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その街について
〈獣人世界〉の一国、豊穣の国ラマン。
中心に数多の伝説を抱く蒼い蒼い湖を持ち、周囲の土地のほとんどを深く実り豊かな森で囲まれたこの国には二つの大きな街があった。二つの街は互いに細々とした交流はあるものの、決して強く結びついているわけではなくむしろ小国のように分かたれていた。
湖の西にある街の名は唐華邦といった。紅色を特徴とする豪華絢爛な色彩と、いくつもの香辛料を組み合わせた独特な料理で知られていた。
他方、湖の東にある街の名は倭邦という。自然の全てを敬い、木や紙を用いた家屋の中にひっそりと暮らす人々は他国の干渉を受けつけずに己が生活を送っていた。
他国に倭邦の情報はほとんど知られていなかったが、ひとつ、有名なものがあった。
倭邦にはこの街の規模にしては異様なほど大きな花街、吉原があったことである。