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祓魔師の話  作者: かめさん
第三章 聖女と歌姫
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芸術学校での公演

 ゆっくり目を開けると、確かに学校のような建物があった。目眩と、吐き気に耐えながら、絨毯から転がり落ちる。


「二人とも、大丈夫か? 顔真っ青だけど」


 大丈夫じゃない、大丈夫じゃない、結構マズイ、気持ち悪い。吐いちゃ駄目、吐いちゃ駄目、どうか吐かないまま収まってくれ……! ウッぎもぢわるい。


 壁を見つけると、真っ先にそこへもたれ掛かる。背中がひんやりして少し楽になったような、やっぱり吐きそう。


 酔った。確実に絨毯で酔った。逆になんでライリーはあんな元気そうな声をしているんだ。いやいや。待って。


「あ、あの、先輩、郵便、さんに、お、れ」


「おう、とりあえずなんか飲む物買ってくるわ。兄ちゃんもそこで休んでて」


「ごめ、ん」


 どうやら、郵便屋も酔ってしまったらしい。早く吐き気が収まってくれないだろうか、あ、やばい。深呼吸、深呼吸。ああ、苦しい、気持ち悪い。もう何も考えたくない。やばい。


「ほれ」


 ほんのりと甘酸っぱい香りが漂う。お酒で無いことは分かった。コップを受け取り、一口飲んでみる。暫く待って、うん、大丈夫そう、もう一口。


 少しだけ吐き気がおさまってきた。


「お見苦しい所をすみません。連れてきてくれてありがとうござます」


「こっちこそ飲み物奢ってもらっちゃって」


「兄ちゃん箒は飛べるのに絨毯は駄目なのか」


「そうなんだよ。なんか絨毯は酔っちゃうんだよね。あ、気にしないで、僕が悪いんだから」


 郵便屋は壁に寄りかかりながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、絨毯を丸め、脇にかかえた。


「正直、最後まで運べるか心配だったんだけど、良かった。じゃあ、そろそろ仕事に戻るね。なんか、頑張ってね」


「お気をつけて」


 我ながらか弱い声で見送る。やや覚束ない足取りで郵便屋は去って行った。


「兄弟、立てるか?」

「多分」


 壁に手を当てながら、どうにか立ち上がる。吐き気は大分収まってきた。ゆっくりなら歩けそうだ。


「学校って結構広いのな」


「確か、フランって人が出ているはずです。その人を探しましょう」


 何人かの人に聞いたところ、近くの建物で催しを行っている事が分かった。石造りの大きな建物に辿り着いた。中庭に面した部屋に辿り着くと、呼び止められ、リボンは持っていますか、と聞かれた。その時、昨日はキャソック姿では無かったことに気がついた。

 

リボンを持っていないと中に入れないと言われたので、中庭から様子をうかがうしか無かった。とは言っても、席に座って見られないだけで、外から見る分には問題なさそうだ。似たような境遇の人が数人立ち見をしていた。


 既に劇は始まっていて、広い部屋なのに多くの人で埋まっていた。空が赤く染まり始めているので、終わりがけに近いのかもしれない。


 太く、低く、それでいて艶のある声が響き渡る。時々入る高笑いが堂に入っている。悪役の歌みたいだ。高音域に達したとき、ようやくそれが昨日の歌声と一致した。拍手がわき起こる。つられて外にいる僕達も拍手をした。


 そうだ、忘れてはいけない。僕達はキャロルを探しにきたのだ。慌てて観客を見渡す。それらしき姿は見当たらない。


「出番が終わるまで待ちますか?」


「ここまで来ちゃったからな。裏口とか探してみるか」


 その時、客席にどよめきが走った。先程の歓声とは全く違う。柱と柱の間から身を乗り出して様子を伺う。


 舞台の真ん中に立っていたのは、淡青色のドレスに身を包み、亜麻色の短い髪を晒した、キャロルであった。


 彼女は、一歩進み出ると、ゆっくりと歌い始めた。普段とは違って地声の、それでいて透き通るような声。でも、どこか、狂気すら孕んでいるような、不思議な感じ。


 強く袖を引っ張られる。ライリーが、いつになく真剣な、殺気立った表情を浮かべている。


「あいつ、憑かれてる」

「え?」


「行くぞ」


 警備の人の静止を振り切り、舞台の裏側を目指して走る。



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