07 素敵なお屋敷
ジョージアナ
最終的に案内された部屋が、あまりにも美しかった。それだけ。
それは自分のため、もとい、妻になる人のために用意された部屋だった。
ツヤのあるマホガニーの家具はしっかりとしていて、絨毯も、ボルドー地に深い青と緑と黄色の唐草が絡まり合う素敵なもので、壁紙もそれに合わせた緑と黄色に青い花が点々と装飾されていて、目に安らかだった。天蓋付きのベッドのカバーもカーテンもソファもクッションも、ボルドーで縁取りされて、淡い黄色が基調の緑と青の花、この落ち着きと優しい雰囲気は、この古く重厚な建物でないと味わえないものだった。
まさにジョージアナの好みだ。
「お気に召しましたか?」
つけてもらった侍女がお茶を用意しながら言った。
ジョージアナは部屋に入ったきり、ぼんやり見回してうっとりしているのが恥ずかしくなり、慌ててソファに腰を落ち着けた。
「ええ、エレイン。とても素敵だわ」
「それはようございました。このお屋敷は、先代の思い出もありまして、大変大切にしてきているものです。内装も旦那様がご自分でなさっておりますから、奥様になる方に気に入って頂けなかったらと思うと、気が気ではありませんでした」
ジョージアナはうまく答えられず、言葉を詰まらせた。
「……私は……残念ながら、違うのだけれど……」
「えっ」
「代理なの。全く同じ顔の双子がいてね、彼女がちょっと……寝込んでしまって来られなくて……結婚式までには来ると思うから、その時には私が彼女に教えてもらったことを伝えて、……」
「まぁ、そうでしたの。でも、私はジョージアナ様をご主人と思ってお仕えいたしますので、よろしくお願いいたします」
「え、あぁ、あの、……短い間ですが、よろしくお願いします」
ジョージアナは頭を下げた。そして顔を上げた時、エレインの背後を見てぎょっとした。入った時には気づかなかった、驚くほどの蔵書だ。壁一面が本で埋め尽くされている。専門書も物語も、あらゆる本だ。
一体どうしたらこんな本が?
ジョージアナが目を奪われていると、エレインは振り返り、ああ、と笑顔になった。
「こちらは旦那様の蔵書で、もう読まない本でございます。今回は、お嬢様が本をお好きだと聞いて、お好みに合いそうなものを持ってまいりました」
「まぁ、そうなの……?」
「はい。旦那様は、急遽、いらっしゃる方が変更になると聞いて、執事に相談しながら選んでおいででした。大丈夫だったでしょうか?」
「ええ。……驚いたわ。こんなに本が……」
ジョージアナは呆然と本の背表紙を眺めた。
さっきまで冷たいとか怒っているとか思って申し訳ないことをした。その上、彼のことも考えず、早々と帰ろうとしてしまうなんて。
ジュリアンの部屋も、ジョージアナの部屋も、整えてくれた。本意ではないだろうに、ジョージアナたちを歓迎し、楽しませようとしてくれているのは明らかだ。
「こちらに滞在の間は、どれだけ読んでいただいても構わないと、旦那様からの伝言でございます」
「まぁ! それはありがとうございます!」
これまで、家で読みたいと言っても、淑女には必要ないと、学術書も物語も買ってもらえなかった。ジュリアンに頼んで、買ってきてもらったこともあったが、それでも限界があった。家で読んでいると視線が冷たかったが、ここでは読んでも良いのだ。
「……お礼を言わなくては。いつお目にかかれるかしら?」
「後ほど、お夕食の時に」
「それなら、その時にお礼を言うわ。忘れていたら、教えてね」
「……はい。かしこまりました。来ていただいたのがお嬢様で、私はとても嬉しいと存じます」
エレインはにこりと笑ってお辞儀をすると、下がっていった。
ジョージアナはふっと肩の力を抜いた。初めての屋敷で、初めて会う妹の婚約者に、初めての素敵な侍女……エレインはおそらく、ジョージアナと同じくらいの爵位の令嬢だろう。まさしく、彼女の姿は自分の両親がジョージアナに望んでいた姿だ。
今度、どうやってなったらいいか教えてもらおうかしら。
ジョージアナは思いながら、バルコニーへ続くガラス窓に向かった。
ここにいる間、本を読んでいいんだわ……
そう思ってハッと気がついた。
ダメだわ。どうしよう。結婚を無しにしてもらうために、侯爵様に話さなければならないのに……
でも……
ジョージアナは本棚に目を向けた。そして、庭の東屋にも。
誰にも気兼ねなく本が読める。本を読みたい。ここにいる間だけでも、そう、クラリッサが戻ってくる前の、ちょっとの間だけでも。