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祓魔師の話  作者: かめさん
第七章 エルフの森と泉の悪魔
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事件

 明くる日、エルフが礼拝所を去って、嵐のような一日が終わった。それから二日ばかり経った頃、恐ろしい事件が起きた。


 その日の午後、グリフが執り行われる。人気の聖歌隊もくることになっていた。ところが、キャロルが急遽、来られなくなったのだ。


 勿論、悲しむ参加者はいるだろうが、進行には問題ない。一番問題なのは、キャロルが来られない理由である。なんと、今朝、求道所に何者かが侵入し、彼女を連れ去っていったのだというのである。


 求道所に残っている人々が必死で捜索しているとのこと。彼女の身が危ない緊急事態の中、聖歌隊はこちらへ来て下さったのだ。


 聖歌隊が待機している食堂の隅。泣き崩れる聖女の背中を、アシュリーがさすっていた。


「私が逃げ遅れたせいで、キャロルさんが、あの子が私を庇って、連れていくなら私にしなさいって、言って、そしたら、うう、私のせいで、あたしがもっと早く」


「君は何も悪くないんだよ。大丈夫、誰も君を責めたりしない。どう見たって悪いのは連れ去った奴だ。そうだろう?」


「でも、でも、あの子にもしものことがあったら」


「確かに、分からないね。でも、信じてあげよう? あの子は結構強い子だよ。君を庇ってあげられる位、勇敢だから。大丈夫、神様はあの子を見捨てたりしない、大丈夫」


 彼女は目元を真っ赤に腫らして、とても人前に出られる状態ではなかった。アシュリーは完全に彼女に付きっきりだし、僕含めて礼拝所の皆、全然準備に身が入らない。聖歌隊の人達も、皆暗い顔をしていて、落ち着きがない。皆分かっている。それでもグリフを行わなければならないことを。


   ***


 どうにか儀式を終えることができた。ブーイングが上がったが、連れ去られたと言っては不安を煽るだけだろうということで、風邪をひいてしまったと説明した。


 パンと酒の振る舞いを待つ貧民の列が無くなり、片づけを終えると、食堂に向かった。そろそろ帰る支度をしている頃だろうが、あの聖女はどうしているだろうか。


 中に入ると、隅の方にライリーとアシュリーが立っていた。グリフの後、具合が悪かったり、悪魔憑きを疑われていたりする人が相談に来る。今日は少なめだったとはいえ、もう相談会が終わったのか。まさか、適当にあしらったんじゃないだろうな? 正直、あの二人ならやりかねない。


 聖女は、大分落ち着いている様子だった。しかし。


「私、結局歌えなくて、皆さんにご迷惑かけて、本当、どうしよう、失格だわ」


「気にしなくて良いよ。辛いのに来てくれただけでありがたいから」


 別の意味で泣きそうになっていた彼女をアシュリーが必死で宥めている。僕も彼らのところに行って話しかける。


「キャロルさん、心配ですね。せめて無事かどうか分かればいいのですけど」


「兄弟、なんか人探しの魔法とかないのか?」


 ライリーが尋ねる。怪しげな魔法に熱中しているアシュリーなら、何か知っていてもおかしくない。確か、あったような気がするのだが、思い出せない。


「一応、あるけどね。フルネーム知らないと使えないんだ。そういえば、キャロルちゃんのファミリーネーム聞いたこと無かったなあって」


「ちぇっ。使えねえな」


「だから、魔法はあるんだってば」


「フルネームだかなんだか知らねえが、あんだけちょっかいかけているなら聞いとけよ」


「確かに。それは否めないね」


 以前エルフに名乗るとき、ファミリーネームを言っていたと思うが、あの時、アシュリーはいなかった。そして、悔やまれることに、一回聞いただけなので覚えていない。覚えていたとしても、もし彼女が僕みたいにミドルネームを持っていたら、何の意味もない。


「知っているわよ。あの子のフルネーム」


聖女が話す。


「本当! 書ける?」


 アシュリーが興奮気味に尋ねると、彼女は首肯した。


「ちょっと、水晶持ってくる、兄弟、紙とペン持ってきて」


「よしきた」


 ライリーとアシュリーが部屋を飛び出していく。すぐにライリーは帰って来て、聖女は名前を書き始める。そうだ、ファミリーネームはハワードだった。案の上、マーシーという可愛らしいミドルネームを持っていたようだ。ミドルネームをつけて貰えて、お爺さんが頻繁に狩りへ出かけられるということは、結構良いところのお嬢さんだったのだろう。


 ようやくアシュリーが返ってくるが、手には何も持っていない。


「どうしよう。水晶無かった」


「鏡とかで代用できませんか?」


 昔読んだ本で、鏡や桶に張った水を使った魔法があったような気がする。


「それだ。持ってくる」


 アシュリーは罰当たりなことに、儀式で使っている鏡を持ってきた。だが、キャロルちゃんの為だと言われると何も言い返せなかった。


 水で鏡にキャロルの名前を書き、五芒星のような模様を書き込み、呪文を唱える。僕達は、アシュリーが持っている、銀の鏡を覗きこむ。


 鏡面が水面のように揺れ始めた。段々緑色に染まってゆく、ぼんやりだが、人影が写り込んできた。木々に囲まれている。聖女の服を着ているから、きっとキャロルだ。彼女が何者かに背負われている。


「もしかして、森の中ですかね?」


 僕がそう言うと、周囲がざわつき始めた。


「早く知らせないと」


 聖女が立ち上がる。周囲では、急いで戻ろう、という声と、それって信じられるの? 大丈夫? という声が上がっている。


 鏡面の人影が動いている。移動しているみたいだ。


「どこに行くんだろうな」


 と呟くライリー。周囲では、あの聖女が、


「今は信じるしかないわ。少なくとも、森を探してみる価値はあると思う」


 と話す。彼らは頷いて、ぞろぞろと食堂を出ていった。


「そろそろ、私も帰るね。今日はごめんなさい」


「早く見つかると良いね。私達もできることをやるよ」


「ありがとう、私達も諦めないわ。求道所の近くに森があるの。そこに入って探してみる」


「気を付けてね。暗くなってしまうまえに引き上げるんだよ」


「ええ、分かってる」


 聖女が食堂を出ていった。僕達も見送りの為に外へ出る。アシュリーは魔法を使って疲れたのか、歩くとき、若干ふらついていて、肩で息をしていた。


「で、どうするんだ。俺達も森へ行くか?」


 ライリーの問いかけを聞き、思わずため息がでてしまう。


「できたら良いんですけどね」


 その時だった。後ろから声がしたのは。


「おいおい、残念だったな。折角来たのによお」


「病なら仕方がない」


「それがよお、実は違うんだ。なんでも、さらわれちまったらしいぜ」


「何だと!」


 ビルが、エルフのハルディアを連れて来ていた。彼は、キャロルとの約束を守ってくれたのだ。なのに、彼女はいない、悲しいことに。


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