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祓魔師の話  作者: かめさん
番外編 緑萌ゆる恋の季節
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ドッペルゲンガー疑惑

 礼拝所の畑に植えられた野菜が大きく育っていた。いつもは真っ先にアシュリーの元へ向かうベラだが、今日は違う人々と一緒にいる。


「どうしよう、この前、学校で会っちゃったのよ、ドッペルゲンガーじゃないかしら」


 黒っぽいカソックに身を包んだ青年達が、ベンチに座っている。一番上のボタンまできちんと留め、時折胸元に挿してある羽根飾りを気にしているのがマルク、三番目のボタンをかけ忘れていて、襟にしわが寄っており、少し赤みがかった髪をしているのがライリーだ。


 ベラは、学校で出会った商人が、アシュリーと似ていたことについて話していた。


「なんだそれ、その、どっとるなんとかってやつ」


 ライリーが首を傾げた。ドッペルゲンガーが何のことか、分からなかったようである。


「ドッペルゲンガー。世界には、何人か自分にそっくりな人がいるって言われているの。その人に会うと、すぐに死んでしまうらしいのよ!」


「えー、怖っ」


 ライリーが腕をさすりながら、マルクの方へにじり寄る。


「どうしたんですか。近いですよ」


「寒くなってきた」


「そうそう会わないから安心して下さい。世界は広いですから。アシュリー兄さんのだって、流石にその、ドッペルゲンガーではないと思いますよ。単に顔が似ていただけでしょう」


「でも、本当にそっくりだったのよ。髪型も、服も雰囲気も全然違ったのに、一瞬、アシュリー? て思ったんだから。それにね、話し方も似ていたの。あのキザったらしい感じ。まさにあの人だったわ」


 マルクは、襟元を気にしながら、考え込んでいる。話し方まで似ているとすれば、何かしらの関係性があると思った方が良い。


「もう少し詳しく聞かせて下さい。商店の名前とか、様子とか」


「そうね、普段はお爺さんなのよ、だけどあの日はたまたま若い子がお店を出していたの。品物の雰囲気とかは変わってなかったから、多分代わりに来たんだわ。きっと小間物商の人だと思うんだけど。あと、今から思えば、アシュリーにしてはおぼこい感じがしたわね。ちょっとだけ」


 その時、マルクの目が見開かれた。ある考えが閃いたのである。


「彼は確か、商人の出身だったはず。もしかすると、ご親族の方なんじゃ」


 ベラ、ライリーも感嘆の声を上げる。


「じゃあ嬢ちゃんは、兄弟の家族と会ったってこと?」


「かもしれません」


 ベラは、まだアシュリーの家族について聞いたことがないということに気がついた。出会った頃には、この礼拝所にいたみたいなのである。


 好奇心がむくむくと沸き上がり、仮説を検証したくなってきた。彼のことを知れば、彼に近づく大きなチャンスになるかもしれない。


「こうしちゃいられないわ。早速聞きに行ってこようっと」


 ベラは、勢いよく相談室に向かって駆けだした。


「ちょ、待てよ」


 ライリーがベラを止めようとする。彼が家族の話をしたがらないと知っていたからである。しかし、彼女はあっという間に遠ざかっていった。




明るいアシュリーの声が聞こえる。ノックをして中に入ると、彼はカップを片手に座って聖水入れをいじっていた。


「ベラちゃん久しぶり。今日も可愛いね」


 カップを机に置くと、彼女に視線を向け、息をするように褒め言葉を口にする。しばらく他愛ない話や、相談事をした後、ベラは話を切り出した。


「あのね、アシュリー。この前、アシュリーととても似た顔の人に会ったのよ。もしかしてドッペルゲンガーじゃないか、って思ったんだけど」


 彼は、肩をふるわせながら、クスクス笑った。


「何それ、逆に会ってみたいかも」


「それがね、学校の近くで小物を売っている商人なの。アシュリーって商人のご子息だったのでしょう。もしかしたら、家族の人かもしれないね、って話になって、ねえ、アシュリーには兄弟っていたの?」


 ベラが商人のご子息、という言葉を発した瞬間、彼の瞳が揺れた。口角を上げてはいるが、目は笑っていない。動揺しているのは明らかだった。


「うん、ま、まあ。そうだね。いたのかと聞かれたら、いた、と言えば良いのかな」


 ベラは、これ以上アシュリーから聞き出せないことを察した。


「まあ、本当に兄弟かどうか分からないから。見間違いだったのかもしれないし、それにね、もしかしたら、もしかしたらね、本当にドッペルゲンガーだったのかも」


 必死で取り繕う彼女の乾いた笑い声が、二人きりの部屋に空しく響いた。


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