釈放
伊藤と男、警官二人がビルの外に出ると、外は夕暮れ時であった。
警官にひきずられる男はくしゃくしゃの顔でぐうと喚いている。
商店街の中を歩いていると、通りかかったヒョウ柄の上着を着たおばちゃんが大きな声で声をかける。
「茂ちゃん?一体どうしたんだい。」
街は仕事終わりの男たちで賑わい始めていた。
一行が居酒屋の前を通りかかると、
「ちょっと待ってくれあんたら、茂ちゃんをどこに連れて行くんだ。」
青色の制服の二人を見て黒色のスーツを太い目の男性が声をかける。
「こまるよあんたら茂ちゃんが何をしたっていうんだよ。」
長身の方が答える。
「将棋道場を開いた罪だ。」
太っちょの男性はたこ焼き屋の男の方を見ると、次にどっしりとした構えで警官に絡む。
「けっそんなことかよ、俺っちはデカピンでしか打たねえんだ。俺もむしょに連れてけよ。」
警官と太っちょが争っていると、居酒屋の前は人だかりになった。
「そんな男捕まえてどうするんだよ。うちの旦那は今頃女買いに新地に行ってるよ。付き合いだって言って遅くに帰ってくるんだけどペロちゃんキャンディがポケットに入ってるんだ。うちの旦那を捕まえんしゃい。」
おばちゃんが意を決して叫ぶ。続いて細身の若い男も警官達を遮る。
「僕は茂さんにいつも飲んだ後お世話になってるんだ。そこの地面にだって吐いたことがあります。軽犯罪ですよね。僕もつれて行ってください。」
どこから現れたのか少年も泣き始める。
「キャベツのおじちゃんを連れてかないで。」
いつしか力なくひきずられる男の回りは、人だかりになっていた。
無口だが優しい男の8年は、商店街の人たちに認められ、祭りでは神輿を上げる役目を背負うほどになっていた。
長身の警官は電話を取り出し、
「犯人、人質を連れてバイクで逃走しました。今から追いかけます。」
そして電話の電源を切った。
「ちょっと、後で始末書ですよ。」
背が低い方の警官が尋ねると、長身の警官はため息をつき答えた。
「府警から言われてやってるだけで、こんな無害そうなやつ捕らえるなんてだるいだけだろ。俺たち所轄には関係ないことだしな。どうせ始末書だしどっかぱーっと飲み行こうぜ。それに、」
たこ焼き屋の男の名前が載っているリストを破りながら、警官は続ける。
「市民の笑顔を守るのが警察の役目やからな。」
たこ焼き屋の男の手錠を外し、帽子のつばに手をやった後、警察二人は夜の街に消えていった。




