(4/12)行方不明のローレンヌ
ここからはレインの話です。
ローレンヌは15歳。星も輝き満月の夜に飲みほすのを待つばかりでした。
いろいろな事情で来月に引き伸ばされたのですが、朝ベットからいなくなっていたそうです。
当然。お屋敷中で大騒ぎになりました。
家中を探してもいない。大邸宅なので庭園の一部が森になっています。
その森の小屋の中で発見されたそうです。
「しかし。そのときにはすでに『まゆ』の状態でした」
まゆの前にはローレンヌのネグリジェと下着。置き手紙があったそうです。
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お父さま
お母さま
突然このようなことをして申し訳ありません。
わたくしはどうしても次の満月まで
大人になるのを待てませんでした。
1人でまゆになります。
ごきげんよう。
ローレンヌ
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本人に特に急いでいる様子はなかったそうです。それに親子関係は極めて良好でした。1人で『まゆ』になる理由がない。
みんなに祝福されながら星を飲みほすのが当たり前なのですから。
「当然ゲートリンガンさん。ご当主とその奥様は怪しみました。しかし手紙に添えられた『銀の髪』を見て信じざるを得ませんでした。髪の色も、髪の質もローレンヌさんで間違いなかったそうです」
髪を切ったと思われるハサミも見つかりました。イニシャルが入っていてローレンヌさんのものだそうです。
なにより決定的なのは2週間後。朱色の髪の娘が出てきたことでした。
耳はツンととがっていて、白磁のような肌。透明な羽。
そして瞳は紺色でした。
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レインの話を聞き終わってナンシーは困惑を隠せないままでした。
「では……その方がローレンヌさんでしょう? お屋敷の庭園にいて。同じ服や髪が見つかったわけでしょう? わたくしとなんの関係もないのでは……」
「ゲートリンガンさんと奥様によるとその『ローレンヌさん』なんとも言えない違和感があるそうです」
「!」
ナンシーがずっと抱き続けている違和感。
ウェイターがやってきました。
「失礼します」と一言いうとスッとレインの前に1枚のカードを起きました。
レインが確信の笑みをもらしました。
「ナンシーさん。私と一緒にきてください。船のチケットをご用意してあります。それからアンナおばさまとジムおじさまですがたった今逮捕されました」
「え!?」
レインは微笑みました。
「容疑は脱税です」
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それから3週間。ナンシーはレインと船に乗って大陸を目指しました。
羽化するときは見ることが出来なかった海を見つめながら毎日が不安に押しつぶされそうでした。
自分が『ローレンヌ』だって確証がどこにあるのですか?
『紺色の瞳』の子なんて山ほどいるでしょう? それに今お屋敷にいる子が『ローレンヌ』に決まっているではないですか。
レインに詳しく話を聞こうとしましたが「すみません。調査の都合で言えないんです」と繰り返されるのみ。
『羽化』したら全て変わってしまうんです。まゆの中で一旦全部溶けて、顔も体も違って、記憶すら持ってなくて。
『間違っていたらどうするの?』と思うと泣きました。レインはいつもそっと寄り添ってくれました。
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大陸について街の立派なホテルに泊まりました。
人が訪ねてきました。
その人は小さくて(140センチくらい)蝶ネクタイにサスペンダー。薄茶のおかっぱ頭の男の人でした。
ちょこまかとした動きのなんとなくユーモラスな人です。
レインやナンシーと順番に握手しました。
「はじめまして! ようこそオルトリア市へ! 市役所戸籍課のダッタ=ヘッジです!」
それからナンシーをなんとも言えない目で見つめました。
あえて名前をつけるなら『おいたわしい』と言ったところでしょうか。
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ダッタ=ヘッジとレインは初対面とのことでした。
ナンシーはなぜか2人の前である文章を書かされました。ダッタが持ってきた紙に書いてあるものをそのまま写すだけです。わりと簡単でした。
しかし2人は息を飲むようにナンシーの手元を見つめていました。
それからレインとダッタは何事かを2人きりで話していました。ナンシーはホテルに備え付けのハンモックで横になって過ごしましたが、なかなか眠れませんでした。
ガラス窓の向こうに細い三日月がみえました。
【次回】『ついに「ローレンヌ」と対面する』
〈登場人物紹介〉
【デルタストン市】
ナンシー この物語の主人公。緑の髪の毛。15歳。
アンナ ナンシーの叔母
ジム アンナの夫
ルネ ナンシーの叔母
ダイク ルネの夫
レイン デルタストン市役所戸籍課職員
【オルトリア市】
ロバート=ゲートリンガン(ご当主)街一番のお金持ち
パトリシア=ゲートリンガン(奥様)ロバートの妻
ローレンヌ=ゲートリンガン ゲートリンガン夫妻の一人娘。朱色の髪の毛。15歳
リベルタ ゲートリンガン家のメイド
ミンティ ゲートリンガン家のメイド
ダッタ=ヘッジ オルトリア市戸籍課職員