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02 置き手紙

ジョージアナ

駆け落ちするくらいなら、なぜ他の人と婚約をしたのだろう。


ジョージアナにはさっぱりわからない。


それというのも、双子で同じ顔をしているのに、性格があまりにも違ったからだ。クラリッサは明るくて社交的で、ちょっとわがままなところも、甘え上手なところも、可愛らしく、社交界でも引く手数多だ。


逆に、ジョージアナは人付き合いが得意ではなく、本が好きで引きこもりがちだ。家にいるおかげで、家の仕事や礼儀作法、勉強などは誰をも唸らせるほど完璧に仕上がっているが、何しろ、それを披露する場面がない。舞踏会も好きではなく、父も母も、そんなジョージアナにはかまってこない。


母によく似た彼女は、両親からとても可愛がられ、舞踏会などには、必ず連れて行く。クラリッサのおかげで、ジョージアナは本当に助かっていて、いつも感謝していたし、もちろん、ジョージアナもクラリッサが好きだった。


侯爵との結婚は、クラリッサがそうやって、両親とともに行った舞踏会で、持ち上がった話だった。まだ会話をほとんどしていないが、侯爵に一目惚れしたクラリッサが父に言い、侯爵に打診したはずだ。その侯爵は、周囲にクラリッサを勧められ、その場で決めたという。


「どうした、二人とも。クラリッサはどこにいる?」

「お……お父様」


ジョージアナの父、スペンサー子爵ベイル・ウィルクスが悠々と部屋に入ってきた。そして、足を止めた。


「クラリッサは?」

「……こちらをご覧ください。叔父上」


ジュリアンが差し出した手紙を見た子爵が、難しい顔をした。


終わった。


ジョージアナは覚悟して唇を噛んだ。


クラリッサの管理もできないなんて、と怒られるだろう。


「ジョージアナ……知っていたのか?」

「何をです?」

「クラリッサの、この……お相手だよ」

「ええ、まぁ……」

「ジュリアンは?」

「僕ですか? 恋人がいたことなど、知りませんでした。でなければ、この結婚話に賛成などしませんでしたよ」


ジュリアンが肩をすくめる。


知っていたからといって、何ができたとも思えない。ジョージアナは冷静に思った。計画を教えてもらったとしても、ジョージアナが反対したところで、聞いてくれたとは思えなかった。


だが、もしかしたら、クラリッサが、ジョージアナではなくジュリアンに、恋人の話をしていたら、状況も変わっていたかもしれない。ジュリアンは社交界でも伊達男として浮名を流す人気者だ。クラリッサが爵位や侯爵本人に惹かれて盛り上がる前に、ジュリアンが諭してくれたかもしれない。


でもきっと、それも意味がないだろう。侯爵との結婚も、想い人との駆け落ちも、クラリッサが自分で選んだことで、自分たちは何一つ、話を聞いていない。そして、ジョージアナたちにとって、そういう気まぐれが可愛かったし、クラリッサの魅力だったのだ。


「クラリッサ……そんな……私は……お前のためを思って……」


父が頭を抱える。


そうでしょうとも。いくら侯爵が父より年下でも、話しかけるのを躊躇するような地位の高いお相手だ。それなのに、娘を勧めるくらいだもの。


ジョージアナたちの父、スペンサー子爵にとって、娘二人は道具だった。だが、クラリッサのことは本当に可愛がっていて、できるだけ願い事は叶えてあげていた。有利で幸せな結婚を、と考えていたのは明白だし、子爵であるベイルが、侯爵に打診するなんて、クラリッサの美しさと評判の良さに自信がなければできないことだ。


良い結婚が身分の高いお相手と結婚することだと、決まったわけではない。けれど、ベイルが無理したのも、クラリッサが望んだからなのだ。


でもそれも、愛娘が侯爵夫人になるなんて、こんなに名誉なことはないと、打算も入っていただろう。

なんとしても、嫁がせたかったはずだ。


特に母は。


ジョージアナはため息をつきそうになった。


そう、母のモニカに至っては、自分の妹に対抗するためのお飾りだ。モニカの妹は、伯爵と結婚をして、幸せにしているが、結婚後の生活が違いすぎてると母は不満そうだ。そのために、クラリッサをどうにかいいところへ嫁がせようとしていたのは知っている。


反対に、使えないジョージアナには、どこか爵位の高い令嬢の侍女や家庭教師やコンパニオン、そのあたりに落ち着いてもらおうと思っているだろうから、お相手選びはしていなかっただろうけど。


だから、今回の結婚の話は、三人にとって、最高で最良の縁談だったはずだ。


ベイルは手紙をジョージアナに渡すと、ドアに向かってよろよろと歩き出した。


「少し、考えさせてくれ」


ジョージアナは父が出て行ったドアを見送り、手元に戻ってきた手紙をもう一度見た。


『侯爵は、素敵な方ですが、あまりお優しくないと聞きました。それで、私、怖くなったのです』


そのような噂があるとは、ジョージアナはよく知らなかった。でも、クラリッサもその話はしていた。でも、彼女はこう言っていたのだ。


『それでもかっこよくて優雅で素敵だから、構わないわ。爵位も高いし。この歳で侯爵夫人なんて、最高じゃない!』


ジョージアナは心配で、本当にそれでいいのかと何度も聞いたが、クラリッサはそれでいい、と言っていたはずだ。


一言、相談してくれれば。


行ってしまう前に、言ってくれれば。



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