友達に相談してみる
ベラは道中、腹を立てていた。愛する人を優先できなかった自分にである。かといって今更ダリルの誘いを断ることはできない。会いに行くこともままならないのである。
以前はなんとなくダリルについて行った結果、彼の店にたどり着いただけ。一人であの店にたどり着ける自信は無い。
とはいえ、ベラは選ばなければならない。同時に二人と会うことはできないのだから。
胸に石が溜まっていくような感覚を覚える。ベラは、この悩みを吐き出したくて、たまらなくなっていた。
そこに、一つの考えが浮かんだ。一人、恋愛ごとが大好きで、経験も豊富な友人がいたのである。
彼女は内ブラッドリーに家があるのだが、自由奔放な性格で、よく外ブラッドリーへ飲みに行っていたはずである。
一回だけ、彼女に連れていってもらった酒場がある。礼拝所へ行く途中にあるので場所も分かっている。ミグランの臭いや、騒ぎ声が受け付けなくて、それっきり寄りつかなかったのだが、友人と会う為である。家へ行くよりは会える可能性が高いと信じ、少し引き返して酒場へと続く道を進んだ。
ベラは、酒場の隅にある席で、友人のフランと相対していた。酒場の中に入ると、運良く彼女がリュートの弾き語りをしていたのである。
「どうしたのベラ、暗い顔して。また、あの人に浮気されたとか?」
細く整ったフランの眉が下がる。ベラは目に涙を浮かべながら、その眉さえ美しいと思っていた。
「違うの。どちらかと言うと、逆なのよ」
ベラは、途切れ途切れになりながら、フランにダリルと出会ってから起きたこと、二人と同じ日に、会う約束をしてしまったことを話した。話すだけ話し終えると、ベラは葡萄酒を一気に煽る。喉と腹の底が焼けるように熱い。ふらふらする心地に彼女は身をゆだねていた。
「あら、ついに、ついにあんたにもモテ期が来たのね。良かったじゃない。なんか、感慨深いわね」
フランは呑気に涙を拭う仕草をする。ベラは、頬を膨らませる。
「ちょっと、本気で困ってるんだからね」
「分かってるわよ。それにしても、兄弟で取り合いだなんて、好みは似るのね」
赤い葡萄酒を口に含み、ケラケラと笑うフラン。カップをそっと机に置くと、うなだれるベラに顔を近づけた。
「そりゃあ、友達には幸せになって欲しいもの。私の立場なら、他の女と平気で出掛けるような男にはさっさと見切りをつけて、あんただけを見てくれる人を選びなさいって言うわ」
ベラが顔を上げる。瞳が潤んでいる。
「でも、納得いかないでしょう? だって恋は心だもの。自分の気持ちに、素直になれば良いのよ。どれだけ体裁を取り繕ったって、いつかは壊れるわ。辛いかもしれないけど、片方には納得してもらうしかないのよ」
「そう、そうよね……」
「そんなに難しく考えないの。二度と会うなって話じゃないでしょ。謝って、また別の日に会う約束をすれば良いだけ。それで相手が怒って、もう会わないってなったら、そこまでの関係だったってことよ」
ドライな響きを帯びていたが、フランの言っていることは最もだとベラは思った。結局、不器用な自分が悪いのだ。
「あーあ。分からなくなってきちゃった。なんで、ダリルの誘いを断れなかったのかしら? 心に決めた人がいるはずなのに」
まっすぐベラを見つめる瞳に、心がギュッと捕まれたのは何故だろう。
私だけを見て欲しい。
あの時、彼ならその願いを叶えてくれるんじゃないか、という、淡い期待を抱いてしまったのではないだろうか。
ベラは、段々ダリルに対して負い目を感じ始めていた。
気が重くなるのと同じように、彼女の体も重くなってゆく。珍しく沢山のお酒を飲んで、眠たそうにしているベラを見かねたフランは、酒場を出ることにした。ベラに肩を貸し、店主にもらった水を度々飲ませては大通りを歩く。
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