21 倉庫での邂逅
ジョージアナ
ジョージアナは古いタペストリーに囲まれた薄暗い室内で、ぼんやりとしていた。
クラリッサの言うことはもっともだ。だが納得いかないのも確かだ。前はクラリッサの言うことは全て正しかったのに。
一体自分はどうしちゃったのだろう? クラリッサの言葉に疑問を持つなんて?
「……ジョージアナ?」
顔を上げると、クリストファーが戸口に立っていた。
「こんなところで何を?」
「クリストファー様こそ、倉庫へはこられないんじゃなかったのですか?」
久しぶりに名前を呼ばれた。嬉しくて心臓が飛び跳ねそうだったが、ジョージアナはかろうじて平静を装った。それ以前に、クリストファーがこないと思って、一人になりたくて倉庫に来たのに。
クリストファーは、急に入った暗がりに少し戸惑いつつ、キョロキョロと辺りを見回した。
「……探し物をしていてね。執事に頼んだら、しぶしぶ許可してくれたよ」
「まぁ。なんでしょう? 私もお探しできるものかしら?」
「ああ、……花瓶を。ちょうどいい大きさのものがあるといいんだが」
「お花を?」
「クラリッサ嬢の部屋にね」
「……そうですの」
「君の部屋には、すでに花瓶も花もあるからね」
「クラリッサの部屋にはありませんでしたか?」
「なかったよ」
「あら。それでは、私、確認しそびれてしまったんですわね。エレインにも言われていたのに」
でも、自らクラリッサの部屋の花瓶を探しにくるなんて、大切に思っているんだわ……
ジョージアナが言うと、クリストファーは優しい笑みを浮かべた。
「部屋を整えてくれてありがとう、ジョージアナ。私にはわからないことばかりで、助かったよ。今の君の部屋は、快適かい?」
「ええ、この上なく。本がたくさんあるんですもの。部屋の色もとっても素敵で」
「クラリッサ嬢も、気に入っているみたいだったよ」
「よかったですわ。クラリッサが好きな色やものを集めてみましたの」
「そうか……」
少し寂しそうに見え、ジョージアナは心配になった。クラリッサのことが、まだよくわからないからかしら。でもすぐに私よりもずっと、知ることになるのだわ。
そこでジョージアナは目に映った花瓶に無理やり意識を向けた。
「あの花瓶はどうですの?」
クリストファーが振り向き、考え込むように顎に手を当てた。
「ちょっと大きいかな。そんなに多くはないらしいから」
「そうですの? 私の部屋の花も、いつも素敵にアレンジしてくださってて、とても楽しみなんです」
「そうなのか? 私が適当に選んでいるものだから、いつもメイド長には怒られているんだがな……」
「まぁ。あのお花はクリストファー様が?」
「あの部屋の花なら、私が選んでもいいと言われていてね。他の部屋は雰囲気が違いすぎて選ばせてはくれないんだ。玄関でさえもだよ」
「それでしたら、あの部屋は特別ですのね」
「あはは。そうだね……」
クリストファーが笑う。
何て幸せなんだろう。クリストファーが選んだ花の中で、自分は過ごしているのだ。考えてみれば、自分の部屋も彼が選んで用意してくれたのだ。クラリッサの時は自分では用意しなかったのに。それはもう、ジョージアナというクラリッサをよりよく知る人物がいたからだけれど……
「あ……こんなところに」
「どうなさいました?」
「花瓶はなかったけど……ペンダントがあった」
「あら、まぁ! とっても素敵。クリストファー様のお母様のものですか?」
「そうだね。母が……いいことを思いついた。これを君にあげよう」
「えぇ?! 頂けませんわ、そんな高価なもの」
「いや、もらってくれ。君には迷惑をかけたし、不自由な思いもさせてしまったから。せめて、償いとして、もらってはくれないだろうか。誰にあげても構わないよ」
クリストファーからのプレゼント。たまたま見つけたものだとしても、なんだってジョージアナには宝物に見えた。たとえ使えなくなった万年筆でも、小さな石ころでも。
「……そういうことでしたら……」
誘惑に負けて、ジョージアナは頷いた。クリストファーがホッとしたようにジョージアナの手にペンダントを渡した。
「ジュリアンにはあとで許可を得ておくから」
「ジュリアンに? どうしてですか?」
「必要ではないの?」
「あまり気にする人ではないと思いますわ。施しとも思わないでしょうし……」
ジョージアナは不思議に思って首を傾げた。滞在記念としてもらったと言えば、鼻で笑って終わるはずだ。そんなものもらって嬉しいの? と。
嬉しいわよ、嬉しいわ。思い出を糧に生きていくんだもの。
部屋に戻りかけ、ジョージアナははたと気がついた。
居間などイメージチェンジはしたけれど、部屋の位置は変わっていない。
クラリッサの部屋も、客室の一つを、新たに装飾を入れ替えただけで、自分は移動していなかった。
妻となる人のための部屋だと言っていたのに。
クリストファーに言おうかと思ったが、何度か再考の末、諦めた。せめて用意された部屋を楽しみたい。この屋敷を出て行く日まで、夢を見ていたい。それくらい、構わないでしょう?
クリストファーが選んだ花が飾られているのも、嬉しかった。
エレインもおらず、ずっと一人で過ごしているけれど……少なくとも、あの花があれば、ぬくもりだけでも感じられるだろう。……少しだけでも楽しもう、お屋敷も本も、気兼ねなく好きなだけ触れることができた、それだけでもありがたく思おう。家に帰っても、この思い出だけで生きていける。
そして、それがあれば、せめて本だけでも、好きに読めるように親に頼める気がしていた。




