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祓魔師の話  作者: かめさん
番外編 アリシアさんと小さな祓魔師
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はじめてのお祓い 前編


「ねえ、ママ」


「ママと呼ぶのは辞めてくれ。私は、あんたのママじゃない」


 週に二回行われる大きな祈りの儀式、グリフ。その支度でパンを切っている時だった。ライリーはその場ではじかれたように立ち止まり、目に涙を浮かべている。彼女はその姿をみて我に返った。


「ごめん。ここは危ないから、外に行ってて」


 誰も構ってくれないのだろう。とぼとぼと部屋を出て行く彼の背中は寂しそうで、アリシアはしまったと自責の念に駆られた。


 今日、ライリーの母親が夢に出た。彼女は、私の息子を返してと言っていた。しかも、朝からまた赤ちゃんの声が響いてきてとにかく寝覚めが悪かった。


 ライリーはいつの間にかアリシアをママと呼ぶようになっていた。


 礼拝所の慣例で、祭司のことを父と、自分より階級の高いものを兄さん、低いのを弟、ぼかす場合は兄弟と呼ぶ。 


 このまま育った場合、ライリーは聖職者として暫く過ごすことになるだろう。だから聖職者の生活に慣れてもらうためにも、殆ど不在の祭司に代わり、副祭司のことをパパと呼ぶよう言いつけてあった。


 副祭司がパパならアリシアをママと呼ぶのは自然な発想である。


 だが、本当の母親を目にしてしまったせいだろうか。アリシアはこの時、自分がママと呼ばれるのがどうしても我慢ならなかった。かといって呼び方がないのはふべんだろう。残念ながら礼拝所には女性聖職者の呼び方についての決まりはない。いないからだ。神に仕える女は大概求道所に入る。どう彼と向き合えば良いのか、分からなくなっていた。



 儀式が終わり、アリシアが相談者を案内していると、副祭司とビルが言い合いをしていた。二人の間にはライリーが肩身狭そうに立っている。


「流石に集中していなきゃいかんから面倒見れないよ」


 と副祭司。


「そばで遊ばせときゃ良いだろ。こっちだって屋根の上からじゃもっと見れねえよ。すぐに降りられる訳じゃなし」


 ビルもすぐさま言い返す。


「こちらだって書類が汚れたりしたら困るのだよ。屋根の修繕はこちらの仕事が終わってからじゃ駄目かね」


「明るいうちにやっとかねえと手元が狂うだろ。もう雲が濃くなってるから、急がねえとまた雨漏りするぜ。ベンの方は、最悪夜でも灯りを付ければできるだろうが」


「今日の夜はギルドとの話し合いがあるのだよ。書類は明日の朝までに大礼拝所へ届けないと間に合わないんだ。予算を急に増やすことになったから向こうの態度も厳しくてね」


 普段、子ども慣れしていて外にいることの多いビルが中心ではあるものの、手の空いた人がライリーの面倒を見ていた。だが三人とも急ぎの仕事が入ってしまったのである。かといって気軽に他の人へ世話を頼めるような子ではない。三人は困り果てていた。


「おやおや。子どもを一人にするのはいかんねえ。こっちいらっしゃい。わしゃ別に構わんよ」


 見かねた相談者の老人が、動かないと話していた方の手を僅かに上げて、彼を手招きした。ライリーはぱっと目を輝かせアリシアの方へ駆け寄っていく。


 彼女の方は今朝のこともあって、しばらく距離を置きたかったのだが、相談者の好意をむげにはできない。


「ありがとうございます。では、行きましょう」


 ライリーは真っ先に走っていって、祓い部屋のドアに手を伸ばす。一生懸命背伸びをするが、届きそうで届かない。コツコツと杖を鳴らしながらゆっくりと歩く老人。アリシアは、彼に合わせて後ろをついて行く。


 飛び跳ねながらなんとか取っ手に手をかけ少し開けると、今度は楓のように小さな手でドアをつかんで引っ張っていく。彼なりに相談者へ気を遣っているのだろうか。


 ドアに近い方の椅子に座ったのを確認すると、


「お水をもって来ますね」


 と声をかける。すると、


「俺が持ってくる!」


 机の上に手をついて、ジャンプしながら訴える。


「こぼしたら危ないから。ここで大人しくしてて」


「やだ。俺も手伝う」


 ここでの生活に慣れてきて、皆が仕事をしている姿に憧れたのだろう。お手伝いしたい年頃なのだ。


「じゃあ、お願いしようかな。食堂に行って、木のカップ一個に、綺麗な水を入れて持ってくるんだよ。おじいちゃんが飲む分だ。本当に大丈夫?」 


「大丈夫!」


 彼は元気に駆けだしていった。賑やかなのがいなくなって一息つくと、アリシアも席につく。改めて、老人の悩みについて話を聞いた。



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