16 華やかなる台風
ジョージアナ
クラリッサが、両親とともにやってきた。ついに。
「お待たせいたしましたわ、侯爵様!」
華やかな笑顔に可愛らしい声が響き、この屋敷が一気に明るくなった気がした。
やっぱり、クラリッサのような人が、この屋敷の奥方には相応しいんだわ。
ジョージアナは思いながら、クラリッサを迎えた。クリストファーが玄関先に立ち、使用人も総出で彼女を迎え、自分の時とは大きな違いである。それは当たり前のことなのだが。
「ようこそいらっしゃいました、クラリッサ嬢。我が家を楽しんでください」
クリストファーが当然のようにクラリッサの手を取り、手の甲にキスをした。クラリッサがうっとりとクリストファーを眺める。本当に二人は絵になる。
そんなこと、してもらったことがない。当たり前だ、自分は待ち望まれたお相手ではないのだから。
ジョージアナは鈍い胸の痛みに耐えながら、いたたまれなくなり、目を逸らした。
そこへ、早速と言っていいくらいに、クラリッサが駆け寄ってきた。
「ジョージィ! 良かったわ、いてくれて。とても心配していたの。あなたなんかに代理が務まるのかって。でも杞憂だったわね、どうもありがとう」
嫌味の一切ない笑顔が、逆にジョージアナを暗い気持ちにさせた。クラリッサはジョージアナを疑ったことがない。そしてまた、ジョージアナがクリストファーに好かれる可能性など、みじんも考えていないことがわかる。それは正しいけれど。
「クリストファー様、ご案内をお願いしたいと思いますの。ジョージィと一緒でもよろしい?」
「はい、もちろんです」
言いながら、クリストファーは頷き、執事に声をかけた。
「すまないが、二人を案内してあげてくれないか。私はご両親を案内しよう」
「まぁ。お父さまもお母さまも、みんな一緒でよろしいんですわよ?」
「そうですか? だが、二人で積もる話もあるでしょう。ジョージアナ嬢がここにいた間に何をしたか、案内してもらうといいと思いますよ」
「そうね! それがいいわ。素敵、ジョージィ、お願い」
「……いいわ。行きましょう」
ジョージアナは不思議に思いながらも、ホッとしていた。会ってすぐに、二人が仲良く肩を並べる所など見たくない。
ジョージアナは後ろにエレインを従え、クラリッサと並んで廊下を歩きながら、ポツポツと説明をした。家の作り、ちょっとした歴史、食事などのことを。
「あなたの説明って、とってもわかりやすいわね。やっぱりあなたに頼んで正解だったわ。もっといろんなことを教えてね、ジョージィ」
「ええ、もちろんよ」
頷いたジョージアナに、クラリッサは踊るように歩きながら、屋敷を見回し、壁紙や調度品をうろうろと眺めた。
「それにしても、このお屋敷は随分と陰気ね、ジョージアナ。見てよこれ。古くさくってたまらないわ。私、もっと新しくて綺麗なところが好きよ。飾りだけでも変えられないかしら? それはおいおいやっていこうっと。あぁ、庭は素敵だけど、広すぎね。どこに何があるか、覚えるのが難しそうだわ」
ジョージアナはハラハラしながら聞いていた。一緒に歩いているのはエレインと自分だけだから、そこまで問題はない。だが、庭師がとても丁寧に手入れをしてきて、さらにまた、クリストファーが大切にしてきたものである。クラリッサのように考えるなど、ジョージアナには到底出来なかった。
「でも、ここでお茶会をやったら、きっと素敵でしょうねぇ……女主人として鼻が高いわ。ちゃんと庭のことも覚えなくっちゃ。あら、エレインと言ったかしら? あなた、無愛想ね。ジョージアナに感化されてはダメよ。私の侍女になるのなら、もっと笑顔が可愛く優しい人にならなければ。せっかく顔は可愛らしいんだから、ちゃんと活かすのよ」
庭を見ながら振り返ったクラリッサが、エレインを見て子供を注意するように指を立てた。エレインは無表情にクラリッサを見た。
「ジョージアナ様はそういう方ではありません」
「ほら。主人に逆らうなんて、ジョージアナ、一体どんな指導をしたの?」
自分に軽く振り返るクラリッサに、ジョージアナは俯いて謝った。
「クラリッサ、ごめんなさい。私、あまり強い態度に出られなくて」
「そんなんじゃ、侯爵夫人なんて務まらないわよ。ほらね、やっぱり私が来て良かったじゃない。それなりの器が必要だもの」
「ええ、そうね」
ウフフと笑い、クラリッサはまた身を翻した。今度は壁にかかる大きなタペストリーに目をやった。歴史の一場面を織り込んだ、手の込んだ素晴らしいタペストリーだ。職人の意地と誇りが見え、その重みに感動する。だが、それも、クラリッサにかかれば、軽くいなされてしまうものだった。
「やぁね、このタペストリー。悪くはないけど、古臭いわ。手入れされてるからって、オシャレじゃない感じ。もっとオシャレなタペストリーに変えるといいのよ。もちろん、絵でもいいわね。絵画なんて、とっても素敵。ロマンティックな絵を描いてもらってもいいわね。私とクリストファー様の」
「ええ、……きっと、そうね……」
クラリッサが頼むならきっと、クリストファーは手放しで喜んで変えてくれるだろう。
伝統や特産品を、自分で使う必要はないのだから。




