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祓魔師の話  作者: かめさん
番外編 緑萌ゆる恋の季節
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決心

「ちょっと貴方、私と一緒に来なさいよ。え? 何でって? 友達になってあげるって言ってるのよ、もう!」


「ねえ、なんであの時声を掛けてくれたの?」


「このフラン様の周りで惨めったらしくしている人がいるなんて、我慢ならないじゃない」


「……うん。でも、私が一緒にいて、迷惑じゃない?」


「貴方と一緒にいたくらいで評判の下がる女とでもお思いかしら?」


「ううん。フランは、太陽みたいだもん」


「そうよ。太陽はいつだって燦々と輝いているものよ。魔女の呪いだか何だか知らないけれど、そんなの返

り討ちにしてやろうじゃないの。それに、貴方は人を呪うような子ではないでしょう?」


「うん。そうよ。私、そんなことしないもん。したくたってできないもん」


「……。しなくて良いのよ。自分が惨めになるだけよ。ほら、顔をあげなさい。私の次位に可愛い顔が台無しよ」


「……。うん」



   ***



 なんとか門が閉まる前に内ブラッドリー地区へ滑り込んだ二人は、城壁にもたれて一息ついた。


「ねえ、ちょっとあんたの家に泊めて頂戴よ」


 それを聞いたベラは、むくりと起き上がり、目をこする。さっき、昔の夢を見ていたような気がする。自身に満ち溢れすぎた彼女の言葉は、いつでもベラに勇気を与えてくれた。


「私は良いわよ。お家の人は大丈夫なの?」


 酔いが覚めてきたのか、はっきりした声で答える。


「大丈夫大丈夫。ベラの家だもの。パパだって怒ったりしないわよ」


 ベラは、城壁にもたれて腰掛けたまま、足を投げ出した。


 短い丈の草が、足にチクチクと触れる。真っ赤な夕焼けは西の山へ沈み、藍色に染まっていく空に、星が瞬いていた。


「流石に、暗くなってきたものね。朝帰れば良いわよ。送って行ってあげる」


「やったー。持つべきものは気の利く友達ね」


 フランが抱きついた勢いでベラがふらつく。二人は手を取り合いながら立ち上がり、ゆっくりベラの家へと向かった。街のあちらこちらに、ランプの火が灯され始めていた。

 


  ***



 翌朝、ベラは早めに身支度を済ませ、箒に乗ってフランを家まで送って行った。家に置いてある中では一番枝の太い箒を選んだものの、二人で乗るとやはり心許ない。折れてしまわないか肝を冷やしながら、柔らかい朝の風に乗る。


 彼女の家は街の中心地にあり、大礼拝所や、ギルド会館や、市庁舎等、街の中枢を担う施設が並んでいた。


 今日のようにフランが家に泊まっていくこともあれば、彼女の家へ招かれることもあるのだが、フランの家を目の当たりにする度に、フランを友達だと思って良いのか不安になるのだった。


 フランを下ろして学校に向かう途中、見覚えのある老婆が、大礼拝所の側を行ったり来たりしていた。ゆっくり高度を落としながら近づいてみると、ダリルの家にいた元使用人のお婆さんだった。


 箒から降り、老婆がちらちら目を向けている建物に近づく。門に取り付けられたプレートには、孤児院と書かれていた。見上げると、グリフォンと羽の生えた天使の描かれた鐘楼がそびえ立っている。


「大礼拝所の裏に、こんな所があったのね」


 老婆は、切羽詰まった様子で門の隙間から孤児院の庭をのぞき込んでいる。朝の散歩という雰囲気ではない。庭には、庭掃除をしている女性が一人。彼女が、老婆に気づいて、あからさまに顔をしかめる。奥へ逃げようとする彼女に向かって、老婆が話しかけた。


「ねえ、もし、そこの方。お坊ちゃまが、いつもお世話になっておりますわ。アシュリーお坊ちゃまは、元気にしていらっしゃるのかしら? ああ、ご主人様にはどうか内密に。勝手に来ただけですからね。散歩のついでですよ、つ、い、で」


「だから、うちにアシュリーという子はいませんよ」


「元気なら良いんですよ、元気なら。なんだか心配でついつい来ちゃってね。ほら、あまり外で遊ぶような子じゃなかったから」


「あのー。私、仕事がありますので」


「あの子は本当に可愛そうな子でね。あまり言えないんだけど、せめて、ここでは大事にしてもらえると良いんだけどねえ」


「何度も申し上げますが、貴方の探している人はいませんよ。ほら、ご家族の人が探していますから、お帰りになって下さい!」


 女性はぴしゃりと言い放ち、さっさと庭の奥へ行ってしまった。老婆は、孤児院にアシュリーがいると思い込んでいる。孤児院の人の様子から、何度も聞きに行っているようだが、迷惑がられていることに気づいてない。


 ベラは、悲しくなってきて、意を決して話しかけてみた。


「あの、おはようございます」


「あら、あら、ええ、ええ。ちょっと散歩ついでにね、来ているんですよ。あの、アシュリー坊ちゃまがご迷惑をおかけしていないでしょうか。大変な子だとは思うんですがね、元気にしていてくれると良いんですけどねえ。あの子は元気にしているのかしら?」


 老婆はベラを孤児院の人だと思い込んでいた。この前食事を勝手に持って行ったことや、物置部屋で話したことなど、もう覚えていないのだろう。


「ええ、元気にしているわよ。家族のような仲間もいて、優しい祭司様もいて、時には何人ものガールフレンドと遊びに行っているわよ。だから安心して頂戴。彼は元気にしているわ、大事にされているわ」


 たまらずベラは老婆の手を握り、力を込めて話す。例えこの言葉を覚えていなくても、また明日老婆が孤児院の人にアシュリーのことを尋ねに言っても、伝えておかなくてはならないと、強く感じたのだ。


「そう、それなら良かったわ」


 老婆はしわくちゃの顔で目を細めると、ゆっくり、ゆっくり杖をつきながら歩いていった。その後ろ姿を見送りながら、ベラはある決心をしたのだった。



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