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祓魔師の話  作者: かめさん
第一章 先輩と兄さん
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少女の悩みと異変

 僕は礼拝堂でお話を伺う事になった。彼女はベラと名乗る。近年新設されたブラッドリー魔法学校の生徒だ。やはり、家は城壁の中にあり、比較的裕福な家庭であるようだ。


「あの、呪われている気がするってお話でしたが」


「この前、食事に行ったの。男一人と、女三人だったんだけど。私がその男の人と話していたら、ある女の人に滅茶苦茶睨まれちゃって」


 話している内容が、相手を不快にさせてしまったとかだろうか。


「話している内容とかは覚えていますか?」


「別に。ご飯が美味しいねって言ってただけよ。多分、私とその男が話しているのが気に食わなかったんだと思う」


「一緒にお食事した方々はどのような間柄で?」


「元々、男と、私と、友達と三人で出かけるつもりだったのよ。それなのにバッタリ会ったから、って男が急にもう一人の女を誘うから。あんまり話したことない人とも食事をすることになっちゃって。しかも、私といる時より、楽しそうにしてるし」


 中々複雑な関係性であるようだ。外で食事をする経験自体少ないのでよく分からないことが多い。


「やっぱりアシュリー、本当はあの女と行きたかったのよ」


「そんなことは無いと思いますが……」


「あるわよ。分かってるもの。私が一緒にいたって楽しく無いことくらい。どれだけ着飾っても、化粧に気を遣っても、仕草を直してみても、本物の美人には叶わない。才覚も愛嬌も無い。好きな人の隣には、いつだってもっと素敵な人がいて、振り向いてくれることなんて無かった。あの人はそんな私を可愛い、好き、って言ってくれた。でも、本当はそんなこと思ってなかったのよ」


 彼女の声には熱が入り、堰を切ったように涙が流れる。


「愛してくれる人なんていない、私に愛される価値なんてないんだわ」


「そんなことありません」


 僕はきっぱりと言い放った。自分でも驚く位に。


「神は、英雄ノーヴァムは絶対に貴方を愛しています。貴方の罪を許し、祝福を与えてくださいます。他の誰が貴方を見捨てようとも、神は見守ってくださいます」


 僕は彼女の手を握りしめた。彼女に愛される資格がないなんてありえない。ただ、自分で自分を愛すること、天から見守って下さる神を少し信じられなくなっているだけなのだ。


「それに、僕はこのような身の上ですので、女性として貴方を愛することはできません。でも、人として貴方の幸せを祈ることはできます」


「随分都合の良いこと言うのね」


「すみません」


「まあ、いいわ。言いたいこと言ったせいか、少し気分が軽くなったもの。そうだ、お話を聞いてくれたお礼よ」


「いえ、とんでもない」


 彼女は僕の手に匂い袋を乗せた。


「作り過ぎちゃって困っていたの。折角だから貰って頂戴。それじゃあ、お祈りしてから一旦帰るわね。二人にもよろしく言っておいて」


 手を組み、頭を垂れて祈りを捧げる。暫くそうしていると、彼女は軽く手を振って礼拝堂を後にした。彼女の姿が小さくなっていく。手のひらにある紫の巾着に視線を移す。余り嗅いだことのない匂いだ。悪くない。何より彼女が少し元気になったみたいで何よりだ。


 さて、そろそろ務めに戻らないと。そうだ、ライリーを振り切って来たのだった。何事も無かったかのように振る舞うか……。しかしいつかは彼と話さなきゃいけない。気まずいが、やはり、先輩に無礼を働いてしまったのだから謝罪するのが筋だろう。僕はライリーの部屋に向かった。


 それにしても、人が歩いているのに、話し声も、足音も、木々の揺れる音さえ聞こえない。妙だ。



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