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ソラリコ  作者: 春鳩るい
4/105

正体不明

「で、そいつが郵便屋の言う、彼女ってやつか」


 穏やかさを取り戻しつつある空を、真っ白な人差し指で突き刺す。

 指先の示す空間には、頭上に木箱を掲げたロカがいつの間にか彼らと同じ位置に上がってきていた。


「助かったわ。二人とも、ありがとう」


 難から逃れることに成功したロカは厳しい気配から解放され、エアロハイカーに跨がる二人へと花が咲き開くように笑った。


 彼女の指先、足先からは淡く溶けそうな光の波がたゆたい、その羽ばたき毎に空の素粒子とぶつかり合って生まれる極小の欠片が漂っては消えていく。それはとても幻想的な風景で、もしや彼女さえも幻ではないかと疑わせるほどの光であふれていた。


「私はロカ。ついさっき、この国に着いたところなの」


 そう言いながら微笑むロカの左耳に控える、吸い込まれそうなほど深く青い涙型の飾りが揺れた。その耳飾りに惹かれた少年の虹彩が微かに収縮する。


「ぼくはリザレオ。郵便配達の仕事をしているんだ」


 リザレオは、ロカが頭上に掲げている木箱に視線を注いだ。


「その木箱の中には、遠い国から届いた郵便物がたくさん詰まっている。皆の大切なものを助けてくれて、本当にありがとう」


 青空に白雲を混ぜたような水色の髪が風に舞う中、ロカの笑顔と同じ成分で答えた少年は真っ直ぐに彼女の顔を見つめた。遮るものなどない澄んだ空は風の恰好の踊り場となり、自由に駆ける自然の息吹は二人の空間を巻き上げていく。


「ねぇ、ロカは空を渡れるんだね」


 ぽつりと呟き、風にさらわれて散る毛先を撫でて落ち着かせた少年は、腕まくりしているシャツの袖をさらに持ち上げたりとそわそわしていた。


「島から人が落ちたように見えたから慌ててここに飛んできたんだ。でも、その必要はなかったみたいだ」

「驚かせてしまってごめんなさい。この木箱に気を取られていて、」

「ちょっと待て」


 腕組みをして、ロカとリザレオを取り巻く暖かい景色を冷ややかなな目で眺めていた軽騎士が、ふいに口を挟んだ。


「お前、何者だ」


 片眉を上げてロカを見つめる軽騎士へと、他の二人は首を傾げる。


「空を渡れるってことは、お前はどこかの国に仕えるソラリコなんだろうが、だが、パダガトが近づいてきた今の時期にソラリコが自国を離れるなどありえない。しかも、ソラリコは空を渡れるだけで、そうやって荷物を軽々と持ち上げるようなとんでもない力を持っているなんて聞いたことがない」


 矢継ぎ早に紡がれる疑惑の言葉の網が、広大な青の世界を加速度的に抑え込んでいく。


 騎士とは、国と民の安全を守る者。

 その彼にとって、奇妙な力を持った空を渡る者との遭遇とクレーンの落下事件をほぼ同時に確認したことは由々しき状態だった。

 互いに見つめ合うロカと軽騎士の間に埋まる空気の温度が下がっていくような感覚を覚えて、リザレオはただ心配そうに二人を見渡している。


「お前は、誰だ」


 太陽光を吸って吐き出す柔らかな髪の少女に向かって、軽騎士は再度指を突き付けた。

 紅の目が引き締まる。

 そんな相手の少し強めの口調をさらりと受け流すように翻ったスカートと同じ雰囲気で、ロカはけろりと答える。


「私は、ソラリコじゃない」

「空を渡れるのはソラリコだけだろ、」


「だって、」


 凛としたロカの声は、一言で軽騎士の言葉を射ぬく。彼女の口角は上がり、そこからはキラキラとした光があふれ出す夢の香りがした。

 笑顔のカウンターを食らって呆気に取られた軽騎士に向かって、ロカは告げる。


「だって私、ソラリコになるためにこの国に来たのだから」

あらすじで書いていた言葉はここで回収しました。


リザレオは一般的ふわふわ系

ディンセントは目つき悪い系

で、お送りします。

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