない。アリシアは杖を受け取った。何年も使っているようで、所々木の繊維が見えている。

老人は震える手でどうにか水を口に含んだ。


「じいさん。ちょっと待ってろ」


 震える左手を目で追っていたライリーが急に部屋を出て行く。


「ちょっと、どこ行くんだい」


 老人が折角ここにいても良いと言ってくれたにも関わらず、勝手に部屋の外に出られては意味がない。部屋を出ないと約束させるべきだった、とアリシアは心の中で反省会を開いていた。


「何の話をしていたんだったかね」


 老人の声を聞いて自分の仕事を思い出した彼女は、杖を返し、椅子に座る。確か、最近変わったことが無かったか尋ねて、体調に問題はない、という所までだった。


「そうでした。最近、喧嘩とか、言い合いとかありませんでしたか?」


「喧嘩? そんなのもなかった。揉めるような家族も皆家を出ちまったし、隣近所のおかげで生きているようなもんだから。わざわざ揉め事起こす気にもならんよ。昔は譲れないことも沢山あったけどね。この位の年になると丸くなるんだなあ」


「ありがとうございます。不思議ですね。体が弱っている時や、誰かの恨みを買ってしまったという事例が多いのですけれど。あとは、そうだなあ。お墓とか、廃墟とか、悪い噂のある所を通りませんでしたか?」


「どうだかねえ。やったことすぐ忘れちまうもんだから。さて、ばあさんの墓へ行ったのはいつだったかな」


「お墓に行かれたんですか。そこで何かあったのかもしれません。一回、手を見せてもらってもいいですか」


 老人の隣に行って、しわくちゃの手を取る。青い筋が浮かんだ手は、確かに硬くなっており、無理に指を動かそうとすると、老人から呻き声が漏れた。


 急に手だけ動かなくなったという話から、何か見えないモノが関わっている可能性は高そうだ。しかし、耳を澄ましても声が聞こえないし、老人は正気を保っている。原因が分からない以上、対策が打てない。とりあえず、聖水をかけて暫く様子を見てもらおうか……。と考えていた時だった。


「ただいまー」


 ライリーが勢いよく入ってくる。手にはどこで見つけたのか白樺の枝が握られていた。そして、よりにもよってその枝で老人の手をつつき始めたのである。


「こら、ライリー辞めなさい。叩いちゃ駄目」


 かえれ、かえれ、と呟きながらべしべしと手を打ちつけるライリーを咄嗟に引きはがし、枝を取り上げた。


「すみません。すぐ冷やしますね。痛みはありませんか?」


「ああ、大丈夫だよ。男の子は悪戯するくらい元気じゃなきゃな」


「本当にすみません。あとできつく言っておきますから」


 彼女は慌てて食堂に向かい、タオルを水で冷やし、持って行く。


 彼をここで育てていくと自分で決めたことのはずだった。しかし、彼女は面倒を見るのに段々疲れを感じるようになっていた。どれだけ母親らしくあろうとしても、本当の母親にはなれない。所詮他人という逃げ道があるせいで、覚悟を決めきれないのだ。


 ライリーはどこかでそれを見抜いているから、勝手な行動をするのだろうか。アリシアはどういう存在であるべきなのか。かき分けても、かき分けても開けない茨の道を進んでいるかのような気持ちでいた。


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