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9/12

(9/12)あなた勝ちを急ぎましたね。

「リベルタさん。あなた。勝ちを急ぎましたね?」


 @@@@


 ダッタが言いました。

「ミンティさんこちらへ」


 髪を後ろで三つ編みにしたメイドがしずしずと進み出ました。玄関から中庭まで案内してくれたメイドです。


「ミンティ=ルーベンさん。あなたこちらのお屋敷に勤められて何年ですか?」


「2年です」


「それで。その2年。こちらのリベルタさんと相部屋だったわけですか?」


「いいえ。11ヶ月前からです。それまでリベルタは個室でした」


「失礼。そうでしたね。それで11ヶ月前からあなたにはメイドの他に仕事が与えられていましたね。なんでしょうか」


「リベルタの所持品検査です」


 !!!!


 @@@@


 リベルタの顔が鬼のようになりました。

「ミンティ……あ………あんた」


 ダッタが腕でつかみかかろうとするリベルタを制しました。


「それで。2ヶ月前からリベルタさんの所持品におかしなものが加わったわけですね?」


「はい。こちらです」


 ミンティがリベルタのバックを出しました。自分の部屋で小物入れ代わりにしているものです。


「リベルタの持ち物にこの銀の髪が入っていたんです」


 @@@@


 差し出されたのは銀の髪でした。10センチもあります。


「おかしいですねぇ。リベルタさん。これ。小屋で見つかった羽化前のローレンヌさんの髪にそっくりですね? 奥様?」


「これはローレンヌのよ」奥様の硬い声がします。「色といい、ふんわりうねるウェーブといい。あの子のものに違いありません! 今ここで『羽化』したときに小屋にあった髪の毛と比べてもいいわ!!」


「リベルタさん。あなたこれ。どうやって手に入れたんですか? 何のために? ローレンヌお嬢様はすでに羽化されたんですよ。もう銀の髪は()()()()()()んです。それなのになぜあなたはこれを持っているんですか?」


 真っ青なリベルタの顔。

「そ……それは………」


「2ヶ月前から『ローレンヌ』の様子がおかしくなったのよ」奥様が言いました。


「夜も眠れない感じで。昼間は憔悴していて。それなのに何を聞いても理由を説明してくれなかったわ。そしてリベルタの持ち物にローレンヌの髪が加わった」


「そう考えると結論は1つしかありません。こちらの『ローレンヌさん』本当は『ナンシーさん』が母親に真実を告げられたんです」


 そうすれば全て辻褄(つじつま)が合います。リベルタの真の目的は実の子をローレンヌに仕立て上げて財産を自分のものにすることだったからです。


 そのためにはどうするのか? 実の子のナンシーを脅せばいい。


 何も難しいことはありません。ありのままの真実を告げればいいんです。わざわざ写真館で撮った『羽化前』のナンシーの写真を見せればいいんです。『羽化前』のローレンヌの銀の髪を見せればいい。


『ナンシー』は信じる。事実なんですから。『お前も納得づくの詐欺』と言われて怯えない子がいるでしょうか? 彼女はまだ15歳なんです。


 奥様は非常に厳しい目でリベルタを見ました。

 憤怒を抑えられないという目でした。声が震えています。


「リベルタ。あなたその髪をどこで手に入れたのかしら? 言って頂戴。星の裏側から手にいれたと言われても調べさせるわ」


「と………友達からもらったんです!『銀の髪』は縁起がいいからって!! お守り代わりに持ってただけで!!」


 よくもそんなことを〜。


 みんなで歯がみしました。


「当市の警察が今、逮捕されているアンナさんたちにお聞きしているんですよ」


 デルタストン戸籍課のレインが静かに言いました。


「リベルタさん。あなたの妹夫婦ですが、今『脱税』の容疑で勾留されています。アンナさんたちに3ヶ月ほど前あなたに手紙と一緒に何か送らなかったかを確認しています。証言してくれたら牢屋から出しますと条件をつけることも検討しています」


「かっ勝手にすればいいじゃないか!」


 奥様がレインを見て言いました。


「レインさん。いいんですよ。私どもはリベルタになんの期待もしていません。この人は同じ親とは思えない最低の人です」


 それからリベルタを睨みつけた。


「あなたそれでも親なの? 自分の子供を金儲けの道具に使って。辛い思いをしたのはローレンヌだけではないわ。あなたの実の子供ナンシーだって苦しめたのよ。わかる?」


 奥様は朱色の髪の娘の方へ向くと両手を握りしめていいました。羽化して1年ですがお嬢さま暮らしのためでしょう。真っ白い手でした。


 切実な声。


「ローレンヌ。いえ。ナンシー……。あなた2ヶ月前に、リベルタから何か聞いたんじゃない? 夜眠ることもできなくなるような何かを。お願い……。あなたを罰しはしないわ。わたくしたち本当のことが知りたいだけなの。娘を取り戻したいだけなの。あなたがまだ15歳なのは大人たちみんな知っているわ。リベルタに脅されてやったこともわかってるわ。だから本当のことを言って」


 ローレンヌ……いえナンシーの目から大粒の涙がこぼれ落ちました。ゼリーのように固まってシルクのドレスからこぼれ落ちていきます。


「リベルタ母さん。もう無理だよ………」

【次回】『リベルタ母さん』


〈登場人物紹介〉


【デルタストン市】

ナンシー この物語の主人公。緑の髪の毛。15歳。

アンナ ナンシーの叔母

ジム アンナの夫

ルネ ナンシーの叔母

ダイク ルネの夫

レイン デルタストン市役所戸籍課職員


【オルトリア市】

ロバート=ゲートリンガン(ご当主)街一番のお金持ち

パトリシア=ゲートリンガン(奥様)ロバートの妻

ローレンヌ=ゲートリンガン ゲートリンガン夫妻の一人娘。朱色の髪の毛。15歳

リベルタ ゲートリンガン家のメイド

ミンティ ゲートリンガン家のメイド

ダッタ=ヘッジ オルトリア市戸籍課職員

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