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祓魔師の話  作者: かめさん
第七章 エルフの森と泉の悪魔
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夜の森

 僕達は、日が沈みゆく中、農村を駆け抜け、ふらつく体で馬を降りる。遠くで松明の火が集まっているのが見えた。キャロルを探している人達のものだと、すぐに見当がついた。彼らもこんな時間まで必死になっている。僕達もできることをしなくては。


 森の入り口で少し休んでから、木の皮を食んでいた鹿に乗り換えると、ほとんど前が見えない状態で、道なき道をつき進んでいった。


 途中で鹿に乗り換えたのは、実のところ、乗っていた馬は村で飼われていたものだったからだ。森の動物は、人間の街に慣れていないから、と老エルフは言っていた。人間が飼っている馬なら馬具の一つでもついていそうなものだが、取り外してしまったのか。これまでの言動からすると、エルフ達ならやりかねない。


 森に入って、まず飛び込んでくるのは、体がほぐれていくような、木の香り。体中に染みわたっていく新鮮な空気。土を踏む音、色々な動物の鳴き声、容赦なく顔にぶつかってくる虫の羽音。そして、ライリーの小さな叫び声。


 村を疾走していた時と違って慎重に歩いている鹿。相変わらず落とされないか不安なものの、周囲を見渡す余裕が出てきた。


 鹿の角には、小さな石のかけらが、蔓で結び付けられている。それが、ぼうっと白く光っていて、僅かに辺りを照らしていた。刺激を与えると一定時間光る、クレナ石。


 蠟燭やランプと比べ、熱くなることも、燃え移ることもない。ところが、かなり高価な上に、普通の人が刺激を与えても、僅かな間しか光ってくれない。従って、魔法使いが使用する灯りというイメージが強い。


 角に括り付けてあるのは比較的大きな結晶なので、この辺りに取れる場所があるみたいだ。


 ずっと鹿の背中に乗っていたものだから、段々退屈になって来て、いけないことだと分かっていても、瞼が重くなってきた。


 ふらつき、危うくエルフにもたれかかってしまったその時、開けたところに出た。月明かりが夜露を照らす。夢を見ているようだった。


 目を奪われているうちに再び木々が密集する狭い場所へと入っていく。視界が遮られる中、道を見つけられるのは、動物の本能か、経験の積み重ねが成せる業なのか。時折、動物達と目が合う。ギラギラ光っているのを見ると、背筋に冷水を浴びせられたかのような寒気が走った。


 時折、ピィー、とも、キィーともつかない鋭い声をエルフ達が発している。なんだろう。布をくわえているから、質問できない。


 水の臭いが風に混じって運ばれてくる。水の流れる音が聞こえてきた。


 木の向こうに、白い月が浮かんでいた。水面に映っている月が。あそこが、リムナの泉か。手前には、背丈の低い草が生えていて、つぼみをつけているものもある。奥の方には大きな岩がいくつか横たわっていて、隙間から水が湧き出ているみたいだった。灯りに照らされて、白や緑、群青色の粒が煌めく。


 僕達は鹿から降りて、座り込んだ。体のあちこちが痛い。辺りを見渡したけれど、静寂に包まれていて、人の気配がしなかった。魔物もいないような気がする。


 遅かったか……。


 絶望しかけた時、アシュリーの声がした。


「人が沈んだ感じは、ないよね、じゃあ、キャロルちゃんはどこに行ったんだろう」


 僕は慌てて泉に駆け寄って覗き込む。暗くて良く分からないが、昼間なら底が見えるのではないかと思うくらい澄んでいるのが分かる。彼女が既に沈められているのなら、想像したくない何かが映っているはずだし、血の臭いもない。


 後ろから、服を掴まれる。ライリーがくっつく位傍にいた。


「ちょっと、先輩近いですよ」


「だって、どこにいるか分かんなくなるだろ」


 声が震えている。怖いのか。確かに暗くて慣れない森の中では、すぐに見失ってしまいそうだ。


「大丈夫ですよ。ここにいますから。それにしても、キャロルさん、見当たりませんね」


「そうだな、じゃあ、間に合ったんだ。とりあえず、あいつも寝ているみたいだし。良かったな」


「魔物のことですか?」


「うん」


「そうですか。でも、実はここが目的地じゃなかったってことかもしれません」


「やめろよ」


 より一層服を引っ張ってくる。僕だって、本当はそんなこと考えたくない。だが、見つかるまで安心できないではないか。


「これから探し回るのは危険だ。夜が明けるまで待とう。近くに家がある。そこで仮眠を取るといい」


 ハルディアの言うことは尤もだった。夜、森の中にある泉に行くのもかなりの暴挙だったのに、あてもな

く彼女を探すのは無謀だ。見えないし、何に襲われるか分からないし、皆疲れている。


 もう一回危なっかしい鹿に乗って森を移動する。ほどなくして、大きな影が頭上を覆いかぶさった。木の上に何かが乗っている。しかも、三つ位ある。エルフ達が鹿の角からクレナ石を取り外し、背中に乗せられていた毛皮も取り払う。鹿達はフラフラと歩きだし、奥へ消えていった。


 石が照らした場所には、細い木の幹が映し出される。しかし、根が張っていない。おかしいと思って、目線を上に持っていくと、四角い影までたどり着いた。生えているのではなく、これを支えるために立てられているのだ。


 ハルディアが太い木を登っていき、縄が垂れ下がって来た。


「来い」


 これを伝って行けということだろう。僕の背中にしがみついていたライリーが縄を手に取り、木を登り始める。


「兄弟、あれ、登れる? 落ちたりしない?」


「だ、大丈夫ですよ!」


 アシュリーの笑い声が聞こえる。


「いやあ、お坊ちゃまだから木登りとかしないんじゃないかと思ってね。ああー。眠い」


 欠伸をしている。眠いのは僕だけじゃなかったみたいだ。


「兄さんこそ、寝ぼけて足を滑らせたりしないで下さいね」


「頑張ることにするよ」


 眠気を誤魔化す為に、取り留めのない話をしていたら、素っ頓狂なライリーの声がした。彼が慌てて木を降りて来る。弾んだ声で言った。


「おい、歌姫さんいたぞ」


 僕は居てもたってもいられなくなって、縄を手に取り木を登る。


 その先には、小さな家があった。入口にハルディアがいて、中を照らしてくれる。毛皮が床に敷き詰められていて、その上に寝転がり、静かな寝息を立てている少女がいた。間違いなくキャロルだった。そして、不思議なことに、彼女の隣で誰かが眠っていた。銀色の長い髪が、月明かりに照らされていた。


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