副祭司に頼んでみる
ライリーにスープを飲ませた後、アリシアは彼を抱きながら副祭司に会いに行った。祭司はかなりの高齢で、動けない日も多いため、実質副祭司のベンが礼拝所を取り仕切っていた。ライリーは疲れたのか、それともお腹が満たされて安心したのか、腕の中で眠っている。
頭頂部をそり上げ、カソックの上にアルバ(上着)を着ている男が振り向き、目を丸くした。
「アリシア君、その子はどうしたんだね」
「食べるものを求めてここへやってくる孤児だよ。いっそのこと私たちで育てたらどうかと思って頼みに来たんだ」
副祭司は困った顔をする。
「悪いが、ここで孤児院を開くことはできんよ」
「分かってる。育て上げるのが難しいことも、不公平になってしまうことも。だけど、だけどね、ベン。この子にも変な声が聞こえて、しかも何かが見えているみたいなんだ。この子といれば、変な声の正体が分かるかもしれない。何で私だったのか分かるかもしれないんだ……」
副祭司には、彼女にだけ聞こえる声について打ち明けていた。だからつい心の奥にしまおうとしていた、本当の目的さえ話してしまう。平生を装っていたアリシアの頬
に涙が伝った。
「やだなあ。まるで、この子を利用しているみたいだ」
副祭司は袖で涙を拭おうとする彼女にハンカチを渡し、優しく語りかける。
「そんなつもりでは無いことくらい、分かっているさね。君の頼みだ。できる限り協力するよ。服やベッドを用意しなくてはいけないね。君の部屋でも大丈夫かい? 私の部屋でも構わないが、なにぶん、子どもの扱いは良く分からなくてね」
「ベン。我が儘言ってごめんなさい。ありがとう」
「なあに。気にしなくて良いんだよ。早いうちに洗礼式も行わないとね。次祭司様が来られるのはいつだったかな」
副祭司は手早く祭壇の前に拡げていた荷物を片付け、早足で出口へと向かう。扉に手を伸ばしかけたとき、聞きたいことを思い出して振り返った。アリシアは男の子を抱きかかえたまま長いすに座り、体を揺らしている。
「そうだ。アリシア君。こんなことを聞くのも良くないかもしれないがね、もしや、
まだ気に病んでいるのかい?」
その言葉を聞いた途端、アリシアの耳に遠くから声が響いてきた。
――ん。うわあああん、うわああああああん
ライリーのものではない。もっと小さな赤ん坊の泣き声。どこからともなく、微かに聞こえてくる。耳を塞ぎたくても、腕にライリーを抱いている。
彼女は首を大きく振った。ライリーがうっすらと目を開ける。起こしてしまったのか。彼女は慌てて抱え直す。
副祭司の顔つきから、心配する気持ちが伝わってきた。まだ昔のことを引きずっているのではないか。と気にかけてくれているのだ。それは分かっているのだが。
「大丈夫だよ」
アリシアは一生懸命口角を上げながらそう答えたのであった。これ以上、上手に返せる余裕は今の彼女になかった。




