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ナンシーの星  作者: 江古左だり


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10/12

(10/12)リベルタ母さん

 「リベルタ母さん。もう無理だよ………」


 白いシルクのドレスのすそが風にあおられ『ふうわり』と浮き上がりました。きっちりと編み上げられた黒いブーツが見えました。


 このブーツ。毎日リベルタが紐を通していたのです。『ナンシー』はどんな思いで靴先を見つめていたのでしょうか。


「最初からおかしいと思ってたんだよ。何しゃべっても注意されるしさあ。『肉がウマイ』と言えば『美味しいといいなさい』だし、『ガキがうるさい』と言えば『下品な話し方はおやめなさい!』だし。書棚の本はほとんど読めないしさあ。馬にも乗れない、食事の仕方もわからない、タバコは吸っちゃいけないで何もかもついていけないし」


『ナンシー』がゴシゴシと握りこぶしで目の辺りをこすりました。


「に……2ヶ月前にそこの(指差した)リベルタに言われたんだよ。『アンタ本当はアタシの子なんだよ』って」


 顔をおおってしまいました。


「『これがバレたらアンタ一生牢屋行きだよ』って。『それが嫌ならあたしの言うことを聞くんだよ』って」


 そのまま『えっえっえ』と声をあげて泣き始めました。


 その場にいた大人たちと『ローレンヌ』は息を飲んだ。ついに。ついに関係者から証言が出たのです。


 警察官がリベルタの右腕を無言で取ろうとしましたが振り払われました。


「そんなのショーコになるかいっっ!!」


 リベルタがわめき散らします。


「しゃべるだけなら誰だってできるんだよっっ。『アタシは本当は大金持ちの私生児ですっ』ほらっっ。どんなホラだって吹けるんだよ!! アタシは誰もおどしてないっっ。このお嬢様はとんだウソつきだよっっっ」


 朱色の髪の娘。ナンシーはリベルタの隣に立っている警官の腕に手を添えました。


「お巡りさん。決定的証拠…………あります」


「「「え?」」」


「アタシの記憶です」


 全員の時が止まったようでした。それからナンシーは奥様に向き直りました。奥様の左手を自分の両手で握りなおしました。


「お母さま……いえ、奥様。あたしナンシーの家にある本3冊の題名を言うことができます」


 あああああっっっっ!!!!


 そして3回。本の題名を言いました。


「あ……あの。レインさん?」ダッタがレインに恐る恐る話しかけました。レインがナンシーの家まで聞き取り調査をしたわけですが、本の題名まで覚えているでしょうか。

 レインが腰を浮かしたその時。


「その通りです!!!」


 中庭に声が響きわたりました。キッパリとした口調でした。初めてナンシーが、いや『緑の髪のローレンヌ』が口を開いたんです。


「この1年暗記するほどその3冊を読みました! 今本の内容をお話ししても構いません!!!」


 リベルタの肩がガックリと落ちました。あきらめの悪い『誘拐犯』が観念した瞬間でした。


 ダッタは静かにリベルタのところまで行き、彼女の両肩に背後から自分の手のひらをそっと添えました。それからリベルタの横顔を万感の思いで見つめました。


「リベルタさん。あなたの犯罪は『記憶』を利用したものでした。でもそれがあなたの娘の『記憶』によって破られたというわけですね?」


 リベルタが絶望に自分の髪をクシャクシャにして、今度こそ警官が彼女の腕を取りました。


 こうして事件は終わったんです。

【次回】『気持ちは晴れない』


〈登場人物紹介〉


【デルタストン市】

ナンシー この物語の主人公。緑の髪の毛。15歳。

アンナ ナンシーの叔母

ジム アンナの夫

ルネ ナンシーの叔母

ダイク ルネの夫

レイン デルタストン市役所戸籍課職員


【オルトリア市】

ロバート=ゲートリンガン(ご当主)街一番のお金持ち

パトリシア=ゲートリンガン(奥様)ロバートの妻

ローレンヌ=ゲートリンガン ゲートリンガン夫妻の一人娘。朱色の髪の毛。15歳

リベルタ ゲートリンガン家のメイド

ミンティ ゲートリンガン家のメイド

ダッタ=ヘッジ オルトリア市戸籍課職員

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