33 ついに
ジュリアン
ついに。
ついに言った。
あの内気なジョージアナが。
ジュリアンは拳を空に振り上げ、歓喜の叫び声をあげたかったが、それはこの場ではない。
誰一人として動けなかったその瞬間、ジョージアナに駆け寄ったのはクリストファーだった。さすが。
「それは……本当かい?」
ジョージアナは顔を覆い、はらはらと涙をこぼしていた。クリストファーがその手をそっと離した。恥じらいのある可憐な表情を浮かべ、ジョージアナはクリストファーに謝罪した。
「ええ、本当に……申し訳ありません。迷惑なのはわかっておりましたの。でも、」
「迷惑なものか。私の話を聞いていた?」
「はい」
「私はなんて言った?」
ジョージアナはキョロキョロと辺りを見回したが、手助けする者はいなかった。当たり前だ。ジョージアナが言わなければ意味がないのだから。
「私と……結婚したいと……」
俯くジョージアナは耳まで赤い。クリストファーは喜びの勢いでジョージアナを抱きしめた。
「そうさ、そう言った! ジョージアナ! 私は……あぁ、なんて言っていいかわからない。君がそんな風に思ってくれているなんて、思ってもみなかった……!」
ところが、ジョージアナは首を横に振った。
「いいえ、クリストファー様。我慢なさらなくていいのですわ。クラリッサを……解放するためにあんなことをおっしゃったのでしょう?」
「なにを?」
「クラリッサを素直にするため、ボビー様と結ばれるため……そのためなのでしょう? クラリッサは時折、とても頑固ですから」
「ジョージアナ。君は私の言ったことを聞いていたんじゃなかったのか?」
「ええ、聞いておりました」
「それなら、なぜ……」
真剣なクリストファーに、ひどく不思議そうに、ジョージアナは首を傾げた。
「クラリッサでないと、父も母も、クリストファー様を許しませんわ。きっとひどい噂を流したり、誰かに頼んでクリストファー様を社交界にいられないようにしてしまいます。そういうのはとても得意なのです。ですから、きっと」
「君のご両親など、どうでもいいんだ、ジョージィ」
「……クリストファー様……」
困ったように眦を下げるジョージアナは、ジュリアンのよく知っている内気で引っ込み思案なジョージアナそのものだった。だが、ジョージアナは決して、それだけの子ではない。両親の影、妹の影に隠れて、彼女はずっと頑張ってきた。耐えた日々が報われる日だ。
「ジョージィと呼んでも構わないかい」
クリストファーの優しい声に、ジョージアナが目を見開いた。
「え、ええ、でも、あの」
「ずっと呼んでみたかったんだ。とても可愛らしく、優しい愛称だ。それに、呼んでいる人が、君をとても愛していることも知っているよ」
すると、すぐにジョージアナの目がキラキラとした。
「ええ! そうなんです。クラリッサはとても愛情深い子で」
「そうだ。だから、君たち二人は、お互いに役割を頑張って担ってきたんだろう。一人だけだったら潰れていたかもしれない。でも、二人だったから、……比較されたから、逆に、君たち二人は生き延びてこれたんだ。私は君たちが双子で生まれてくれて、本当に嬉しく思っているんだよ」
慈しむようなクリストファーの様子に、ジュリアンは、屋敷へ来る前にジョージィと呼ぶのをやめて、本当に良かったと、心底安堵した。
だが、ジョージアナは首を傾げただけだった。
「私とクラリッサが、助け合って生きてきたのは、不思議でもなんでもありませんわ。クリストファー様、何をおっしゃってますの?」
ジュリアンはクリストファーをまた少し見直した。これほどまでに鈍感なジョージアナ相手でも、クリストファーは少しも困った様子は見せなかった。動揺もせず、とても丁寧に話している。なかなかできないことだ。
「私のことも、クリスと」
微笑むクリストファーは、それでも、多少は必死に見えた。ジュリアンは笑いそうになり、慌ててそれを飲み込む。
「……でも」
「いいから、呼んでくれないか」
ジョージアナの背中を、クラリッサがそっと触ったのが見えた。お互いにお互いしかいなかった姉妹。逃げ場はなく、自分の意思で決められる出来事もなかった。
だが、これからは。そうだ、自分で決めていい。
「クリス、様」
ためらいがちなジョージアナの声は、驚くほど透明で甘く響いた。クリストファーがホッとしたように口角を上げた。
「これは、私は親しい友人と愛する人にしか呼ばせない。もちろん、愛する人とは君のことだ、ジョージィ。クラリッサ嬢ではなく」
「まぁ」
「彼女に感謝せねばな」
そしてクリストファーはクラリッサに頭を下げた。クラリッサは涙を流していた。それが感動していたからなのか、後悔からなのか、それとも、肩の荷が下りたからなのかは、ジュリアンにはわからなかった。わかることは、二人が両親からの重圧をはねのけたことだけだ。
「本当に……? 私を……?」
ジョージアナの震える声に、新たな確信の響きがあった。クリストファーは嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、そうだよ。私は君を愛している」




