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22 使用人食堂にて

ウィル

「これじゃあんまりよ」


エレインがため息をつき、ウィルは励ますようにコーヒーをエレインの前に置いた。エレインは思い切りよくそれを飲み、深く息をついた。


「早速奥様気取りで……悪い方じゃないでしょうよ、自信があるだけ。それも奥様としてはそれなりに必要なこと。だから何?」

「エレイン……俺たちは主人の、……クリストファー様の決断に従うしかないんだ。今以てご主人様は何もおっしゃらない。契約は続行。クラリッサ様が次の奥方だ」

「クラリッサ様しかいらっしゃらなければ、別に仕方ないけど! 根性あるし、何とか誘導できると思う」

「じゃ、何がいけないんだ?」

「でも、クリストファー様は絶対にジョージアナ様を愛してらっしゃるのよ。あんなに優しいお顔、見たことがないもの。ジョージアナ様だって、お綺麗になって、いつもクリストファー様を目で追ってらして……両思いじゃないの! どう考えても! なのに、どうして?」

「気持ちだけではどうにもならないんじゃない? そういう方がご主人様のところへ愚痴りに来るのを、見たことがあるよ」

「でも、だからって」

「クラリッサ様でもいいって、言ってたじゃないか、君は」

「いいわよ、別に! でも私はジョージアナ様の方が好きなの! これは仕方ないのよ、フィーリングよ!」

「いっそのこと、辞職して、ジョージアナ様の侍女として、正式に雇ってもらえば? このお屋敷の”侯爵夫人の侍女”じゃなくて」

「できたらどんなにいいか……でも亡き奥様と約束してしまったもの、クリストファー様の奥様をサポートするって……不器用な坊ちゃんが仲良くできるようにって」


自分より年上の旦那様を、平然と”坊ちゃん”と呼べるのは、なかなかにエレインらしい。


「それなら、できるよ。クラリッサ様は社交家だし、クリストファー様のことは、少なくとも外見上は好きなようだし、勉強だってしているだろう?」

「う……それでも、高慢ちきな方は苦手だもの。前の奥様は自信があったけど、驕ることはなかったわ。『おいおいやっていこう』って、何よ。やらせるかっての。それにね、タペストリーだって、大切な先祖代々のものなのよ、あれ、知ってる? 王家から頂いたものなのよ? あれを見にいらっしゃる方もたくさんいるんだから。それを知らないで、勝手なことばっかり」


やれやれ……と、ウィルはため息をつかざるをえなかった。


クラリッサの滞在で、使用人達のストレスは増えるばかりだ。エレインの言う通り、最初から彼女なら、きっと問題はなかっただろう。だが、自分たちはジョージアナに出会ってしまい、慣れてしまった。彼女に期待し、納得してしまった。クラリッサが、ここの使用人にとってジョージアナ以上の存在になれればいいのだが、今の状態だと、なかなか難しい。


「旦那様は、本当に結婚してしまうのかしら」


悲しそうにエレインが言う。ウィルも反対したかったが、それを言う立場にない。この屋敷にいる、誰も。ジュリアンだけができると思ったが、自分が言っては意味がないと、沈黙を守っている。売り言葉に買い言葉で、結婚しなきゃならないっていうのに、のんきなものだ。


そこで、ふと思いついて、ウィルはエレインに声をかけた。


「エレインこそ、どうなんだ。クリストファー様とジョージアナ様がうまくいけば、君はジュリアン様と結婚できるんじゃない?」

「無理よ! あんな素敵な方、無理でしょ!」

「そう? 二人ともお似合いと思ったけどな……」

「だって私、侍女よ? 仕事女なんて妻にできないわよ、貴族が」

「なんで。君、男爵令嬢だろ?」

「それは、侍女になる前よ。私の家はそんなに裕福じゃないから、見初められなければ働くしかないでしょ」

「誰も見初めなかったの?」

「誰も」


ウィルは軽くため息をついた。


「残念、ジュリアン様にもっと早く会っていれば……」

「やめてったら」

「ジュリアン様もそう思ってるかもしれないよ。あの方、もっと伊達男っぷりを鼻にかけた嫌な人かと思っていたけど、柔軟だし、クリス様ともうまくやれてるし、いいと思うけどなぁ。次男みたいだし、この屋敷でそれっぽい仕事で雇ってもらえるんじゃない? そしたら、同僚だよ」

「ウィル、本当に」


エレインが怒りかけた時、ドンドン、とドアの音がした。




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