表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

31 そんな都合のいいこと、ありえない

ジョージアナ

 ジョージアナは目を丸くした。ありえないわ、と言葉を出しそうになって、口が開かないことに気がついた。あまりのことに喉が張り付いたように声が出ない。


「こんな風に伝えるつもりじゃなかった。でも、信じて欲しい……私はクラリッサ嬢ではなく、君と結婚したいと思っている。ずっと結婚には愛なんていらないと思っていた。そう、ジョージアナ、君に会うまでは」


オロオロと頬を染めるジョージアナに、クリストファーはやや緊張した面持ちで微笑んだ。


「君はジュリアンと結婚するのだと思っていたから、諦めるつもりだった。でも、悪あがきをしたかった。クラリッサ嬢を歓迎したのは、彼女と話し合って婚約を解消し、君に改めて求婚するつもりだったからなんだ」

「まさか……」

「そう思うのも当然だろう。だが、……クラリッサ嬢と婚約をしている限り、他人に愛情を示すわけにいかない。そんな状態で君に愛を告白しては、君に迷惑がかかってしまうだろう? 私は君を愛人にしたいわけではないからね。だから、私は身動きが取れなかった。自分の浅はかさを呪ったよ。私が、自分がどんな人を愛せるのか考えもしないで、婚約するなんて」


ジョージアナは目眩がした。そんなに都合のいい話が、あるはずがない。


ジョージアナが怯えて身を縮めていると、ジョージアナの肩に、クラリッサの手が支えるようにそっと置かれた。温かい。


「それは本当ですの、クリストファー様」


ジョージアナの耳元で、クラリッサの声がした。見ると、クラリッサは蒼白でクリストファーを見ていた。鋭い視線は迫力があったが、クリストファーはそれをしっかりと受け止めて、頷いた。


「本当ですよ」

「冗談や酔狂じゃありませんのね?」

「もちろん、よく考えた」


神妙な顔で頷くクリストファーを、クラリッサはじっと見つめていた。


ジョージアナから見ても、クラリッサは美しく、魅力的だった。泣いて目の周りが腫れていても、ボビーの腕の中にいても、いつだって、クラリッサは華やかで輝いていた。


きっとクラリッサには、誰もが魅了され、……きっと先ほどの腕の中からでさえ、クラリッサを奪いたいと思うだろう。そう、ボビーの腕の中から、例え、二人が駆け落ちしたとしていても。理屈じゃないのだ。


それなのに、クリストファーは奪い取ろうとはしなかった。近くに寄りもしなかった。その上、自分と結婚したいという。どう見たって、クラリッサの方が魅力的なのに。どうしてなのか、さっぱりわからず、ジョージアナはひどく動揺した。


しばしの沈黙の後、クラリッサが意を決したようにクリストファーを見た。


「それなら、私、信じますわ」

「クラリッサ! 何を言うんだ!」


クラリッサの断固とした言葉に、父ベイルが咄嗟に反応した。それに続くように、母モニカが声を張り上げた。


「おやめなさい、クラリッサ! 侯爵様は混乱なさってるんだわ! あなたが選ばれないなんてありえないもの!」

「そうだ、よりによってジョージアナなんて! クラリッサ、お前は私たちの大事な娘だ。私たちが手塩にかけて育てた社交界の華だぞ!」


違う、違う。クラリッサが欲しい言葉はそれじゃない。ジョージアナはクラリッサの横顔を見ながら、その絶望を同じように味わった。


「いいえ、お父様、お母様。だったら、ジョージィだってお父様達の大事な娘ですわ……」


クラリッサが青ざめて言った。


「私……わかりませんわ、お父様。私と同じく、ジョージィだって選ばれるんですわ、だって、そうおっしゃったじゃありませんか」

「言ったよ、ジョージアナだっていつか選ばれる。だが、今回のはずがない。だってそうだろう? お前と比べると」

「いいえ、お父様」


ベイルの言葉を遮るように、クラリッサは首を横に振った。


「今、クリストファー様はジョージィを選びましたわ。私ではなく。どちらがどんなに優れようと劣っていようと、そんなこと関係がありません。だって、そもそも私、クリストファー様に選ばれないことを知っていたんです」


ベイルが眉をしかめた。ジョージアナはクラリッサが何を言い出すのか、気が気ではなかった。怒らせないで、もうこれ以上、その怒りの矛先が来るのは自分だ。クラリッサにではない。だから父を怒らせないで。


「どういうことだ」

「ええ、だって、私、釣り合わないんですもの! あの時、これだけの方なら、お父様もお母様も満足してくださると思った。ボビーじゃ反対されるのはわかっていましたもの。だから、クリストファー様にしようと思った。でも、私のことをよく知ってしまったら、断られてしまうと思ったから、早く進めてもらいました」


ジョージアナの肩に置かれたクラリッサの手に力が入った。いつでもどこでも、何をしていても、その華やかさに自信があったはずのクラリッサが、こんなに緊張しているなんて。


「そうです、私、自信がなかったの!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