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1/12

(1/12)違和感のある家

【この世界のご紹介】

★この星の1種族は大人になるときに『星』という謎の石を飲み一度まゆになってから『羽化(大人になる)』します。羽化すると瞳の色以外は全く違う外見になります。

★その際過去の記憶を全て忘れます。

★「何か」は覚えていますがそれが何かは選べません。


 違和感を隠しきれませんでした。


 @@@@


 ナンシーの国では赤ん坊は星とともに産み落とされます。

 星は最初薄いピンク色をしているのですが、日がたつにつれて徐々に輝きを増してゆきます。白く強い光をピカピカと放つようになれば『大人になってよい』という合図でした。


 満月の良い晩を選んで子供たちは星を飲みほします。やがて眠りにつくと、星から放たれる糸がまゆとなって柔らかなベットのように子供たちをおおいます。目を覚ました彼らは大人の姿でまゆを破ってでてくるのでした。


 @@@@


 ナンシーの記憶はまゆから出たところから始まっています。

 それ以前のことは何一つ覚えていませんでした。


 まゆになった子は、溶ける。


 脳まで溶けてしまうんです。ほとんどの子供たちは記憶を無くしてまゆから出てくる。それ故に『忘却の子供たち』と呼ばれています。『何か』は覚えていますが、自分で選べるわけではありません。

 中には人間であったことすら忘れて獣のようになってしまう子もいました。


 ナンシーがまゆの中で目が覚めたとき。真っ先に感じたのは『地面が揺れている』ということでした。


 ゆーらゆら、ゆーらゆらしていました。


 ナンシーはそれをおかしいとも思いませんでした。だって全てを忘れてしまったのだから。


 まゆを中からガンガンと叩くとバリっと膜が割れ、みるみる間に人の手で押し広げられ上半身を起こせるほどの大きさになりました。


 女の人が顔を見せて満面の笑みを浮かべました。



「ナンシー。おばさんよ!」と。


『ナンシー』?

『おばさん』?


 何?


 @@@@


 服を着せてもらいまゆの外にでると人が4人いました。


 アンナおばさんと

 ルネおばさんと

 ジムおじさんと

 ダイクとおじさん


 なんだそうです。


 ナンシーは透明な。それでいて集まると緑の髪の毛をしていました。目は紺色。耳はツンととがり羽が4枚背中についてました。


 全員の顔を見た瞬間なぜだか強く思ってしまったのです。


『この人たち。嫌だわ』と。


 @@@@


 何日かをぼんやり4人の大人と共に過ごすと(時間の感覚は全て忘れていました)


「降りるんだよ」


 と言われて木の橋のようなものを歩かされました。それが『渡し橋である』と気づいたのは1年もたってからです。手をアンナおばさんに取られてゆっくり橋を渡りました。


 すると。


 ピタッと地面の揺れが止まったんです。『揺れている』のが当たり前だったので驚き、今までいたところを振り返ってみました。


 木でできた何か大きな建物と、地面をおおい隠す大量の水を見ました。

 その建物にはなぜか煙突のようなものがついていてもくもくと煙を上げていました。


『ヴォーッヴォーッ』と大きな音がその建物から鳴るとナンシーたちから遠ざかって行きました。


 その建物の名前は『蒸気船』大きな水は『海』

『ヴォーッ』という音が『警笛』だと知るのは1週間後です。


 @@@@


 ナンシーたちは何日も飛んで(背中に蝶のような羽があるんです)自分たちの街まで帰って来ました。アンナおばさんに家に案内されました「お前はここに住んでいたんだよ」


 ボロボロの漆喰の壁に、色あせた(おそらく)赤い屋根。家の前には干し草が積み上がって鋭い3本切先がついた大きなフォークのようなものが刺さっています。


 窓についている鉄格子のようなものが不気味でした。


 ところが見た瞬間に思ってしまったんです『知らないわ。こんなところ』なぜかはわかりませんでした。


 アンナおばさんに『写真』を見せられました。

 アンナおばさんとジムおじさんとお母さんとナンシーが写ってました。


『星』を飲む前にお母さんの働いている街で4人で撮ったのだそうです。


 そこには確かに少女がうつってました。15歳のナンシーだそうです。目はキツめで鼻はぽってりとしてふてくされたような顔でした。白黒なので何色の瞳かはわからない。今の自分とは似ても似つかぬ顔でした。『大人になったら瞳以外は全て変化して出てくる』と聞かされて『その通りなんだろうな』と信じました。


 お母さんはここから船で3週間もかかる大陸に働きに出ているそうです。

 大きなお屋敷のメイドだと聞かされました。


 ナンシーは羽化前にお母さんに会うため船で大陸に行き、帰りの船の中でまゆになったのだそうです。


 それで初めてナンシーは自分が最初目覚めたところが『船の上』であり、自分を揺らしていたものが『海の波』であったことを知ったのでした。


『写真』はこれ1枚きりでした。『写真』というのはとても高いのだそうで、だいたいの子は1枚しかもってないか、全くないのでした。


 @@@@


 おばさんとおじさんとの暮らしは辛いものでした。

 ナンシーが何か喋るたびにイライラされました。


 例えば「おばさん。そこの塩を取ってくださる?」とか「おじさん。今日は天気がよろしいわね」とか言うと「何スカシしてんだいっっ」とキレられてしまう。


 ナンシーは次第に話さなくなりました。周りをよく見ておばさんやおじさんの話し方を学びました。


 これは後からわかったのですが、まゆから出た子は『再学習』のために学校に通うんだそうです。1年くらい勉強すればだいたい羽化前と同じくらいの知識を取り戻せるんだそう。


 しかしナンシーには何もやってもらえませんでした。「お前のような貧乏人に学校なんかいらないんだよ」といわれただけで来る日も来る日も畑で働かせられました。


 何をやってもうまくいかず「カンの悪い子だねっ」とアンナおばさんに叱られました。


 手のひらの皮がクワの握りすぎで破れてしまっても「自分で巻きなっ」と包帯を投げてよこされただけでした。


 腰をかがめるのが痛くて泣きましたが「アンタ羽化前の方が役に立ったよ」と吐きすてられておしまいでした。

【次回】『市役所戸籍課からきたレイン』


〈登場人物紹介〉


【デルタストン市】

ナンシー この物語の主人公。緑の髪の毛。15歳。

アンナ ナンシーの叔母

ジム アンナの夫

ルネ ナンシーの叔母

ダイク ルネの夫

レイン デルタストン市役所戸籍課職員


【オルトリア市】

ロバート=ゲートリンガン(ご当主)街一番のお金持ち

パトリシア=ゲートリンガン(奥様)ロバートの妻

ローレンヌ=ゲートリンガン ゲートリンガン夫妻の一人娘。朱色の髪の毛。15歳

リベルタ ゲートリンガン家のメイド

ミンティ ゲートリンガン家のメイド

ダッタ=ヘッジ オルトリア市戸籍課職員

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― 新着の感想 ―
[一言] 登場人物……すごいっすね!? Σ(゜∀゜) 海外の推理小説のようです。
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