25 あなたの罪
ジョージアナ
そのまた数日後のことだった。ジョージアナは、家族四人で庭園でお茶をしていた。
「もうイヤ」
泣きそうな声でつぶやくクラリッサは、いくらでも甘やかしてあげたくなるくらい、いじらしかった。
「どうしたの?」
「日取りを決めようって促しても、全然ダメ。進まないの。私の花嫁修行もぜーんぜん。使用人は感じは良いけど、なんかこう、しっくりこないんだもん。もう帰りたい」
「クラリッサ……」
何かしてあげられることがあるだろうか、そう思いながら、ジョージアナはクラリッサの手に自分の手を重ねた。自分の気持ちが届かなくても、クラリッサにはどうか幸せになってほしい。
クラリッサがジョージアナの肩におでこを乗せる。その時だった。
「どうするの、ジョージアナ。あなたのせいよ」
母の言葉に、ジョージアナは、そしてクラリッサも驚いて母モニカを見上げた。
「お母様、どうしたの?」
クラリッサの言葉に、モニカは首を横に振った。
「ええ、どう考えてもあなたのせいよ、ジョージアナ。ジュリアンが入れ知恵したのでしょう。そうは見えないように振舞っているのかもしれないけど……」
「何を言うの、お母様。ジョージィはそんな悪いことはしないわ。ジュリアンだってしないはずよ。だって、いつだって私のことを考えてくれたジョージィだもの、私が嫌がることはしないの。そうでしょう?」
そうだ、自分はクラリッサが快適に暮らせるようにと手伝ってきた。これまでずっと。クラリッサと初めて離れるまで。
ジョージアナはそして今、初めて、自分がそう思っていないことに気がついた。
クラリッサのことは愛している。幸せになってほしい。クラリッサが望むように生きてほしい。……でも、クリストファーとではない。
クラリッサがクリストファーと結婚したいと望み、自分もそれを叶えてあげたいと思っているのに、心のどこかでは、実現しないことを望んでいた。
クラリッサの無邪気な信頼で、ジョージアナはそのことに初めて気がついてしまったのだった。
「ジョージィは、いつも私のために動いてくれた。だから、信じてる。今だって、本当に私の心配をしてくれてるのよ。それくらいわかるでしょ、母様も父様も。ジョージィを悪く言わないで」
「でもね、クラリッサ。純粋で可愛いあなたにはわからないかもしれないけれど、ジュリアンが野心を抱いて、あなたの結婚を潰している可能性もあるのはわかるでしょ?」
「どうしてそんなことするの? ジュリアンは優しいわよ。いつも、私とジョージィのことを心配してくれてるわ。それに、ジュリアンは出世しようと思えばできるもの。上の爵位を賜ることもきっとできるわ。お父様とは違うでしょ?」
無邪気な妹よ。
ジョージアナの胃がキリリと痛み出し、居心地の悪さに目を伏せた。
父が目の端で顔を青黒くさせて憤っているのがわかる。でもそれは、クラリッサに対してでも、自分の能力に対してでもない。
「ジュリアンというやつは……! クラリッサを丸め込むなんて、たいした出世頭だよ!」
憎々しげな父親の言葉に、クラリッサは怯えたように身を引き、ジョージアナにぴたりとくっついた。その様子を見て、父はジョージアナに目を移し、冷ややかに見つめた。
「お前もだ、ジョージアナ」
冷水を浴びせられたというのは、こういう気持ちをいうのだろうかと、ジョージアナは呆然とした。
「私は……何も……」
「クラリッサのために動けてるというのか? その体たらくで?」
すると、クラリッサは不安そうにジョージアナの目を見た。
「ねぇ、ジョージィ。聞きたかったのだけど、ジョージィはいつも私のことを応援してくれたでしょ? 私が何を選んでも、応援してくれた。でも今回は違うの?」
「どうして?」
「ジョージィは悲しそうだわ。私のためを思ってる? 思ってない? 賛成してる? していない? 賛成していないなら、クリストファー様は悪い人なの? 私、間違っているの?」
間違いだなんて。
いつだってそんなことなかった。ジョージアナは思い返した。クラリッサはいつでも正しくて、自分はそれに従うのみだったから、考えなくたってよかった。クラリッサの幸せは彼女の決断に沿うことだし、それがジョージアナの幸せだった。
でも今回は、初めて、クラリッサの幸せが自分の幸せに直結しない出来事だった。
クリストファーは悪い人ではない。だからきっと、クラリッサは間違っていない。幸せになれるだろう。
でも自分は幸せになれない。だから応援できない。どうしたらいいかわからない。クラリッサの幸せが自分の幸せじゃないなんて!
「間違ってるわけないわ! ジョージアナ、あなたが悪いのよ」
モニカが叫んだが、ジョージアナは答えられず、ただクラリッサと見つめあった。




