(12/12)ローレンヌ!間違っているわ!!
ある日のことです。
中庭で両親とローレンヌの3人でお茶を飲みました。
メイドたちがかしずいて白磁のティーポットから温かい紅茶を入れます。
四重奏団が音楽を奏でてくれました。
聴きながらふと、ローレンヌは立ち上がりました。
そして小上がりの白いステージの上に立ちました。楽団員を右手で制して音楽を止めました。
目の前の緑の芝生。明るい日差し。おしゃれな帽子を被ったお母さまと、シャツにスカーフのお父さま。
『歌いたい』って思ってローレンヌは歌い始めました。
みつばちの
夢をみた
金のしづくを
運んだの
花から花へ
渡ったの
金のしづくを
集めたの
ホットケーキを
焼きたいわ
金のしづくを
かけるのよ…………
勢いよく椅子から立ち上がったお母さまがよく通る声で叫びました。
「ローレンヌ! 違うわ。何度間違えるの!!」
テーブルを手のひらでバシッと叩く。
ローレンヌは驚いて歌うのをやめました。
「みつばち『が』『やってきて』よ!『運んだの』じゃないわ『くれたのよ』でしょう!? 5歳のころから同じ間違いをしてばかり!! 本当はこういう歌なのよ!」
みつばちが
やってきて
金のしづくを
くれたのよ
花から花へ
渡ったの?
金のしづくを
集めたの?
ホットケーキを
焼きたいわ
金のしづくを
かけたいわ
金のカップに
金のお茶
みんなそろって
いただくの
お父さまには
嗅ぎタバコ
お母様には
日除け帽
午後のひととき
過ごすのよ
お母さまはテーブルに両手をついたままもう姿勢を保っていられないくらいグジャグジャに泣き出してました。
お父さまの両の目にも涙が絶え間なく落ちています。ローレンヌはテーブルまで走って2人を抱きしめました。生まれてから1度も変わることのない深い紺の瞳から涙がこぼれ落ちました。
2人がローレンヌを強く強く抱きしめかえしてくれた。
「思い出したわ。思い出したわ。お父さま。お母さま。わたくし小さな頃からどうしてもこの歌を間違えてしまうの」
「おかえりなさい! おかえりなさい!! ローレンヌ!!」
3人でいつまでも抱き合って泣きました。
(終)
お読みいただきありがとうございました!!
【次回】『ダン=ウエッティからの手紙』
セトのお母さんクローディアは悲嘆に暮れていました。我が子セトが行方不明になって2年。生きているのか死んでいるのかすらわからない。そんなある日不思議な手紙が届きます。
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2020年11月1日 初稿




