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祓魔師の話  作者: かめさん
番外編 緑萌ゆる恋の季節
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緑萌ゆる恋の季節 最終話

 

 ゆっくり扉が開かれ、老婆が現れた。アシュリーが辺りを見渡しながら、後に続く。使用人が老婆の体を支えに行った。


「どうでしょうか……」


 上目遣いで尋ねる使用人に対し、アシュリーは黙って首を振った。


「悪いモノはいなさそうです。まあ、この年の人にはよくあることだから、もし手に負えないようならまた来て下さい」


「既に手に負えないから来たのですが」


「この方なりに困っていたみたいです。一緒にお祈りしたら気が楽になったそうですから、少しは落ち着くと思いますよ」


「そうですか……分かりました。また様子を見てみます」


 使用人の声が少し明るかった。悪魔に取り憑かれていないと分かってほっとしていたのである。もし母親のせいで仕えている店に不幸が訪れたら大変だと、気をもんでいたのだ。


「あの……」


「どうかしました?」


 使用人が何か言いかける。何かを探すような様子で左右に首を振っていたアシュリーの視線が使用人に向けられる。


「ちょっとお姉さんすいません、門の所に行きたいんだけど、もうお婆さんだから、道を覚えられないのよ、迷っちゃったみたいだけどねえ。どうやって行けば良いかしら?」


「はいはい、一緒に行きましょうね」


 老婆に話しかけられた使用人は、何も言わずに目を伏せ、老婆の背中を支えながら歩き出す。娘に支えられながら移動する老婆の足取りは来たときよりも軽かった。


 二人を見送っていたアシュリーが呟いた。横顔は懐かしんでいるようにも悲しんでいるようにも見える。


「ハンナさん年取ったなあ」


「それだけ貴方も大人になったってことじゃないかしら?」


「……かもね」


 再び、アシュリーが辺りを見渡し始めた。小さな窓に顔をくっつけている。


「どうしたの、さっきからきょろきょろしちゃって」


「なんか、誰かいたような気がするんだよね」


「妖精とかじゃなくて?」


「違うと思うんだけどな……。あと、その話なんだけどね」


「別に、私は何とも思ってないわよ。寧ろ、メルヘンチックで素敵じゃないの。私も見てみたいくらいだわ」


 アシュリーは顔を引きつらせたまま、肩をすくめた。


「君が思っているほど、良いことないけどね。とりあえず、黙っておいてくれないかな」


「あら、二人の秘密ってことね」


 ベラは、目を輝かせた。なんと甘美な響きだろうか。



「既に知ってる人、何人かいるんだけど」


「何よ。だったらあんなに嫌そうにしないでよ」


 今度は頬を膨らませる。アシュリーは困った顔で小さく笑ったのだった。


   ***


 それから暫く経ったある日のこと。ベラは、市場へ買い物に出かけていた。そこで、上質な服をきた貴婦人風の人と、軽くぶつかってしまった。女性のドレスは、今にも裾を踏んでしまいそうな程長かった。


「ちょっと、前を見て歩いて頂戴」


「すみません」


 ベラが頭を下げると、貴婦人は目もくれずに通り過ぎてゆく。後に続いた青年は、荷物のせいで歩くのが大変そうだ。その時、青年と目が合った。ダリルだった。


 帽子をかぶっていたせいで、気がつかなかったのである。


 ベラが、もう一回頭を下げる。すると、荷物を引きずるようにしながら彼女に近づいてきた。


「母さんがごめん。気にしないで」


「ううん、こちらこそ、お母様に悪いことしてしまったわ」


「いつもああだから大丈夫。そうだ、自分もまだ諦めていませんからね。いつか絶対兄を越えてみせますから」


 耳元でささやき、パチリとウインクする。


「え?」


「ちょっと、早くして」


「はーい」


 ベラが聞き返さないうちに、ダリルは荷物を抱え直して貴婦人の元へ急いでいった。


(ダリル、確かに兄って言ったわ)


 ベラは、スカートがはためくのも構わず、スキップしながら次の店へ向かったのだった。


 もうすぐ若葉狩りが行われる。きっと貴族の人達は若葉の冠を身につけ、馬も若葉色におしゃれさせて、森で愛を囁き合うのだろう。


 緑萌ゆる、恋の季節。平民にとっても例外ではなく……。



 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。次回からは別のエピソードになります。過去編になる予定ですので、気が向いたらまたお越し下さい。


 <補足>

 悪役の肌の色が緑になっているように、中世ヨーロッパでは良くないイメージを持たれている緑色。ですが、同時に新緑は恋の季節と捉えられ、愛の色ともされてきたようです。

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