一服
男は不思議なものをみるかのようにこちらのほうを覗く。
何かを少し考え、残念そうに大きく息を吐きだし、そして尋ねる。
「一服してもいいか。」
男は机の脇にあった灰皿を取り出し、煙草に火をつけた。
喉の渇きを思い出した僕は、部屋の隅の冷蔵庫に移動し飲み物を物色する。
酒ばかりしかない冷蔵庫から烏龍茶のペットボトルを取り出し、勝手に飲む。
「名前は。」
男が尋ねると、僕はペットボトルを置き、
「伊藤和人です。」
「時に、和人。来月将棋大会があるのを知っているか。」
煙を部屋の中に充満させながら、男はそう問うと、部屋の戸棚から封筒を取り出す。
封筒を開けると、令和一武闘会とタイトルに書かれた将棋大会の招待状が出てきた。
賞金100万円と書かれている。
大会を開催するだけでも公安にマークされるかもしれないのに、誰がそんな大金を用意しているんだろう。
招待状を僕に見せると、男は封筒にまた招待状をしまい、机の上に置いた。
「もってけ。」
僕に初めて見せる楽しそうな顔でそういうと、男は煙草の火を灰皿に押し付けた。
そして将棋盤の上の角を手に持ち、赤文字で書かれた駒を動かした。