商店街
師匠から引き受けた将棋盤を風呂敷に包んで背負い、男は大阪に向かった。
男は大型家具を客先に運送する仕事を見つけた。
とある商店街の傍の古いアパートに住み、仕事をしながら残党達と将棋を指した。
仕事を始めて5年、男の真摯な態度を見ていた上司のはからいにより、本社営業部に面接を受けることになった。
面接の朝、男がアパートを出るといつも挨拶をする初老の女性の大家さんが、家の前でうずくまっていた。
咳き込む大家さんに近づくと、その唾に黒い血が混じっていた。
優しい男は面接を放り投げ、大家さんを仕事のトラックで病院に連れて行った。
それから男は家具運送の仕事を辞め、大家さんの紹介で色々な仕事をした。
始めは居酒屋の店員。愛想がないということで客から絡まれたり、行き過ぎた酒を勧める客を制したらその客から怒鳴られるなど散々だった。
次は洋服屋の店員。服がうまく畳めずしわになってしまったり、お洒落の感覚がわからずヒョウ柄の上着に黄土色のジーパンを組み合わせてしまったり最悪だった。
その次はカラオケ屋の店員。ジャイアンのようなうるさい声を出す客に耐えられず辞めた。
最後に勧められたのが、たこ焼き屋の店員だった。
北で生まれた男はたこ焼きを焼いたことがなかった。
見よう見まねでオーナーのたこを焼く姿を真似たが、うまくたこ焼きを転がせなかった。
ある日、男は実家の母から送られてきたキャベツを刻んでたこ焼きに入れた。
単身実家を離れた男を心配して収穫のシーズンに山いっぱい送られてくるのであった。
オーナーは男に怒った。
「キャベツを入れるのはお好み焼きだぞ。あほ丸出しやな。」
客は男に怒った。
「キャベツ入れたら固くなるやろ流石よそもんやな味覚音痴か。」
しかしながら、甘くて芯のあるキャベツが入ったたこ焼きは、変わり種として商店街で人気になった。
かくして、男は3年の間たこ焼き屋で働いた。




