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祓魔師の話  作者: かめさん
第二章 悪魔を連れた魔女
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魔女発見


 事態が急変したのは、一人の男が相談に来た時だった。彼は若い異国人の男で、栗色の癖毛にヘーゼル色の瞳をしていた。彼はサムと名乗った。


「何かお困りで?」


 ぶっきらぼうにライリーが聞く。あ、これは何も取り憑いていないな。段々態度で分かるようになってきた。


「ええ、とっても困っているんですよ。お宅の職員が家の周りをうろうろするせいでね」


 嫌みったらしくそう言うと、バン、と男は紙を机に叩き付けた。横長で端が破れかかっているその紙は、上の方に釘を打ち付けたような穴が空いており、赤い文字で


『イキョウトノオンナ、アシュリーニチカヅクナ』


 と書かれていた。アシュリーは最近モモの家に通っていた。イキョウトノオンナというのはモモのことだろう。じゃあ、この人が同居人? これを書いたのってまさか……。


「朝見つけたんだよ。どこの誰がこんなことしたか知らないけど、お宅の職員がうろついてるのがそもそもの原因ですよね? お陰でドアに穴空いたんですよ。もうすぐ冬なのに、外の風が入ったら、凍え死ぬじゃないですか、日々食べていくだけで精一杯なのにドアの修理とかとても無理ですよ。弁償してくれたって良いと思いますけどねえ。まさか、貧者に施しをして徳を積みなさいとか言ってるあんたらが、モノを壊された哀れな貧者を見捨てるとか有り得ないですよねえ」


 何故かこの男、気に食わない。聖職者を馬鹿にした物言いも、ドアに穴空いた位で弁償を要求してくる性根も苛々するが、もっと根本的な所……。そう、同居人が嫌がらせを受けているというのに扉の心配をしている所だ。


「ちょっと、サム、さん? 確かに私どもがご迷惑をおかけしましたが、仮にも同居人なのに、モモさんの心配はなさらないんですか?」


「自分から首突っ込んでるんだから自業自得だろ。ま、あれが見る前に回収しちゃったから、今でも呑気にしてるだろうけどさ。むしろ、関係ないのに家壊されて、来たくもない場所に行く羽目になっている俺はとんだ災難だと思いますけど?」


 口の減らない人だな。モモが見ていないと分かって安心したけども。


「どうしよう兄弟、俺何も分かんない」


 ライリーが泣きそうな顔で僕を見る。確かにライリーは何も悪くないし、何も関係ない。彼の役目は悪魔払いであって、クレーム対応じゃない。一番とばっちりを食っているのは、ライリーだ。


「ひとまず自分達には権限がないので、弁償については上に報告した上で前向きに検討します。予算が下り次第、支払いに伺いますので、その時はよろしくお願いします。また、アシュリーにはできるだけ早く謝罪に向かわせますので」


「うん、今後、できるだけ来ないように言っといてくれる?」


「承知いたしました」


「じゃあ、よろしく」


 言うだけ言って同居人は帰っていった。嵐が去った後のように静まりかえる。僕たちはホッと息を吐く。


「アシュリーとベラを問い詰めて、謝らないといけませんね、モモさんに」


「そうだな」


 アシュリーのいる部屋に向かう。モモに呪いの紙が届き、同居人に文句を言われたことを話した。


「どうせ犯人ベラさんでしょう? 兄さん、どうにかして下さいよ」


「ベラちゃんじゃないよ、絶対。この前、モモちゃんの家に行ったら同居人に怒られたって話したら、

『あそこは夫婦みたいなものでしょう? そりゃあ他の男が来たら心配になるし怒るわよ。あなたも程ほどにした方が良いんじゃない?』って余裕たっぷりに言ってたもん」


 確かにモモが男性と同居している事を知っているのなら嫉妬する必要はない。邪魔なのはアシュリーの方だからだ。それに、彼が一方的に通っている事もベラは聞いている。


「どうせ、アシュリーに相談している女どもの誰かだろうけどな。兄弟の周り、面倒くさい女の人多いし」


 と、ライリー。よく考えてみれば当たり前の事だ。悩みを抱えている時、優しく? 相談に乗ってくれる、解決してくれる時だってある。彼に好意を抱くことだってあるかもしれない。


「あー、下手にあれ書いた奴探すより、さっさと魔女を見つけて、モモを解放してやった方が早いんじゃねえの?」


「そうですね。魔女を探しつつモモの家に行きましょう。謝罪の品も買いに行きたいですし」


 モモは夕方まで仕事から帰ってこないそうだが、今から買い物して向かえば会えそうだった。従って今日は三人で謝罪しにいくこととなった。


 大分覚えてきた道を歩き、もうすぐ酒場が見えて来るという頃だった。急に二人が後ろを振り返る。二人の視線の先には、藍色のローブを着た人影。何か荷物を持って、うつむきがちに歩いている。


「「魔女だ」」


 ローブの人から只ならぬ気配を感じたのか、二人が追いかける。僕も慌てて二人を追う。途中、気づかれたのか、相手も走り出す。右に曲がり、左に曲がり、道が入り組んでいっている気がする。


「ちぇっ。巻かれたか」


「あっち、あそこにいますよ」


 何度か見失いそうになりながらも追いかけ続けると。モモの家が現れた。相手は建物を通り過ぎて右に曲がる。


僕達も追いかける。


 そこは、裏庭だった。井戸やトイレの他に、小さな畑がある。色とりどりの花が咲いており、実がなっているものもあった。そして、畑で作業していたであろうモモと、その後ろに隠れているフードを被った人がいた。


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