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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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空の世界

はじめまして!

楽しんでいただけると幸いです。

 空はどこまでも青く澄み渡る。

 光り輝く虹の粒子は思い思いの風に掴まりながら滑空している。


 七色の粉を引き連れた風に撫でられてくすぐったそうに体を震わせている海は、星の肌という肌を全て飲み込んでいた。

 その腹の中から顔を出す土地など見当たらなかった。

 どこまでも海。

 途切れる気配などない潮の匂いで埋め尽くされている、水平線のみの世界。


 しかし、そこから遥か上空には島が存在していた。

 まるで大地の一部をごっそり引き抜いたような剥き出しの土が島の下側を支え、豊かな土は人や動物や植物など島で生きる全てのものたちに平等な恵みを与えている。


 あちらこちらに点在している浮島に住む人々は島ごとに国を形成し、限られた大地と無限の空の間で個々に独自の発展を遂げていた。


 空に分断された島々をつなぐ手段はエアロライトと呼ばれる飛行船のみだった。


 様々な船が行き交う中、綿菓子を引き伸ばしたような淡い雲を眼下に転がし、天の大海原を渡る一隻の飛行船がいた。木材が随所に使われているこの飛行船は他の船体に比べると旧式で、赤や緑の原色のカラーリングや木の素材から伝わる柔らかい感覚は、まるで子どものおもちゃ箱から引っ張り出した積み木で組み立てたような可愛らしさを持っている。


 彩色豊かな飛行船は青の中で鮮やかに浮かんでいるが、その船内はというと木目を活かし適度な狭さで落ち着いた雰囲気の空間を作っていた。長年の使用で少しよれたベルベットの席に座る乗客はまばらで、ぽつりぽつりと空いているその距離感が何となく心地よい。窓から見える、丸く切り取った空は穏やかな時間を浮かべている。


 そんな青の景色を見ることはなく、飛行船の一番後ろの席に座り、右側の壁にもたれて眠り込んでいる少女がいた。


 彼女の名前はロカ。


 傍に置いてある大きな赤いトランクの表面は所々擦れ、しわの溝には年期が埋まっていた。

 窓から差し込む光の束はロカの上に降り注ぎ、彼女の白いワンピースをほのかに発光させる。

 船底を引っ掻く空からの微かな揺れが起こる度、どこか幼さの残る彼女の寝顔に寄りかかる淡い黄金色の髪が囁き、その繊細な糸の隙間をくぐり抜けた青い石の耳飾りが左耳で揺れた。


 船内に生まれた暖かな陽だまりは、トランクの取っ手に飾られている白い一輪の花を舞台の主役へと押し上げるほど眩く輝く。その花は、野原一面を白色に塗り替えるほどに咲き誇る、ロカの故郷の花だった。

 大玉のキャンディのような蕾を閉じて俯く花先が揺れると、深々とお辞儀をするように頭を下げた。


 同時に、飛行船に軽い衝撃が走り、窓に映る空の模様が急に変化の速度を落とす。少しすると、外でごとごとと音が騒ぎ出した。続いて船内が少し賑やかになり、荷物をまとめた乗客たちが次々に飛行船を降り始めた。

 騒音は次第に減っていくのだが、ロカの意識は夢の底から帰ってくることはなく、後部座席のまどろんだ一角は見ているだけで眠りの中へと引き寄せられる。


 がらんとした船内に一瞬間が空いた後、船の前方にある乗降口から青年が顔を覗かせた。


「コハントルタに着きましたよ、お客さん! ……お客さ―んっ!」

「……ん……」


 遠くからロカの脳へと響いてくる声は霧に遮られてぼんやりとしていたが、突然弾けたようにその輪郭を把握した彼女は勢いよく立ち上がる。


「あっ、はいっ!」


 完全に覚醒していないロカは、歪む景色にけつまずいてトランクを倒しそうになる。


「大丈夫ですか?」


 慌ててドアへ向かおうとしてバタバタしている最後の乗客へと駆け寄った青年は手を差し出す。


「お持ちしますよ」


 そう言うと、がっちりとした赤いトランクを掴んで行進の先頭に立った。


「ごめんなさい。すっかり眠ってしまったわ」

「いえいえ。長旅、お疲れ様でした」


 飛行船操縦士の見習いといった風貌の若い青年の頭には、操縦士の証である紺色の帽子が色も新しく乗っていた。彼は船の外までロカの荷物を運ぶと、帽子のつばを摘みながら白い歯を見せる。


「それでは。またどうぞ、ごひいきに」

「ありがとう」


 帽子を軽く斜めに被る小粋な青年と爽やかな別れを告げたロカは、新天地へと足を着けた。

まずは軽く世界の説明を。

そして、ロカちゃんです。

大人でも子どもでもない、純朴なお年頃の天然系少女です。

可愛がってあげてくださいね。

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