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祓魔師の話  作者: かめさん
第五章 大祭司様とマルク
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祓魔師の師匠

 霧が晴れてきた。ビルの背中を追いかけながら、街道を歩く。干し草の匂いと、色々な動物の鳴き声が聞こえてくる。太陽の光が柔らかく辺りを照らしている。


「お前ら。道くらい覚えておけよ」


「だって、この前は馬車出してくれたじゃねえか」


「馬車に乗ってたって分かるだろうよ」


「寝ちゃうからね。今日も出してくれれば良かったのに」


「馬車は金がかかるんだ金が」


「歩いていけるのでしょう? どれくらい時間がかかるんですか?」


「これくらいのペースなら、日が沈む前に着くだろ。おい、マルク、お前だけなんか良いもん着てるじゃねえか。何だそれは」


「両親が贈ってくれたんです。折角だから着てみようかと」


「へー、良いじゃん」


 ライリーにそう言われると何だか照れくさい。


「生地が厚いから、暖かいけど肩が重いのですよ」


 そう言いながら、もう少し日が照ってきたら脱いでしまおうかと考えていた。



   ***



 小さな宿場町の中に、礼拝所がある。そこでお師匠さんが務めているらしい。壁に蔦が張っていないし、枯れ葉も落ちていない。あちこちに壁を塗り直した跡が残っている。かなり綺麗に管理されているようだ。


 自分達も頻繁に掃除をしているし、ビルが色々修繕してくれているけれど、まだまだ仕事が雑だったと感じさせられる。

 

入り口の前に、トゥニカを着た四十歳前後の女性が手を振っていた。


「ししょー」


 ライリーが大声で呼びかけながら、彼女の懐に向かって駆けだしていく。女性は勢いよく彼を受け止め、強く抱きしめた。


「ちょっ、また大きくなりやがって。腰痛めるだろ、こっちはもう年なんだよ」


「元気だった?」


「元気元気」


 お互い顔をほころばせながら話している所に、アシュリーがゆっくり近づく。


「アリシアさん、お久しぶりです」


「久しぶりー」


 彼女は、片方の腕でアシュリーを抱き寄せ、軽くハグをした。そして、二人から離れ、僕に近づいてきた。


「君が新入りのマルク君だね。あたしはアリシア・エヴァンス。ここで祓魔師をしているんだ。よろしく」


 差し出された手を軽く握る。


「初めまして、マルク・ネイサン・ファルベルと申します」


「長旅で疲れたでしょう。入って」


 僕達は、礼拝堂で祈りを捧げた後、食堂に通された。机が一つあるだけの手狭な部屋だった。


 温かくした葡萄酒に、クルミの入ったパンを出される。歩き疲れた体にパンの優しい甘みと葡萄酒の温もりが染み渡っていく。暫くは思い出話に花を咲かせたり、僕のことを色々聞かれたりしたが、二杯目の葡萄酒を頂く頃には、数日前の出来事について説明する流れとなっていた。


「こりゃたまげたね。まさか大祭司様が来るなんてさ、しかも、本当に憑いていたんだろ? そりゃ焦るだろうさ」


 大きな瞳を細めながら肩を震わせる。笑いをこらえているように見えた。


 一度取り憑かれた身だから人の事は言えないが、本来神に仕える身でありながら、悪魔に憑かれるなどあってはならない事、恥ずべき事なのだ。残念ながら自分がその恥ずべき人間となってしまったのだが。


「そんで、こいつ、もういなくなったって嘘ついたんだぜ」


 アシュリーを指さして恨めしそうに付け加える。


「だから、正直に言ったらこっちの立場がなくなるって、何度も何度も話したのに」


「じゃあ着いてくんなよ、どうにかするためにここ来たんじゃねえのかよ」


「同じ目的で来ていると思わないで欲しいな。来るのは私の勝手でしょ」


 エヴァンス氏が手をパンパンと叩き二人をとめる。椅子から腰を浮かせていた二人が大人しく座り直した。


「はいはい、そこまで。新入り君困ってるだろ。相変わらずというか何というか。それで、続きは?」


「何か、変だったんだ」


「どう変だったのさ」


「憑いてたのは人の霊だと思う。けど、大祭司様は物音や声が聞こえたって、最近怪我や病が多いって話していたんだ。普通、只の霊はこちらの世界に干渉できないって言ってたよね。そこが分かんない」


「ちょっと待って下さい、今まで何度か取り憑かれた人を見てきましたけど、喋ったり、倒れたり、具合が悪くなったりしていました。取り憑かれたら体に不調が出るのは当たり前じゃないんですか?」


