もう一つの約束
ベラは、目を輝かせながら、自分の肩辺りを指差し、ぐるぐる円を描く。ライリーは、呆然と見つめている。
「この辺にもいるの?」
「うん、まあ」
「どんなのがいるの? もしかして守護霊とか?」
「えー、カブの妖精」
「あの畑の?」
「うん」
「えー。天使様とかいないの?」
「見たことないから分かんない。多分いないと思う」
「えー。何それ。占いだとファイペル様が守護霊のはずなんだけど」
「なんだそれ」
「魔法使いの中では常識みたいなものよ! 生まれたのが誰の日かによって、守護霊が決まっているの。ちゃんと守護霊に守ってもらわないと、魔法は上手くいかないんだから」
「それって確か、占いの類いですよね。占いに使えるほど名の知れている天使は数少ないですから。一人一人守護霊を当てはめていったら、一柱の天使が守らなければならない人数が膨大になってしまうと思うのですが」
「そういうこと言わないの! 天使様なら大丈夫よ。きっと千人でも二千人でも守って下さるわよ」
「うん、まあ……そうかもしれません……」
「見たこと無いから分からんけど、多分天使とかはそう近くに来ないんじゃねえの?」
予想したより好意的に、寧ろ興味津々な感じで受け止められたので、ライリーとマルクは驚いていた。互いに顔を見合わせる。
「意外と良い方向に転ぶかもしれませんよ。先輩」
マルクが耳打ちする。ライリーが胸をなで下ろした。
「で、何の用だったんだっけ?」
「気になることがあって、ずっともやもやしていたの。ようやくはっきりしてきたわ。私アシュリーの所に行ってくる」
「え? あ、ちょっと待ったー」
「さっきの話アシュリー兄さんには内緒にして下さーい」
ベラは、二人に手を振り、礼拝堂へ向かう。気にかけてくれた人がちゃんといたことを、彼は知っているだろうか。そして、伝わるかは分からないけれど、アシュリーがちゃんと元気でいることを、お婆さんにも知って欲しい、と彼女は考えていた。
一方取り残された二人は、マルクの叫びが届いていたのか心配しながら務めに戻ったのだった。
***
アシュリーは礼拝堂の椅子に座っていた。何か本を読んでいる。後ろから近づこうと忍び足で近寄ったが、足音で気づいた彼が顔を上げた。つかみ所のない笑みを浮かべている。
「ベラちゃん、また来たの?」
「ひどい、最近は来てなかったでしょ。ねえ、何読んでいるの? やっぱり経典?」
アシュリーは、クスクスと笑いながら、表紙を見せる。詩集だった。ベラも吹き出す。彼らしいと思ったのだ。
「あの二人、なんか仕事しているみたいだったけど、大丈夫なの?」
「やることは終わったから」
「早いのね」
「まあね」
彼のいたずらっ子みたいな顔から、適当に終わらせたことが窺える。実際、礼拝堂の掃除を任されていた
のだが、汚い机だけを拭き、箒で床を軽く掃いただけなのだ。マルクがその様子を見ていたら、腹を立てていたに違いない。
「それで、今日は何しに来たの?」
「あのね、実は、貴方の弟に会ったの。家にまで招かれちゃって」
「気になっているの? 彼のこと」
「別に、そんな訳ないじゃない。違うのよ。貴方に会って欲しい人がいるの」
「ごめん。もうその話はやめにしよう」
ベラは、歩きだしたアシュリーの背中に向かって呼びかける。
「待って。ねえ妖精が見えているって本当なの?」
「そのこと、誰から聞いたのかな?」
「それは……言えないわ」
「そう」
冷たい彼の声が、突き刺さる。
「ねえ、どうなの? はぐらかさないで!」
「無理。じゃあ、ウィシュトリーの日の午後、二人で会おう。その時にちゃんと話すから……話せるようにしとくから」
ベラが返事をしかけたとき、同じ日、同じ時間に、ダリルと約束していたことを思い出した。
「あの、ちょっとその日は……別の日にしてくれないかしら」
口ごもりながら、お願いする。もう熱いのか寒いのか分からなくなるほど必死だった。
「何か用事があるの?」
刺すような彼の視線は、ベラの胸の内を探っている。彼女は、本当のことを言うべきか、何か適当な理由を話すべきか迷い、モゴモゴと言い淀んでいる。自分に言えない理由があるのかと、ますますアシュリーは疑念を強めている。
彼が家族のことを良く思っていないのは明らか。そんな中、弟と会うなんて言ったら、ますます不機嫌になるだろう。まるでダリルの方が大事だと思われては困る。ベラは結局曖昧な返事をして、逃げるように礼拝堂を去っていった。
ここまでお越し下さりありがとうございます。以前一ヶ月毎日投稿するのが目標だというコメントを書いたような気がするのですが、そろそろ二ヶ月経とうとしています。多分、忘れた日は無いはずです! 危うかった日は何度もありますが……。(もしこの日投稿できてなくね? という日があったら見なかったことにして下さいね♪)
読者の皆様のおかげで、たったの二ヶ月かもしれませんが続けてこられました! 読者数ゼロの日が三日位続いていたら心折れていたと思います。本当に感謝です。
そろそろストックが危うくなって来ましたが、多少引き延ばし作戦を使いながらも、(出来れば長めの文字数で)顔を出していきたいと思います。少しでも面白いと思って下さった方は、頭の片隅か心の端で十分ですので、今後も応援よろしくお願いいたします。




