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08 その日の夕食

クリストファー、ジュリアン

「部屋?」


満面の笑みでジョージアナに言われた言葉を、クリストファーは目を瞬かせながら問い返した。


「はい。お部屋も蔵書も、とても素敵でしたわ。妹はあまり興味はありませんが、あの美しさには心打たれるでしょう。私、妹が来るまでですけれど、滞在できて本当に良かったですわ」


あれほど居心地悪そうにしていたのに、部屋の内装と蔵書で気が紛れるとは。


不思議な令嬢だと思ったが、悪い気はしなかった。友人には暗いと言われてきた内装も蔵書も、クリストファーにとっては大切な自分の一部だった。自分はこの屋敷を守るのだし、それを褒めてもらえるのは嬉しいことだ。将来の妻にするにしては、幸先がいい。


……いや、違った。彼女は代理だ。


「それはありがとう。食事はどうですか?」

「ええ、とても美味しいですわ。味付けも上品で、食べやすいです」

「それは良かった。ジュリアン殿、あなたはどうですか?」


ジョージアナの偽りのない言葉に、クリストファーは何ともむず痒い気持ちになり、思わずジュリアンに水を向けた。ジュリアンはすぐに明るく頷いて、すらすらと賛辞を述べてくれた。


「はい、おいしくいただいています。実を言うと、私の土地で採れるワインより美味しいワインなどないと思っていたんですがね。このワインはとても美味しいです。この食事によく合う」

「良かった。このワインは、君たちのもてなしのために、私が選んだんですよ」

「そうでしたか。それは嬉しいですね。なぁ、ジョージアナ」

「ええ、こんな美味しいものを選んでいただけるなんて、来た甲斐がありましたわ。とっても嬉しいです」


まただ。嬉しさに胸が高鳴る。


ジョージアナの言葉は、媚や見返りに甘える響きがなく、すんなりとクリストファーの心に入ってきた。この二人は感じが良く、とてもいいカップルだ。途端に、ジュリアンが羨ましくなった。


「あなたにそう言っていただけると、選んだ甲斐がありましたね。実はあなたに喜んでいただきたくて、選んだんですよ。何しろ、急な代理でいらっしゃるんですから、不安だろうと思いまして。歓迎の意味を込めて、選びました」

「そうでしたの……」


それまで表情を硬くしていたジョージアナが嬉しそうに微笑み、クリストファーを見据えた。


「お心遣い、感謝いたしますわ」


ジョージアナの心を込めた言葉に、クリストファーは自然と微笑んだ。


☆☆☆


その様子を目に留めたジュリアンは、思わずワインを喉に詰まらせ、ゲホゲホとむせた。


「まぁ、ジュリアン! 大丈夫?」


ジョージアナがジュリアンに言い、クリストファーも心配そうに目を向けてくる。


大丈夫も何も。


大丈夫かと聞きたいのはこっちだ、とジュリアンは言いたくなった。今、すごくいい雰囲気出してなかった? ジョージアナはいつもと同じだが、どう考えても免疫はない。クリストファーは一体何を考えてる? どうでもいい相手にあんなに嬉しそうにするものなのか?


来たばかりの時は、まるで関心なさそうだったのに、何が……


そこで気がついた。


来たばかりの時に、ジョージアナは屋敷に感動して褒めている。


そして、さらに、ジョージアナが部屋と蔵書を褒めていた。


その上、夕食の席で、ジョージアナは嘘偽りのない、正直な気持ちで感想を述べた。


それが嬉しかったと?


ジュリアンはクリストファーが夜会に出たがらないのは、自分の価値を高めたいからだと吹聴される噂を信じていた。冷徹で、お金にはシビアだが、色ごとには金を使う、甘やかされたお坊ちゃんだと。


だが、もしかして、夜会にでないのは、単にこの家が好きだからなのでは? 自分にあてがった部屋も、居心地が良く、使用人たちも丁寧で、緊張がすぐにほぐれた。


クリストファーはもしかしたら、噂されている人物とは違うのかもしれない。


ジュリアンはその期待にかけてみようと、クリストファーへの考えを改めることにした。


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