「良い質問だね、君、素質あるよ」


「は、はあ」


「と、いうのは置いといて、まあ、見えないと言われているモノにも色々あるんだ。大悪魔〈デグリフォット〉のように強力なモノから風が吹けば飛ぶようなモノまでね。人間や動物の霊もその一つさ。未練を残して死んだ生き物が霊になる。ただ、あまり力が強くない。元々、現世に留まる霊は多くないし、そいつが人の傍をうろうろしたって何も起こらない。敏感な人なら多少寒気がするかもね」


 つまり、二人の見立てでは人の霊が憑いているはずなのだが、それにしては力が強すぎるということか。


「まあ、君たちにはお手上げだって事だな。いやあ、もう少し自分達で頑張って欲しかったなあ。困ったときは、基本に立ち返ること。口酸っぱく言ったはずだけどなあ」


「そんなのあったか?」


「覚えてないよね。何も言ってなかったんじゃない?」


「君達。あたしは悲しいよ。アシュリーは、マルク君位の頃かな。ライリー、君に至ってはこんな小さいときから指導してやったというのに」


 袖で涙を拭く仕草をしながら、手を机位の高さに持って行く。


「とにかく、何がいるのか、何故いるのかを見極めることだ。人の霊は特に、取り憑いている人に対して強い思いがある。人が問題を抱えていると、そこに悪魔や霊の付け入る隙が生まれてしまう。力で霊を祓うだけじゃない、憑かれている人が問題に向き合って、解決できるようにしてやることが私達の務めなんだ」


 抱えている問題に向き合い、乗り越えられるようにすること。それが悪魔払い。なら、大祭司様の抱える問題って何だろうか。

 

 多くの聖職者をまとめ上げることだけでも大変なのに、聖職者内部の地位争いや、市、信者との衝突だってあるだろう。思い当たりそうな原因が多すぎる。


 二人もエヴァンス氏の話に聞き入っている様子だ。


「そういや、霊がどんな奴か分かってなかった。もう一回見られるといいんだけどなあ?」


 ライリーが落ち着いた口調で呟く。


「自分たちで解決できるならそれが一番だろう。もう少し、霊について覚えていることは無いのかい?」


「うーん、強いて言うなら、若い、女性だったような気がする。はっきりとは言えないけど、ねえ」


「だな、女っぽかった」


 女性の霊? その言葉を聞いた途端、耳元で脈を打つ音が大きくなった。体が沸騰したみたいに熱くなるのを感じる。


「おいおいおい、それ、結構有力情報じゃねえの? え? 大祭司様かなんだか知らねえが、やっぱ男は男だな、なかなかやるなあ。女の恨みは怖えぞ、そりゃ化けて出てきたっておかしくねえ。なあ、アシュリー」


 これまで机の隅でつまんなさそうに話を聞いていたビルが、急に食いついてきた。アシュリーの背中を叩きながらまくしたてる。


「いやあ、大祭司様に限ってそれは無いでしょう、ってあったら余計に言いづらい案件だよね、ええ、無理、そういう発想になるけどさ、確かにね」


「仮に女性の信者から恨みを買っていたとしても、そういう関係があったとは限らないのでは」


 声が震えそうになるのを抑えながら反論してみる。そうだ、まだ、女性関係のトラブルとは判明していない。そうだよ、な、間違った事は何も言っていないはずだ。


「いいや、絶対なんかあったはずだ。女が化けて出るってことはそういう事だ」


 ビルは完全に面白がっている。困ったことに。


「まあ、正論だけどね、兄弟。悲しいことに大祭司様が純粋無垢とは限らないんだよ。尊敬しているみたいだからこんな事言うのも申し訳無いんだけど」


 分かっているんだよ。そんなこと。だからもう、辞めて、何も言わないでくれ。

 

たった一つ思い当たる節を無かったことにしたくて、必死で、できる限り取り繕って、この場にいる皆に打ち明ける気にはなれなくて、何の意味の無い悪あがきのつもりで言ったんだ。


 大祭司様は、僕の敬愛する大祭司様は、清純なんかじゃない。そんなことは僕が一番知っている。


ここまでお越し下さり、ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします!


〈補足設定〉

 祭司の名前はベンジャミンという設定です。一部の人には、略してベンと呼ばれています。

 2021/04/27 語感が被っていたので、とあるキャラの名前を変えました。ご迷惑おかけしました。

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